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その54


凛と別れてから家に帰ってきた。 夕飯を食べ部屋に入りベッドに横たわる。思い出すのはさっきの凛の事ばかりだ。 あんなに凛の事泣かせてしまってこれで本当に良かったのだろうか?


でも俺は伶奈に好きだって言うって決めたはずなのに凛の泣いてる姿を見た途端急に決意が揺らぐなんて…… だけどいつも凛の泣いてる顔を見ているとなんだか橋本が頭に浮かぶ。 なんでだ?


「お兄ちゃん、元気ないじゃない?」


奈々が俺の部屋にいきなり入ってきたので少しビックリした。


「なんだよ? いきなり」


「お兄ちゃんが暗いから心配してあげてるんじゃない! もしかして凛さん伶奈さんと何かあった?」


鋭い奴だなと思ったがまぁ図星だ。


「まぁあったって言えばあったけど」


「それで?」


「伶奈に告白するって決めた。 だから凛には謝ったんだけど……」


「は? 凛さんの事を振っちゃったの?」


「え? うん、そういう事になるのかな」


「お兄ちゃん! 凛さんがどれだけお兄ちゃんの事想ってたか知ってるの!? いつもお兄ちゃんには呆れるけどここまで呆れさせるなんて…… お兄ちゃん本当にわかんないんだね」


「どういう事だよ?」


「言わなきゃわかんないの? それなら凛さんには悪いけどお兄ちゃんの事忘れた方がいいかもね、まぁ伶奈さんもお兄ちゃんにはもったいない人だけどさ」


そう言って奈々は部屋から出て行った、心配してるって言ってたくせに文句を言って出て行きやがったのでポカンとするがなんか奈々は知っているような感じだった。


そういえば凛とよく話してたもんな。

そんな事を考えてて時間は過ぎて行く。明日俺はちゃんと言えるんだろうか?

凛をあれだけ悲しませたんだ、ちゃんと伶奈に好きだと言うのが凛の為なのか?


なんて都合がいい事ばかり考えていた。そうしてどんどん時間が過ぎ俺はいつの間にか眠ってしまっていた。


そして朝早くに目が覚めた。 時計を見るとまだ5時になったばかり。 風呂に入らず寝てしまったのでシャワーを浴びる。 よし、もういい加減シャキッとしろ俺!と気合を入れて出掛ける準備をする。


早くに起きた分なんだか居ても立っても居られなくなり俺は待ち合わせの駅に行く事にした。こんなに早く行っても伶奈も来てるわけないのにな。


駅に着くとやはりまだ伶奈も来ていない。このまま待つのもなんだし少し辺りを散歩する。 だけど俺の足が向かったのは凛の家だった。


いやいや、ここに来ちゃダメだろと思い俺は凛の家から立ち去る。 あいつ家に居るのかな? まぁ居るだろうけど……


凛の家の周辺を少し歩いていると小学校があった。凛もここに通ってたのかなと思いそろそろ引き返そうとした。 来た道とは少し違う道を戻る。どこに着くかはわからないけど時間なら十分ある。


あー、こんなとこに公園あったのかと思ったけど少し引っ掛かる事があった。 あれ? 俺ここ見た事あるぞ。像の滑り台に辺りに咲いているマリーゴールド。 ずっと昔、あれは小学校6年生の頃だ。


あの時俺は家族と出掛けててその帰りに奈々がこの公園に寄りたいって言ったんだっけ? 俺は公園なんてと思っていたけど辺りを見回してみた。すると道路側の方で2人の女の子が何か落としたのか探し物をしていた。


眼鏡を掛けた少し地味だけど可愛い顔立ちをしている女の子は泣きながら必死に探していた。不思議に思い女の子に聞いてみた。


「ねえ、何探してるの?」


「え? そこに咲いてる花のブローチ……」


女の子は指を指してそう言った。 その頃は花の名前すら知らなかったな俺は。


「意地悪な男子がここら辺に投げちゃったの」


もう1人の女の子はそう言ってまた探し出した。 ひとつ思い出せば次々と記憶が呼び起こされていく。そうだ、俺はやっぱりここを知っている。


「ここら辺に落ちたんだ?」


「うん」


女の子達は探しながら俺の問いに答える。側溝の辺りを探してるって事はそこに落ちちゃったんじゃないかなと俺はそう思い2人の探している所を覗いてみようと思ったら足元に硬い感触が当たり石でも踏んだかなと思い下を見ると探している物らしきブローチだった。


「もしかしてこれ?」


「あった! それ! それだよ」


泣いていた女の子はすぐさま俺に駆け寄りブローチを手に取った。 安心したのか愛おしそうにブローチを見つめている。やっぱりこの子凄い可愛いと俺は思った。


「ありがとう、これおばあちゃんに貰った大切な物なの。見つけてくれて本当にありがとう」


「えーと、どういたしまして」


眼鏡と髪型変えたらもっと可愛くなるだろうなと思ったけどそのままでも可愛くて俺は照れてしまった。 そうか、俺はだから橋本に昔のこの子の面影を見てあんな事言ったんだな。


「あ、あの、名前は?」


「俺? 広瀬。 広瀬瑛太」


「瑛太…… 私、長浜凛。 もし瑛太が困ってたら今度は私が助けるよ!」


「え? ありがとう」


「うん! 約束」


そして家族の所へ行こうとしたら男の子がやって来てお前なんかいなくたって俺が探してやったんだ!と見知らぬ男の子から文句を言われたんだな。


そう、あれは凛だった。最初会った時とはイメージが少し違ってて俺はわからなかったんだ。だけど俺は昔の凛と会ったのは一瞬だったけど淡い初恋を抱いていたんだ。それで凛はこの事をずっと覚えていた。


でももう会う事もないかもなと思った俺はその初恋を心の奥にそっとしまい忘れていたんだ。


俺はその瞬間急になんて凛に今まで申し訳ない事をしていたんだと思った。 凛もその事を言わなかったって事は俺が忘れていても承知で接してきてくれたんだろう。 だから別に今更と思うような事だ。


だけど凛はずっとその時から俺が覚えてもいない約束で伶奈との事を協力すると言ってきてくれた。俺の思い違いじゃなければ再会した時からまだ俺の事を好きでいてくれた? それなのに自分の気持ちは無視して俺を優先してくれてたなんて……


バカだよ凛。 言ってくれれば良かったんだ、忘れてた俺が偉そうに言える事じゃないけど言ってくれれば。


これから伶奈に告白しようとしていた俺は完全に気持ちが揺らいでしまっていた。 クソッ、なんなんだよ俺は!? だからってなんで決意がグラつくんだよ?


奈々の言う通りだ、俺には伶奈も凛ももったいない。こんな優柔不断な俺を2人は好きだと言ってくれている。 なのに2人に対する俺の仕打ちはどちらか捨てる、酷過ぎじゃないか。


けど伶奈は答えを待っている、いい加減腹を括れよ俺。 2人ともこの日を待っててくれたんだぞ? それに応えろと自分自身に言った。もう時間だ、そして俺は伶奈が待っている駅へと向かった。


駅に着くと伶奈は既にそこにいた。俺を見つけると手を振った。


「ごめん、待ったか?」


「ううん。でもずっと待ってた……」


そうだ、ずっと待たせてた。伝えなきゃいけない。


休日で普段からあまり人気がないシーンとしたホームの雰囲気が俺の緊張を更に高めているような気がした。



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