その55
「瑛太君、今日は来てくれてありがとう、じゃあ瑛太君の答えを聞かせてくれる?」
伶奈がそう言う。 俺はここまで来るまで揺れに揺れた。 そして決断する、今までこんなに物事を考えた事はなかった。 伶奈、俺の好きな人。 だけど俺は……
どうしても凛の顔が浮かんでしまうんだ。 今の俺はこんなにも凛でいっぱいだ。 だから伶奈と付き合う事はできない。 俺は勝手だ、ここまで伶奈の気持ちを引っ張っておきながら土壇場で凛を選んで……
だけど土壇場だから気付いたんだ。 俺は、俺が好きなのは凛だ。
「伶奈、ごめん。 凛が好きだ、こんなに待たせて本当にごめん」
「…… そっか。凛ちゃんか。凛ちゃんなんだね、負けちゃったかぁ」
伶奈はしゃがんで顔を伏せた。 凛と同じで俺は伶奈をここまで落ち込ませたんだ。
「伶奈……」
「来ないでッ!」
俺が伶奈に近付こうとすると伶奈に怒鳴られた。 伶奈にこんな口調で怒鳴られた事がなかった俺は一瞬怯んだ。
「今…… 優しくされたら私、私また瑛太君にチャンスあるって思っちゃうじゃない」
「…………」
でもこんな伶奈を放っておくわけにいかない。 それに今まで伶奈も俺にずっと優しくしてくれたんだ。 そんな伶奈をいきなり突き放せなんて俺に出来るはずない。
「なぁ、伶奈。 俺さ、昨日凛に伶奈が好きだって言ったんだ。 そしたら凛の奴、だったら伶奈を抱きしめて好きだって言ってやってって言ってさ」
「え?」
「だけど俺は伶奈とも凛とも結局付き合ってないんだ、俺って本当にダメな奴だよな。 ここまで来て伶奈と凛、どっちにも……」
「でも瑛太君は私より凛ちゃんを選んだんだよね?」
「ああ、今この瞬間までずっと迷ってたよ。 だけど、どうしても凛の笑った顔や泣いた顔、怒った顔とか俺の中で浮かんで…… それに俺、昔凛と会ってたんだ。それを今までずっと忘れてて。そんな俺をずっと想い続けてた凛の事を俺は…… 都合がいい奴だって思われたっていい、最低だって思われたっていい、俺はっきりしたんだ。 だから凛が好きなんだ、昨日凛に伶奈が好きだって言った俺なのにな」
「うん。 最低だよ瑛太君、そんな凛ちゃんの気持ちに今更気付くなんて……」
「ああ、本当にそうだよな」
「だから…… だから瑛太君は凛ちゃんと付き合うべきだよ。凛ちゃんにこそ抱きしめて好きだって伝えてあげて?」
「でもそんな都合のいい事したって凛は許してくれないだろ?」
「ううん、そんな事ないよ。 だって、だって私が凛ちゃんだったらそれでも嬉しいもん!」
ここまで顔を伏せていた伶奈は俺の顔を見てそう言った。 泣いていたけど伶奈はしっかりと俺を見た。
「私ね、瑛太君に謝らなきゃいけない事があるの。私ね、どっちに転んでも今日になる事ずっと待ってたはずなのに…… 聞きたかったけど聞きたくなかったんだ、こうなるのが瑛太君と凛ちゃんにとって1番いいってわかってた。だけど瑛太君にフラれるのはやっぱり辛くて悲しくて。それでももし瑛太君が私の気持ちに応えてくれたら私はどうやって瑛太君に応えようか迷ってたの」
「え? どういう事だよ?」
「文化祭が終わるまでに答えを聞かせてって言ったでしょ? 私引っ越すんだ…… お父さんが転勤する事になって、私嫌だって必死で抵抗したんだけど子供な私の言う事なんて聞き入れてもらえなくて」
なんだって? 伶奈が引っ越す? どこに? 遠くへ? 一体何を言ってるのかわからなかった。
「そうなるよね…… 私もそうなったもん。 だけどね、それを言ったら私はますます瑛太君の気持ちが離れちゃうって怖くて怖くて言えなかったの。 ごめんなさい」
