その66
伶奈と2人きりになり暫し沈黙が訪れる。 そして伶奈がまた口を開いた。
「困るよね? いきなりこんな事言われても。 だけどね、離れてわかったの。 私もっと瑛太君といろんな事してればよかったって」
「いろんな事?」
すると伶奈は俺の隣から俺の正面に来て強引に唇を奪った。 俺はビックリして伶奈から離れる。
「いきなりごめん、凛ちゃんがいない時にズルいよね…… でも私はこんなのでも嬉しいの。 ずっと瑛太君の事想ってたから」
「伶奈…… だけど俺は今は凛と」
「わかってる。 だけど私瑛太君を諦めたつもりはないの。 瑛太君の気持ちが凛ちゃんに行ったからって、転校するってならなかったら……」
俺はこんな伶奈に何て言えばいいんだろう? 俺は何を伶奈に言っても伶奈を傷付けそうで……
俺が何も言えないでいると伶奈が俺の手を握り更に詰め寄る。そして俺の頭に手を当て自分の胸に優しく押し詰める。
「瑛太君、何も言わなくていいよ? 瑛太君の事だから私を傷付けないようにしようとしてる事くらいわかってるから。だったら何も言わないで今は私の好きなようにさせて」
伶奈は俺の事をわかってくれている。 だけどこんな事をしていたら凛を傷付けてしまう。 俺の思ってる事を見透かしているのかまた伶奈が言う。
「凛ちゃんに悪いなって考えてるでしょ? 大丈夫。 この事言っちゃうから」
「え!?」
俺は伶奈の爆弾発言に思わず声を上げた。 マズい、言ったらお終いだ……
「あはは、大丈夫だよ? 多分凛ちゃんもこんな事くらい想像済みだと思うよ、なのになんで私達を2人きりにしたのかわかる?」
「え? わかってて2人きりにしたのか? なんでわざわざ……」
「瑛太君を信じてるからに決まってるじゃない。 私が何したって瑛太君は凛ちゃんの事好きでいてくれるって凛ちゃんは思ってるんだよ? 悔しい……」
「だけど凛ちゃんがそう思うように私だって瑛太君の事今でも大好きなんだ」
伶奈の胸の中で凛が思ってる事、伶奈が思ってる事を告げられる。 2人とも俺の事をこんなに好きでいてくれている。
だけど俺は1人しかいなくて2人とも同時に好きになるなんてできない。 そして凛を選んだんだ。
階段を駆け上がる音が聞こえる。 おそらく昼飯が出来たので凛か奈々が呼びに来たのだろう。 伶奈は俺を離しもとの位置に戻った。
「瑛太、伶奈ちゃん、お昼ご飯出来たよ! ん?」
何もおかしな所なんてないはずなのに凛の顔には?マークが浮かんでいるようだった。
「どうしたの? 凛ちゃん」
「んー、てっきり伶奈ちゃんが迫ってると思ったんだけど」
「わかってて2人きりにするなんて凛ちゃん意地悪ーッ!」
「だって私瑛太の事信じてるもん!」
ニコッと凛は笑いリビングに行こうと俺を引っ張る。 伶奈の言った通りだ、こんな俺でも凛は俺の事を信用している。
伶奈をチラッと見ると笑顔でほらね?って顔をしている。
「へぇ、伶奈さんは凛さんの家に泊まるんだ? 私の部屋もあるんだから私も綺麗なお姉さんと一緒に泊まりたいなぁ」
「なら奈々ちゃんも私の家に泊まりに来る? 大歓迎だよ」
「ええ! 本当?」
「奈々、図々しいだろ?」
「お兄ちゃんこそ凛さんと伶奈さん独り占めして図々しいじゃん」
「ぐぅ……」
奈々の言葉に俺は何も言い返せなかったのが悔しい。 確かにそうかもしれないしな。 そして昼食を食べ終わり凛の家に行く。
「前にも言ったけど私の部屋と一緒でいいんだよね?」
「うん、凛ちゃんといっぱいお話ししたいし1人は寂しいもん」
いっぱいお話し…… さっきの部屋での事も話すんだろうか? 頼むぞ伶奈それだけはやめてくれよ? と目線を送ると伶奈は理解してるのかしてないのかわからないがとても可愛らしい笑みを俺に返した、 なので凛も気付く。
「その思いっきり可愛い表情を瑛太に向けてどうしたの?」
「ん? 瑛太君が私の事見てくれるから嬉しくなっちゃってね」
「瑛太!」
