瑛太の嫉妬
晴れて大学の入学式、そこには思ってるよりいや、とても多い人数に圧倒された。 凛も少し緊張していた。今日の朝は瑛太とずっとくっついて回るんだと言っていた威勢が嘘のように萎縮している。
式典は席が自由だったので俺の両サイドには凛と伶奈が居た。伶奈と凛の美女に挟まれている俺は注目されてしまった。まぁ俺ではなくて凛と伶奈にだけど……
この前出掛けた時に買ったスーツで式典に参加しているのだけど凛と伶奈はかなり色っぽい、なんだか大人の色気を纏っているような制服とは別物な感じだ。
式典が終わりひと息ついた所で伶奈の隣に居た柊が伶奈をまじまじと見ていた。どうかしたのかな? 伶奈も柊の視線に気付き不思議そうな顔をしていた。
「柊君、どこか私変……かな?」
「あ、いや。 凄く綺麗だなって思って」
「え? フフッ、なんか照れちゃうね。 瑛太君にもそう見えるかな?」
「ん? あ、ああ。 とっても似合ってて綺麗だよ」
凛がムスッとして私は? と聞いてくるけど凛も綺麗だよと言ったけど伶奈にも同じ事言ったので若干不満そうだ。というより柊は元がかっこいいからスーツ着てると更にイケメン度が増すな、伶奈と凛と並んでも違和感ないくらいだ。だけど無愛想さで損しているけど。
俺がこの2人に囲まれているとなんだか場違い感が半端じゃないなぁと少し卑屈になってしまう。俺はこの数日間で引っかかっていた違和感に気付いた、確信したのは柊が凛を線路に落ちそうになった所を助けた時。
あれから柊は凛に態度が少し柔らかくなった気がする…… 凛もそうなのだけど助けて貰ったってのがあったからだと思う。 でも柊は伶奈が好きで、今でもそうなんだと思う。だけど自分自身に自信がない俺は軟化した態度の凛に少し焦りを感じているのも事実でそんな風に思ってしまう自分が許せないでもいた。
今も凛は伶奈ちゃんも可愛いけど私だって可愛いでしょ? と柊に問い掛けている。 柊はそれに対しそうだなと返す。
「えへへ、可愛いって瑛太!」
凛が満足そうに俺にニッコリと笑い掛ける、俺も凛に笑顔でよかったなと返すけどやっぱり何か余計な考えが巡ってしまう。凛が大野とトイレで抜ける、すると俺の様子に気付いたのか伶奈が俺に問い掛ける。
「瑛太君、なんかぎこちないよ? 入学式で緊張してるってわけじゃなさそうだけど…… 凛ちゃんと何かあったの?」
「え? 俺ってなんか変だった?」
「うーん、なんかね。凛ちゃんも何も言わないけど気付いてると思うよ? だから安心させてあげた方が…… 私でも良かったら相談に乗るよ?」
そんな伶奈の言葉にありがたいなと思ってふと辺りを見渡すと柊がいない。 さっきまでいたと思っていたのにどこ行ったんだ?
「柊どこか行ったのかな?」
「あれ? さっきまでいたのにね……」
俺と伶奈がキョロキョロとしていると伶奈が柊を見つけたようだ。 凛と大野も一緒だ。遠巻きに見ると凛と大野と柊は笑顔で楽しそうに喋っている。2人とも本当に仲良くなったよな……
これは嫉妬だ、俺は凛と柊は仲悪かったしこんな感じで笑顔で楽しそうに話す事はないって思ってた。だけど凛にとってもそれじゃあダメなんだと自分に言い聞かせて、でもどこか安心していたんだ。
「…… そういう事か」
伶奈が俺の様子を見て何かを察した様に言ったので伶奈に振り返る。俺は今いったいどんな顔をしてるんだろう……
「瑛太君、大体考えてる事わかったよ? 柊君と凛ちゃんが仲良くしている事が嫌なんでしょ?」
「俺って見苦しい奴だよな…… 柊はああやって笑っていたら凄く爽やかな奴に見えてそんなあいつに凛も惹かれるんじゃないかって思って。 でもそれって俺が凛の事を信用してないって事だよな」
「瑛太君、別にそう思うって事は悪い事じゃないよ、だってそんなに凛ちゃんの事が好きなんでしょ? 私そんなに瑛太君の気持ちを動かしてる凛ちゃんがとっても羨ましい…… 私こそ見苦しい奴だよ」
「そんな事ないさ、伶奈だって真っ直ぐに俺の事見ててくれただろ?煮え切らない俺を待っていてくれたし……」
そして程なくして新学期の説明などを受けこの日は終わりになった。
伶奈は凛も俺の様子が少しおかしい事に気付いているじゃない?と言っていたが凛はそんな様子を見せない。というか俺がそんな風に見える事がおかしんだよな……
凛がいつか柊に言っていた。そんなんじゃ柊が伶奈に嫌われちゃうよと言っていたな。あれは俺にも当てはまるなと自嘲する。
帰るついでにどこかで買い物でもしてファミレスに寄ろうという事になり、モールに立ち寄った。
伶奈はさっきの事が気になるのかいつもより俺に寄り掛かってくる。 それを見て凛は毎度の如く自分の方へ俺を引っ張る。
「おいおい、どうでもいいけど周り見てやれよな」
モールの中でそんな事やっているから凛が引っ張る方向に人がいたので柊は凛の肩を掴みぶつからないように止める。
「あ、ありがとッ!」
凛が少し照れた様に柊にお礼を言った。伶奈が言ってた通り柊はよく気が利く、よく周りを見て行動できる奴なんだ。だから凛が危なかった時も間に合ったし今もそうだ。
「あはは、助けて貰っちゃった」
「な? 柊も言ってるように危ないから程々にしろよ」
凛はうんと言って俺の腕に抱きついてくるけどなんかモヤモヤする。柊が悪いってわけじゃない。 凛を助けてくれたりむしろ感謝してるくらいなのに。
その後ファミレスに行き解散になった。凛は俺の家に寄って帰ろうかなと言ってたので一緒に家に向かう。
そして駅から出た所の帰り道、凛は少し黙っていたが……
「………… ねえ瑛太、何か私瑛太に何か怒らせるような事したかな?」
「え、なんで?」
「…… だって。だって最近瑛太ずっと上の空なんだもん! 今日だってなんか違和感あって」
伶奈の言う通り凛も何か変だと思ったんだな。 でもその原因を凛に言いたくない。 俺ってそんな奴と思われたくない自分と聞いてしまってスッキリしたい自分がいる。
「ねえ、何か私がしたなら謝るから、いつもの瑛太に戻って?」
「やっぱこんな俺じゃ柊の方が良く見えるよな?」
「え? ……もしかして柊君の事で?」
自分でもこんな事言うつもりじゃなかったのに俺の口からはそんな言葉が出た、今ならまだ引き返せる。もうよせと思う反面俺はまた言ってしまった。
「なんか最近は俺といるより柊と話してた方が楽しそうに見えたんだ。柊は俺より出来た奴だと思うし、だけどそんな事思うって事は俺は心のどこかで凛を疑っていたのかもしれないんだ、こんなに付き合って凛の事をずっと見てたのにな」
「え、瑛太、どうしてそんな事言うの!? 瑛太が嫌なら柊君とはなるべく話さないようにするから!」
「それこそ俺は最低だろ! なんで凛が俺の事でそこまで縛られなきゃいけないんだ? 」
「だ、だって……」
その後気不味くなってしまい帰り道の途中で俺と凛は別々に帰ってしまった。




