その61
いつもの帰り道、だけどいつもと違うのは普段1人で帰って行く道のりに2人増えた事。 大野と岸本だ、大野はさておき岸本と一緒に帰れるなんて超嬉しい。 表には出さないけど俺の心の中はウキウキしているんだ。
「ねぇ伶奈、さっきの事蒸し返すようで悪いけど伶奈って前の高校で超モテたでしょ〜?」
女ってそういう話大好きだよな。 でも岸本の事なら俺も気になる、 実際モテただろうなぁ、こんなに可愛いもんな。
岸本を見ると長くて黒い髪の毛を手で肩の後ろにやり綺麗な横顔が覗いた。 長い睫毛と大きくてパッチリとした目、左右均等に取れた顔が大野へ向く。
「そんな事ないよ、私男子とかと話すの少し苦手でさ」
「え〜、そんなに可愛いのにもったいないよ。 あんまり度を越すとこいつみたいになっちゃうよ?」
大野はそう言って俺を顎で指す。 そんな俺に岸本が首を曲げてヒョコッと顔を出す。そんな仕草も可愛いな岸本は……
というか俺をネタにすんなよ、岸本に変に思われるだろうが。
「柊君がなんなの?」
「こいつ顔は結構いいのに性格根暗だからさ、もったいないのよ」
「ふぅん、でもなんとなく私もそんなに明るい方じゃないし、全然変に思う事ないよ!」
そう言って岸本は俺にニコッと笑いかけた。 なんていい奴なんだ岸本は、お世辞でも俺は嬉しいぞ。 そうしてマンションに着き岸本はひとつ上の階に住んでいる事がわかった。
大野は1番下の階で俺は3階、岸本は4階だ。 なんだ、こんなに近かったのか。 もしかしたらその内岸本とも遊べる機会なんてあるのかな?
いや、変な期待はまだしない方がいい。俺はまだ友達でもなんでもないしクラスが同じで席が同じ、マンションも同じなだけだ。 でも同じ事が多すぎて親近感が湧いてくるのも事実だ。
岸本に淡い恋心を抱いていた、俺は岸本の事は何も知らない。だけどこれからいつでも岸本に会えると思うと少し高校生活に色が出てきたような気がした。
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私は家に帰るとドッと疲れが出た。 高校は思っていたより悪くなくて友達もできそうだ。 だけどまだ新しい生活には慣れていないせいかな……
もういいかな? 次の日でもう根を上げた? なんて思われないかな。 私は瑛太君に電話をしてみる事にする、でも今何してるかな?
まだ夕方だし凛ちゃんともしかしたらデートしてるかもしれない。 凛ちゃんからは昨日LINE来てたんだけど瑛太君からはまだなんだよね……
居なくなった私が連絡してきたらウザがったりするかな? もう私って2人にとっていらない存在なのかな?って考えがどうしてもよぎってしまう。
もう少し待ってから電話しようかなって思ってたらLINEが来ていた。 誰かななんて思わずにもしかしたら瑛太君!? と思って私はすぐさま確認する。 なんと瑛太君からだった。
『伶奈無事に着いた? 昨日は忙しかっただろうから邪魔しちゃ悪いと思って送らなかったんだけど』
『本当は寂しかった』
『ごめん、凛に言ったら怒られてさ。早く連絡しろって』
『ううん、瑛太君は私を気遣ってくれてたんだから。 それにね、さっき電話しようかなって思ってたんだ』
『本当にごめんな、じゃあ家に帰ったら俺から電話するよ』
そっか、だから瑛太君は昨日連絡くれなかったんだ。 なんて私って何思ってるんだろう…… 催促なんてしたらますますウザいって思われる?
違う…… 違う! 瑛太君そんな事思ってない。 私が卑屈になっているだけだ、勝手に自分なんかと思って瑛太君をそんな風に思ってたんだ。
思った以上に私的にダメージが大きいんだ。 実際離れてみるとよくわかる、でも私って瑛太君には振られたんだって事もあるのかも……
瑛太君、どうして私は瑛太君に振られちゃったの? やっぱり引越しの事を黙ってた事で罰が当たったのかな? そんな都合のいい言い訳なんてあるはずがない。
私より凛ちゃんの方が頑張ってたからだ。 私は自分は凛ちゃん程積極的になれないなんて思ってどこか両思いって事をアテにしてたんだ。 だけど凛ちゃんから聞いた。
凛ちゃんは昔瑛太君と出会っていた、だけど瑛太君はそれを忘れていた。そんな状況で私を好きになり言うに言えず昔の事はなしにして今の自分を好きになってもらおうとしていた。
それは私なんかよりよっぽど難しくて苦しくて辛かっただろうって思う。 私だったらそんな事出来るのだろうか? その差で私は選ばれなかったのかな?
私はそれを聞いた時結構ショックだった。 だから私は自分が瑛太君に選ばれなかった事にも納得がいったんだ。 だけど私は瑛太君と友達だなんて言っておいて未だに好きで好きで離れたらより一層好きって思いが強くなっていって……
そういえばもうちょっとしたら冬休み、今は瑛太君は凛ちゃんのものだ。 だけど私だって瑛太君を好きって気持ちは持ってたっていいよね?
だから冬休みになったら瑛太君と凛ちゃんに会いに行こう。 会える時は会いたいんだもん。 私は卒業したら瑛太君達の所へ戻りたい。
戻ってまた凛ちゃんと改めて勝負するって言ったじゃない。 今からじゃ遅いかもしれないけど私にも少しは凛ちゃんの積極性を身に付けたい。
そんな事を考えていたら私のスマホが鳴った。 瑛太君から電話だ、私は瑛太君で一喜一憂している。 こんなに離れちゃったのに…… こんなに好きなんだな瑛太君の事。
「伶奈? 今掛けて大丈夫だったか?」
「うん、全然大丈夫。 なんか凄く瑛太君の声が懐かしく聞こえる」
「昨日聞いたばっかりだろ?」
「あはは、そうだね。 そうなんだけど慣れない所に居るせいかな? 少し気が滅入っちゃって」
「そうだよな、ドタバタしてたもんな。無理ないよ」
「凛ちゃんとは仲良くしてる?」
「ああ、凛も伶奈の事凄く気にしててさ。冬休みとか会いに行かないかってなってさ」
「そっか、でも凛ちゃんと私って考える事似てるのかな? 私冬休みになったらそっちに行こうかなって思ってて……」
「え? そうなのか? じゃあさ、凛にもそう言ってみるよ」
「ううん、私から凛ちゃんに言ってみるよ」
そうして瑛太君としばらく話をした。やっぱり瑛太君の声を聞くと幸せな気分になれる。前は当たり前だったのにな。 瑛太君との電話が終わり私は少し寂しくなったけど凛ちゃんにも電話をする。
「伶奈ちゃん、そっちはどう?」
「うん、まだよくわかんないけど友達は出来そうで少し安心したかな」
「そっか、少し声に元気ないから心配したよ」
「あ、わかる? 寂しくないって言ったら嘘になるかな…… それでね、瑛太君にさっき話したんだけど冬休みになったらそっちに行こうかなって思ってさ」
凛ちゃん話すとやはり凛ちゃんも同じ事を考えていたけど私はそっちに行きたいって言ったら凛ちゃんはだったら自分の家でその間泊まらない? と提案してくれた。 嬉しかった、だから私は凛ちゃんに甘える事にする、本当だったら2人で過ごしたかったと思うけど…… 凛ちゃんありがとう。




