その53
文化祭が始まり1日目は軽音部、演劇部などの様々な部活のステージ発表が午前中から体育館で開始された。 午前中は発表会みたいなもので午後からは明日の一般公開の準備などだ。発表会の席は自由に座っていいらしく伶奈と凛は俺の隣に座る。
「瑛太、今日は楽しもうね!」
凛が元気よくそう言ってきた。いろいろあったけどせっかく文化祭なんだしそれとこれとは別として楽しみたいんだろうな、凛の性格上は。
チラッと伶奈を見ると伶奈も凛の言葉に同意なのか満面の笑みをこちらに向ける。 伶奈はちょっとわからないけど楽しんで少しでも元気になればいいな。
高校の文化祭は中学とは違って結構派手だな、伶奈と凛を見ると普通に楽しそうに見ている、まぁなんだかんだで俺が1番気にしてるのかなと思いながら午前中は過ぎていった。
「ひ、広瀬君似合うかな?」
午後になり明日の一般公開の準備をしていると橋本がとても恥ずかしそうにメイド服姿を見せてくる。それに合わせて負けじと伶奈と凛もメイド服姿で俺に迫ってきた。
「瑛太、私はどう? 変じゃないかな?」
「瑛太君、私こそどう?」
3人が一気に俺に来るからクラスの男子からヘイトを買う。なんで広瀬ばっかりと男子の目が語っている。
「3人ともとても綺麗だし似合ってるよ」
「ねえ、誰が1番可愛い?」
凛がそう聞いてくるが3人ともとても可愛いので選べない。というか選んだらとてもヤバい状況になりそうなので俺は曖昧に返す。
「瑛太君、わかってるよ? 私が1番可愛いって思ってるって」
「瑛太! 私だよね!?」
「け、喧嘩はやめよう? ね?」
橋本が仲裁に入り伶奈と凛の言い合いに割って入るが橋本が入った事でさらにヒートアップしてきた。 そして慌ただしい準備も終わり帰る事にした。
「瑛太君、明日が終わったら休みだね。それでね、その日に返事聞かせてもらっていいかな?」
ついに来たな、もう俺の中では答えが決まっていた。 凛も伶奈の言った事を真剣に聞いている。
「わかった、じゃあ約束通り文化祭終わったらな」
「うん、待ってる」
そして伶奈と別れ凛と一緒に駅に行く。いつも通っている道なのに今日はなんだか緊張感がある。 それはどっちか決めるという事がもう直前まで迫っているからなのか……
すると不意に背中をバシッと叩かれた。凛が頬を膨らませ俺を睨んでいた。
「こら瑛太! 暗いよ? そんなんじゃ私まで移っちゃうじゃない、気持ちはわかるけどさ」
凛に見透かされてたか。 まぁこんな暗いオーラ出してれば凛じゃなくても気付くか。 すると凛は俺の手を取り人目につかない路地裏に俺を引っ張っていった。
「凛、どこ行くんだよ?」
「いいから」
そして誰も目につかない所へ行くと凛は俺の頭を抱き自分の胸へ押し当て俺の頭を撫でる。
「瑛太、私は大丈夫だよ? だからね、瑛太の好きなように決めていいんだよ?」
そんな事言ってるくせに凛の心臓の鼓動はとても速い。
「凛、なんか恥ずかしいんだけど?」
「うん、私も恥ずかしいけど瑛太を落ち着かせたくて。 でも全然落ち着かないね……」
「そりゃあこんな状態だと落ち着くどころか……」
「興奮してきた? なぁんてね」
そう言うと凛はパッと手を離して俺は凛の胸元から離れる。 凛は少し顔を赤くして恥ずかしそうに笑う。
「お前っていつもいきなり変な事するよな」
「変とは何よ? 私なりにこれでも頑張ってるんだから!」
次の日になり文化祭の一般公開が始まった。意外と一般の人が入り結構賑わっていた。 昨日はいなかった鮎川も今日は来ている。
「やっほー、そっちはメイド喫茶やってるんだよね? 私もお邪魔しようかな」
「鮎川他にやる事ないのか?」
「私はサボりだから特に役割決まってないの」
「威張って言う事かよ……」
「ねぇねぇ、どっちにするか決めたの?」
「は?」
「だから凛ちゃんと伶奈ちゃん!」
なぜ鮎川がそんな事を聞いてくるのだろう? 俺の心は既に決まっていたけど、 でもあんまり触れられたくない内容だから曖昧にしか言えない。
「ど、どうだろうな……」
「まったく広瀬君は男らしくないなぁ」
そう言って鮎川はうちのクラスをチラッと見ると凛を見つけたのか手を振っていた。
「凛ちゃんと伶奈ちゃんやっぱり可愛いねぇ! 橋本さんもなかなか似合ってるじゃない」
「まぁあの3人うちのクラスのメインらしいからな」
「その3人から好かれるなんて広瀬君どんな手品使ったの?」
「さぁ、なんでなんだろうな。 俺も知りたいくらいだ」
そして一般客もだいぶ落ち着き伶奈と凛も一旦抜け学校の中を回る事になった。屋台などで俺達は軽く食事を取りブラブラしている。3人とも沈黙……
凛が沈黙に耐えかねたのか口火を切る。
「明日ね、私家にいるから瑛太答え聞かせてくれる?」
「あ、ああ」
凛のいきなりの発言に少し動揺してしまった。伶奈はそんな凛の事をジーッと何も言わずに見ていた。そして凛がトイレに行ってくると言い俺と伶奈が残される。
「瑛太君、私は明日凛ちゃんの家の近くの駅で待ってるね。 そこで答えを聞かせて」
「わかった、必ず行くよ」
そして文化祭も終わり、片付けも済み今日は俺達は何故か別々に帰る事になった。 多分気が気でないんだろう、俺だってそうだ。明日にでも決まるんだ。
俺は1人で駅に向かいもうそろそろ着くという時後ろから声を掛けられた。 よく聞いた声なのですぐわかる、凛だ。
「ごめんね瑛太、1人になりたかったのはわかるけどさ……」
「凛、ずっとついてきてたのか?」
「うん、私あの場では明日って言ったけどなんとなくわかってるんだよね。瑛太は伶奈ちゃんに告白する気なんでしょ?」
気付いてたのか凛…… 俺の心を見透かした凛のその言葉に何も答えることが出来ない。
「そんなに驚かなくていいよ。私瑛太の事ずっと見てたんだよ? 誰が本当に好きなのかくらいわかっちゃうよ。でもそりゃそうだよね、瑛太ずっと伶奈ちゃんの事好きだったもんね」
「ごめん凛…… だけど」
「ううん、いいの。もともと私は瑛太の恋を助ける役目だったもんね。 なのに私が逆に引っ掻き回して…… ごめんなさい」
「凛、お前それでいいのか? 俺の事もっと責めろよ、俺って最低なんだ」
こんなにも俺を想ってくれてる凛を散々引っ張っておいて応えてあげられない俺は凛に殴られてもいいと思っていた。だけど凛は最後まで俺に優しい。
「言ったでしょ? 私はそんな風に思わないし、瑛太の助けになりたかったの。
だから最後のアドバイスだよ、明日は伶奈ちゃんを抱きしめて好きだって言ってあげて?…… だけど、だけど」
凛は俺に寄り抱きついた。 顔は伏せているから見えないけど凛は泣いている。
「もうこれで最後にするから…… お願い、思いっきり抱きしめて」
何も出来ない俺は泣いている凛を力強く抱きしめるしか出来なかった。