「それっていつの話だよ? それにどこに引っ越すんだよ?」
「来週の日曜日にはもう引っ越すの。他県に行く事になっちゃって…… だからもし瑛太君が私を選んでくれたら嬉しいけど私、瑛太君と凛ちゃんにとても酷い事する所だった。 だけど! 私本気で瑛太君の事好きだったの! 凛ちゃんにも負けないくらい好きなつもりだったの!」
そう言うと伶奈の整った顔がくしゃりと歪み涙が止めどなく溢れている。 そんな事ってあるのかよ…… だから最近の伶奈はあんなに落ち込んでいたんだ、言いたくても言えずに。 凛も凛だけど伶奈もだ。
「本当、私って自分から言っておいて迫っておいて…… 私こそ最低だよね」
「伶奈、そんな事ないよ。 俺だって凄く悩んで直前まで揺らいでいて伶奈にこんなに悲しい思いまでさせて。 本当はもっと早く決断して欲しかったよな? 優柔不断な俺をここまで待ってくれたんだろ? だから伶奈は何も悪くない」
「…… ズルいよ瑛太君、優しくしないでって言ったのに」
「伶奈や凛だったらもし俺が伶奈の立場でもそうするって思ったんだ。 俺、伶奈を好きになってよかったよ」
「瑛太君…… じゃあ約束して? 凛ちゃんと付き合って。 私が引っ越す前に凛ちゃんに想いを伝えて?」
「伶奈、それが伶奈が1番望んでる事?」
「うん。言ったでしょ? どっちを選んでも私達3人仲良くずっと友達でいたいって。 私今でも瑛太君と凛ちゃんの事大好きだもん。ほら」
そう言って伶奈は前にデパートで買った3人お揃いのキーホルダーを見せてきた。 伶奈はこんな時だってそういう事が言える本当にいい子なんだ。
「わかった、ありがとう伶奈」
言った瞬間伶奈は俺を押し倒しキスをした、とても激しいキスだ。誰もいない駅のホームで俺と伶奈は深いキスをしてどれくらいしたのか伶奈はゆっくりと唇を離す。
「凛ちゃんには悪いけど。 せめてこれくらいは。これで私と瑛太君の関係はお終いにする…… これからは友達だよ」
「伶奈……」
「ダメ! 謝らないで。 友達だけど私瑛太君の事大好きなんだから。だから瑛太君、私そろそろ帰らなきゃ、我慢してるけど今日はもう泣きたくて…… 」
「うん…… わかった」
そうして少しの間伶奈は俺の手を握って電車が来るのを待った。やがてホームに電車がやって来て伶奈は乗る前に言う。
「瑛太君、約束守ってね? 私最後はちゃんと笑ってお別れしたいから」
「ああ、そうだよな。伶奈気をつけて帰れよ」
伶奈を乗せた電車のドアが閉まる。進む間も伶奈はずっと俺を見て俺もずっと伶奈を見た。伶奈は電車から俺が見えなくなるまで手を振っていた。
伶奈ごめんな…… こんな俺を信じてずっと待っていてくれたのに。引っ越すってわかってて俺を好きになって両思いのはずだったのに俺がどっちつかずなせいでやりきれなかっただろう。
ずっと悲しかっただろ? 俺と凛にそんな事悟らせまいと必死に頑張ってたんだろ? 本当にごめん。 俺はしばらくいなくなった伶奈に対して謝り続けた。
だけど伶奈との気持ちに整理をつけなきゃいけない、伶奈と約束したんだ。 凛に俺は今度こそ迷いのない俺の凛への気持ちを伝えるって。
さっきまでグラついていた気持ちはもうない。どうなるかなんてわからないけど虫がいいのは百も承知だ。 でも行動しなきゃ始まらない、このまま自分を責めて何もしないでウジウジしてたって何も話は進まない。
凛に言うなら今日今すぐだ。何故か日を置いてはいけない気がする。 もうこれ以上自分を想っていてくれた人を待たせるなんて残酷な事をしてはダメだ。 俺は再び凛の家の方向へ足を向けた。




