冬休み後半
俺が凛とホテルに行った。辺りはもう朝方、ようやく家に着いた。 どうやら誰もまだ起きていないらしいのでそっと自分の部屋へ向かう。
そして部屋に入り一息つく。 すると俺の部屋のドアが急にガチャっと開いた。
「お兄ちゃん、朝帰りなんて随分ね? まぁ大体見当はついてるから野暮な事は聞かないけど」
「なんだよ、起きてたのか? 心配かけてごめんな」
「べ、別に心配なんかしてないもん! ただよくもまぁこんな寒い時にお出掛けしたよね、しかも凛さんと! ああ、でも凛さんは熱々だったかな?」
「野暮な事言わないって言ったくせにこれだ……」
奈々はこれでお兄ちゃんも芋臭い男からようやく大人の男になったわねと言っていたが凛との情事を思い出すとついに凛と一線を超えてしまったんだとなんだか感慨深い。
凛を家に帰るのを見届けて俺も帰宅したわけだがあいつは大丈夫だろうか? 伶奈とか起きててあれこれ聞かれてたりしてななんて考える。
朝帰りはさすがに眠いので俺は寝る事にした、凛もさすがに俺に付き合ったから帰って寝ているだろう。俺はベッドに横になり目を閉じた。
そして目が覚めた時、とても強い倦怠感に襲われた。 やっちまった、理由は明白。あんな寒い中あまり着込んでなく数時間外ほっつき歩いていたので案の定風邪を引いてしまった。
「まったく外出て風邪引いてくるなんてそれじゃあ凛さんも心配しちゃうよ?」
「ああ、まったく情けない……」
「もう冬休みも終わりなのにお兄ちゃんはこれで学校行くまで大人しくせざるを得ないわね!」
「そうなんだよなぁ、凛にも伶奈にも悪い事したなぁ」
今日もいつもの調子で凛と伶奈は俺の家に来そうだしこんな姿を見たら2人とも心配しちゃうだろう。 熱を測れば38.8度、こりゃあ具合悪いわけだ。 俺は体温計を見て再びぐったりした。
気付けばもう午後になっていた。昼も食べる気にはならずそのまま寝ているとインターホンが鳴った。 多分凛達が来たんだろう、風邪を移すといけないので今日は早めに帰ってもらうか……
予想通り家に来たのは凛と伶奈だったけど凛は知っているだけにあ〜あという顔をしていたがそこは伶奈も居たのですぐに表情を直す。
「わっ、瑛太君熱酷そうだね、大丈夫?」
「瑛太、その様子だとお昼食べてないでしょ? ダメだよ、軽くでいいから何か食べないと! キッチン借りるね? 私お粥作ってくるから」
そう言って凛はリビングの方へ降りて行った。 伶奈はリビングへ行く凛をジーッと見つめている。 そして凛がいなくなった事で伶奈は俺の寝ている隣に来て静かに額に触れた。
ん? と思い伶奈を見ると伶奈は額に置いた手を頬に移し俺に微笑む。
起き上がろうとして体を起こそうとしたけど伶奈に無理しなくていいよと言われ起き上がろうとしていた俺の体をベッドに戻す。
「伶奈?」
「瑛太君、凛ちゃんとお出掛けしてそうなっちゃった?」
伶奈の言葉に俺はびっくりしてしまって何も言えなくなる。 伶奈気付いてたのか? 凛の様子を見るに伶奈は凛にはそんな事聞いてないのかと思いつつ嘘をつくわけにもいかないのでそうだよと答える。
すると伶奈は視線を落とした。 ここまで伶奈は気付いてるんだ、凛と会って何をしていたのかも気付いてるだろう。
「やっぱりね、確信持てなかったけど瑛太君の反応見てわかっちゃったよ、あ〜、出来れば知りたくなかった……」
どうやら伶奈は俺にカマを掛けたらしい…… こんな事伶奈は知ったら気不味くなるかな? なんて思ったが思いの外伶奈は少し寂しそうな顔をしたが……
「まぁどっちかがこうなるっていずれはわかってたし…… ううん、凛ちゃんが最初にそうなるって思ってたけど」
「えーと、伶奈?」
「ショックだけど私落ち込んだりなんかしないよ、こうやって会えるだけで本当に幸せだし…… それにいつか凛ちゃんより好きにさせたいって思ってるし」
けどほんのりと伶奈の目に涙が溜まっているのが俺にも分かった。
「でも今はね、ゆっくり風邪を治して?」
「ごめんな、冬休みもう終わりで伶奈も帰らなきゃいけない時に風邪なんて引いて」
「そんなのいいよ、瑛太君が元気になってくれた方が私全然嬉しいから」
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お粥が出来たので瑛太を呼びに行こうとしたらそんな会話が部屋越しから聞こえてきたので私はドアを開けるのを躊躇った。 そっか、伶奈ちゃん気付いてたんだ…… 私が帰ってきた時には寝ているように見えたけど起きてたんだ。
会えるだけでも幸せか…… 私は瑛太と毎日会えてそれが当たり前で。 離れて瑛太を想っている伶奈ちゃん、私だったら寂しくてどうにかなりそうだ。 伶奈ちゃんって改めて強いなって思う。
会話が途切れたようなので私は遠慮気味に部屋のドアを開けた。
「瑛太、お粥出来たよ。あ、ていうか階段降りれる? キツかったら持ってこようか?」
「大丈夫、少し寝たから起きれるだろ」
瑛太はそんな事言ってるけどベッドから立ち上がるとヨロヨロしている。危ないなぁと思っていると案の定よろけて伶奈ちゃんに支えてもらっている。一瞬ワザと? とムッとなるけどそんなんじゃ私は伶奈ちゃんに比べて器が小さい女だと思われるような気がして見ないふり。
ダメだな、私って伶奈ちゃんからしたら贅沢なんだ。そんな事で腹立ててたら瑛太が伶奈ちゃんに奪われるような気がして。
前から伶奈ちゃんは何でも私の一歩先を行くくらいの女の子でそんな伶奈ちゃんを差し置いて私を選んだ瑛太に嫌な思いとか私を選んで後悔とか絶対させたくないし……
でも伶奈ちゃんは瑛太を振り向かせようと結構迫っているんだけどやっぱり伶奈ちゃんの事嫌いだなんて思わないんだよね。多少ムカつくけど伶奈ちゃんの事むしろ好きなんだ私も。
伶奈ちゃんは私とも仲良くしたいって言っていた。今でも伶奈ちゃんは私の事そう思ってくれてるのかな? 私だけ瑛太とベッタリでしかも夜中の事もあって……
明日には伶奈ちゃん帰っちゃうんだよね。凄く一瞬のように感じて、それはやっぱり伶奈ちゃんがいると前に戻ったように思えて私だって楽しかったんだ。
だから今日私は伶奈ちゃんにはっきり言おう、ありがとうって。瑛太の事も、そしてまた春休みに来てって。 ううん、今度は私達が行っちゃおうかな。
そしてそれから春、夏、冬休みは私や瑛太が伶奈ちゃんの所へ行ったりした。向こうではしっかり伶奈ちゃんの事が好きな柊君というカッコいい男子がいた。
柊君にとって悲しい事に伶奈ちゃんは瑛太にしか興味はないようだったけど。あちらの伶奈ちゃんとの友達とも仲良くなりあっちでも伶奈ちゃんが上手くやっているようで安心した。
それから幾日もの日が過ぎて私と瑛太は高校を卒業して大学生になった。