凛がとても怖い顔で俺を睨む、片方は満面の笑みなのに…… 変な意味ではないんだ凛。 いや、変って言えば変だけど。なんていうか俺本当に意気地なしだな、もし俺がこんな時にお前ら2人とも俺の彼女だ!なんて言えるメンタルがあったらどんなに楽だろう。
奈々が言ってたように気付かなかった時は確かに楽だったんだなぁと思ったけどそれじゃあ伶奈にも好きって思われてたのも知らないしな。
だけど2人の思いに気付いたら今度はなんとか丸く収めようという自分勝手な思いで2人とも好きだけど凛への想いが強くなった俺は伶奈の事は好きだけど……
「瑛太!瑛太! せっかく伶奈ちゃんも来たのにまたボーッとして」
「あはは、瑛太君にはいろいろ考え事あるんだよ」
伶奈の言葉にはさっきの光景が過っていような気がしてならないけどもう2人きりになれば俺はどうしようもないので諦めた。
そして案の定その日の夜凛からこの浮気者!というメッセージが届いたので宥めるのに苦労した。
そして次の日凛と伶奈は当たり前のように俺の家に来て時間を過ごす。伶奈にとっては1日1日が大切な時間なんだろう。 だから俺も快く受け入れる。
そして大晦日になり初詣に行く事にした。 凛と伶奈と何故か奈々も一緒に行く。 男女比が偏りすぎて2人とも俺にくっついているから俺は恥ずかしい事この上ない。
「お兄ちゃんモテすぎ…… 大した男でもないのに引くわー」
「こら奈々ちゃん、瑛太の悪口は言わないの!」
「そうだよ、瑛太君は私と凛ちゃんにとって大事な人なんだから」
凛と伶奈はそう言うけど普通の人から見たら奈々の意見が一般論だろう。しかも2人とも可愛いから余計目立つしな。奈々は知らんけど……
「お兄ちゃん今凛さんと伶奈さんと私で比較したでしょ? はいはい、2人いると私は霞んじゃいますよ!」
「あはは、そんな事ないよ。奈々ちゃん可愛いもん」
「そうそう、瑛太は妹だと思ってるから奈々ちゃんの評価がちょっと低いのよねぇ。とっても可愛いのに」
奈々を怒らせて面倒だなと思ったがナイスフォローを凛と伶奈はしてくれた。
神社に行くとやっぱり結構人がいて美女2人に囲まれている微妙な男子の俺がなんだこいつ?的な目線でチラチラ見られたが最初だけで伶奈と凛に目が行っていたように思える。
そして恒例の賽銭箱に小銭を入れお祈りをする。凛と伶奈は何を祈るんだろうな? 俺はお祈りの最中にそんな事ばかり考えていたので何も祈ってないようなものだ。
「2人とも何お祈りしたんだ?」
「「内緒!」」
2人とも息が合い同時にそう言った。 こういう時はぴったり波長が合うんだよなこの2人……
「ねぇ瑛太君、新年になったらキスしてくれる?」
「え?」
「なんで伶奈ちゃんなのよ! 私だよね?瑛太」
「あら、私が側にいる時までは凛ちゃんに瑛太君を任せる事ないの。だから私にキスして?瑛太君」
「え〜、お兄ちゃんいつから恋愛系漫画の主人公みたいになってるの?」
奈々が最もなツッコミを入れてくるがこんな状況俺も聞いてねぇよ…… 2人はまたどっちがどっちがと言い合いをしている、どっちを選んでも修羅場確定。
どうしたらいいんだ? 俺は奈々に目をやる、奈々は何か俺の怪しい視線に気付いたのか逃げようとするが俺は奈々の腕を掴みそれを阻止する。 奈々とキスをしてどっちも残念でしたと済ますか?
「お、お兄ちゃん、や、やめてよ? こんな状況だからって私達兄弟なんだよ?」
奈々も意図に気付いたのか必至に抵抗する。だけどもし奈々にキスなんてしたら大事な何かを失ってしまう……
すると俺の両サイドから俺の両頬に何かが触れた。 そう、凛と伶奈は俺にキスをしていた。 いつの間にか新年になっていて気付かなかった。
「もう〜、しょうがないからこれで許してあげる」
「フフッ、とりあえず引き分けだね」
俺が奈々と兄弟の葛藤をしているうちに2人は落とし所を見つけたようだ…… そして俺と奈々は心底安心した、奈々なんか特に。




