その58
それからあっという間に時が経ち伶奈の引越しする日になった。 俺と凛は伶奈の家まで行き最後のお別れを言うつもりだ。 最後と言っても伶奈はまた戻ってきたいと言っているので少し会えないだけだと……
だけどずっとこのまま高校生活をこれからも一緒に送ると思っていた俺と凛にとっては急すぎる事で悲しい。
「瑛太君、凛ちゃん、見送りに来てくれてありがとうね。 2人と友達になれて本当に良かった」
「私も伶奈ちゃんと友達になれて……本当によかった」
凛は泣きながらそう言っている。俺もそれを見ていて言いようのない悲しさが伝わってきて俺の頬にも涙が流れる。
「瑛太君……」
「あ、あれ!? なんか俺まで泣いちゃって恥ずかしいな」
「ううん、瑛太君や凛ちゃんがそんなに想ってくれてるなんて嬉しいよ」
伶奈は俺を抱きしめ俺の涙を手で拭う。ニコッと伶奈は笑うがその時伶奈の目からも涙が溢れてきた。
「あはは、泣かないように我慢してたんだけどやっぱりダメだね」
「伶奈ちゃん我慢しすぎだよ、泣きたい時は泣こうよ……」
「うん、凛ちゃん。 そうだね」
伶奈と凛も抱き合い別れを惜しんでいる。
「凛ちゃん、瑛太君に悪い虫がつかないようにね」
「それって伶奈ちゃん?」
「あはは、じゃあ私が帰ってくるまでよろしくね! 瑛太君、凛ちゃん、またね!」
伶奈はそう言って両親のもとへ行き車に乗った。 そして俺と凛は伶奈を乗せた車が見えなくなるまで手を振った。 さっきまで居た伶奈が居なくなってしまった。 俺はしばらく放心状態になっていると背中をバンッと叩かれた。
「瑛太、落ち込みすぎ! 伶奈ちゃんにもよろしくされたんだし寂しかったら私が慰めるから。ね?」
凛が俺の頭を撫でようとして手を伸ばしてきたがそこまで子供じゃないのでサッと避ける。
「あ〜! 恥ずかしがっちゃって」
こいつも寂しいくせに変に強がるよな。これから少なくとも伶奈はいない。俺と伶奈が最初の頃片思いしてい時と思えば最初に戻ったのと同じようなものなんだろうけどな……
「よし! じゃあどこかお昼食べに行こうか? 私奢っちゃうよ!」
「おい、それ朝日奈から借りたお金の残りだろ?」
「あ…… そうだね」
俺も朝日奈に悪いので出来る限り貯めて返そうとしていた。しょうがないのでお昼は食べずに帰ろうとしていた所、反対側から見た顔が歩いて来た。 椿先輩ともう1人のとても美人なお姉さんだった。 椿先輩はこちらを見ると話しかけてきた。
「あ、あれ? 確か君って前に図書室で会った…… 広瀬君?」
椿先輩は驚いた顔でどうしてこんな所にいるのと問い掛けてきた。
「この子椿ちゃんの知り合いなの?」
「瑛太、椿先輩と知り合いなの?」
椿先輩のお姉さんと凛が不思議そうに聞いてきた。
「うん、この前図書室でね。 一緒に居た女の子は違うけど」
椿先輩がそう答えた途端凛が俺の顔を怪しむように覗き込む。 椿先輩、その言い方やめてくれ。
「あ、私椿ちゃんの姉の白石 奏です。 今日はちょっと椿ちゃんの様子を見に実家に戻って来てたの」
ああ、この人が美女と名高い椿先輩のお姉さんか。 本当に美人だ、大人な色気を感じる。
「こら、瑛太! 見惚れてないで私の質問に答えなさい!」
凛がむくれて俺に詰め寄ってくる。 怒ってるのか?
「ちょっと前に伶奈と一緒に居た時会ったんだよ、それだけだよ」
大分端折って言ったけど今の凛にはこれくらいで済ませた方が良さそうだ……
「あ、広瀬瑛太です、こっちは俺の彼女の長浜凛です」
「ほら、椿ちゃんも挨拶挨拶!」
「あ、そっか。1人は初めましてだもんね。姫野 椿です、よろしくね」
そう言うと凛も慌ててペコリと頭を下げた。椿先輩はへぇ〜という表情になった。 まぁそうだろうな、椿先輩と凛は直接対面する前に俺と伶奈を見てたしな。あれ? 椿先輩と奏さんって姉妹なのに苗字が違うのはなんでだ?
「2人って苗字違うのは……」
「ああ、椿ちゃんね、ちょっといろいろあって私の家で引き取ってるんだけど私はもう本当の妹だと思ってるんだ、可愛いでしょ!椿ちゃん」
そう言って奏さんは椿先輩に抱きつき頬をスリスリさせている。 まぁ2人とも美人だけど。
「2人ともここら辺に住んでいるんですか?」
「うん、私達の家すぐそこなの。 広瀬君達もこの辺だったの?」
「あ、いえ。 友達がここに住んでたんですけど今日引っ越しちゃってお別れにと」
「あ、そうだったんだ。ちゃんとお別れした? 私も椿ちゃん残してお家出てく時は寂しくてないちゃったもんねぇ」
「お姉ちゃんよく帰って来てるじゃない。 私全然会えないと思ったらしょっちゅう帰ってくるんだもん。 逆に心配になるよ!」
「あはは、だってそんなに離れてないからさ。椿ちゃんどうしてるかな?ってついつい気になっちゃうし」
奏さんってかなり妹思いなんだなぁ、なんて思っていると奏さんが急にこちらに話し掛けてきた。
「あれ? そういえば椿ちゃんの後輩って事は同じ学校なんだよね。じゃあ私の後輩でもあるんだ? もうお昼だよね、じゃあ私の家で2人ともお昼食べてったりしない?」
「「えっ!?」」
2人の会話にキョトンとしていた俺と凛はあまりに予想外な事を言われたので俺と凛は同時に声が出てしまった。
「え? お姉ちゃんいきなりそんな……急に知らないとこで知らない人達とお昼って広瀬君達も気不味いでしょ」
「大丈夫大丈夫! 1人2人増えたって変わんないよ」
「そ、そういう事じゃなくて…… ごめんね?2人とも」
椿先輩も何言い出すんだこいつ? みたいな顔をして奏さんをジトッと見るけど奏さんはまったく気にならないというか気付いてすらいない。
本当に椿先輩もとい奏さんの家は伶奈とすぐ近くだった。 そして俺と凛は若干緊張しながら家にお邪魔すると椿先輩の彼氏の春人先輩ともう1人いた。
「優〜ッ! お待たせ! 椿ちゃんの後輩居たから連れてきちゃった」
そう言って奏さんはその人に思いっきり抱きついていた。 おそらく彼氏だな。
「奏の奴がいきなりごめんな、俺は足立 優。奏と同じ大学に行ってるんだ、よろしくな」
そして俺と凛も軽く自己紹介をした。 いきなりこんな展開になるなんて思っても見なかったけど伶奈の近所に椿先輩達がいるなんて知らなかったな。
「瑛太、なんかとんでもない所に来ちゃったね……」
凛が小声で話す。 確かにな、でも奏さんがノリノリだから帰るわけにもいかずそのままお昼ご飯をご馳走になった。
だけど伶奈と別れて寂しい1日になるような気がしたが椿先輩達のお陰で少し紛れたのでそこは少し感謝した。




