柊の訪問
高校を卒業してなんとか志望の大学に入れてホッとしていた。 伶奈は俺と凛が行く大学に一緒に入りたいと言っていたので3人とも晴れて同じ大学に進学する事になった。
伶奈としてはこの瞬間を待っていたのだろう、引っ越す前に言った通りに昔の地元にまた戻ってきた。 伶奈だけでなくあっちで伶奈と友達になった子も付いてきたのだから余程仲良くなったのかな。伶奈だったらもっと上の大学に余裕で行けるのに俺達と一緒で本当にいいのかとしつこく問いたけど伶奈的にはそれでいいらしい。
言ってて悲しくなるけど進学する大学は比較的俺達の地元ではそこそこな大学だけど伶奈レベルが行くには物足りないだろうなぁと思う。
「高校もやっと終わったねぇ瑛太」
「まぁ案外あっという間だったな、それにしても凛も伶奈も俺と同じ大学に入るなんて思わなかったな。伶奈はともかく凛も合格できてよかったな」
「私が瑛太と違う大学行くわけないでしょ、瑛太に置いていかれないように頑張ったんだから!」
「ああ、凛が頑張っていた所ちゃんと見てたよ」
まぁ同じ大学に行ったとしても授業とか毎日毎回バラバラじゃないのかというのもあったけど出来るだけ同じにするなんて言ってきたけど流石にそれはどうかと思ったけど伶奈は今までずっと我慢してきたからこれ以上は嫌なんて言うし凛も尚更一緒にいたいと押し切られてしまった。
そこまで言われると俺もなんとも言えない所が情けない。 それはそうと伶奈の友達の子と一緒に伶奈の事が好きな柊っていう男子も伶奈達と一緒にわざわざ引っ越してきたのだ。
伶奈の友達にはからかわれまくっているが柊からは非常に強いライバル視線を感じるのは伶奈が俺の事をまだ意識しているからなんだろう。今日は伶奈の家に行く予定だ、伶奈が強い意志で戻ると引っ越しする前から言っていたので伶奈の両親は家をそのままにしておいたのだ。
そしてこれ幸いと伶奈の友達も伶奈の家に一緒に住む事となった。柊だけはアパートを借りたようだが……
「伶奈ちゃんの家かぁ、あの時以来だねぇ」
「そうだよな、結構経ってるのに来てみると昔に戻ったみたいな感覚になるよな」
伶奈の家の前まで来て俺と凛は2年くらい前に伶奈とのお別れはここでしたんだと感慨深くなっていた。
あれ? でも家をこのままにしといたんなら来た時に凛の家に泊まらなくても…… なんて考えたが1人でここにいるのもなんだかと思うし凛の家からの方が俺の家に近いし無駄な電車賃も掛からないし当然かなんて考えていると伶奈の家の玄関が開いた。
「瑛太君、凛ちゃん見えてたよ、どうしたの?ボーッと突っ立って。てか凛ちゃん見違えた。ショートも似合ってるねぇ、じゃあ入って入って! 美香も待ってるよ」
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「あ、ああ。 懐かしいなって思ってさ」
「あ、瑛太に凛! 少し大人っぽくなったわねぇ、凛なんか髪の毛大分短くしたんだね、でも似合ってるよ」
凛は高校卒業した途端セミロングの髪をバッサリ切ってショートにした。 伶奈と被っちゃうし心機一転の意味を込めてなそうだ。
「えへへ、いいでしょ? 髪の毛洗うの楽チンなんだぁ」
「そりゃあそうだけど色気もへったくれもないご返答ありがとー。 それにしても伶奈には本当感謝だよ、今日からここで暮らせるなんて! しかもタダで。柊もここでシェアしてあげれば良かったのにねぇ伶奈?」
「……う、流石に男の子はちょっと」
「そんな事言って瑛太だったら喜んで泊めるくせに〜、柊も報われないわねぇ。と言うより伶奈も諦めないわね」
伶奈の家のリビングで少し俺達が雑談しているとインターホンが鳴った。 もう1人来る予定になっていたのだ、まぁ柊なんだけど突っかかるように俺に接するから苦手なんだよな、理由はわかってるけど……
伶奈が玄関から柊を連れてくると柊はここのメンツをみて俺が居るのを確認するとあからさまに嫌そうな顔をしている。ああ、俺もそうなると思ってたよ……
「広瀬も居たんだな…… まぁ居るとは思ってたけど」
ならわざわざ言うなと言いたいけど伶奈の引っ越し先に遊びに行ってた時からこんな感じなので慣れたと言えば慣れたんだけど、そんな事言うと伶奈もムッとするから気不味くなるんだよなぁ。
「柊君! 瑛太君にそんな態度とってほしくないって前から言ってるよね?」
「あー、えとゴメン……」
「あはは、伶奈の言う事も一理あるけどその原因を作ってるのも伶奈なんだよねぇ、まぁこればっかりは伶奈の気持ち次第だしなんとも言えないんだけどね」
大野がコソッと俺達に言ってくる。
まぁ俺も当事者みたいなもんなのでなんとも言えないので苦笑いをする。
「伶奈、まだ越してきたばかりだろ、荷物とかあるなら手伝おうか?」
「岸本、だったら俺が手伝うよ」
変な雰囲気になる前に話題を変えようとしてくると柊が張り合ってくる、これもよくある光景だった。
「ちょっとぉ! 瑛太の彼女は私なんだから柊君はいちいち瑛太に噛み付かない! 瑛太もおじおじしちゃダメでしょ!」
「たく…… 広瀬の彼女ならしっかり広瀬を繋ぎ止めとけよな、お前が岸本と広瀬の関係を半ば許してるから岸本も踏ん切れないんだよ」
「んなッ……!」
柊の容赦のない発言で更に場の雰囲気が悪くなってしまった。 だけど核心を突く言葉に辺りはシーンと少し静まり返る。 すると見兼ねた大野が柊をゲンコツをする。
「こら柊、今日はそんな事言う為に集まったわけじゃないでしょ。 ごめんね、このバカが雰囲気悪くしちゃって。 ほら! ムスッとしてないでごめんなさいでしょ?」
大野が強引に柊の頭を掴んで下げさせる。 だけどカチンときた凛はそれでも治らない。 伶奈も伶奈で柊の発言にムッとしている感じだったので俺は凛と伶奈を連れて伶奈の部屋に行った。
「あの…… なんていうかごめんなさい、なんか雰囲気悪くしちゃって」
居たたまれなくなった伶奈が謝ってきた。
「いや、俺の方こそ悪い。なんか俺居るとあいつの感情逆撫でしちゃうんだよな」
「え!?え、瑛太君が謝る事ないよ。 むしろ瑛太君来てくれて私嬉しいし」
「そうだよ、瑛太はいいの! 柊君のあの言い方が悪いよ、なんなのよ、あれ!」
少し雲行きが怪しくなったように感じたが凛と伶奈がリビングに戻るとこってりと大野に説教されたのか柊も少し大人しくなっていた。 これから大丈夫かな?
あいつも俺達と同じ大学で伶奈を追って来たようなもんだ。 そこまで伶奈の事を好きで俺はあいつにとって大層邪魔者なんだよな……
気付けば凛はそれからしばらくずっと柊を睨んでいた。




