その52
文化祭の準備が始まった。 俺達のクラスはコスプレ喫茶かメイド喫茶どちらかで迷っていたが可愛いのが3人もいるからメイド喫茶でいいと半ば投げやりに決まった。橋本はもうすっかり可愛いで定着していた。
俺は当日は材料運んだり呼び込みしたり要は雑用だ。男子もメイド服着させられる事になったからそれはそれでこっちで良かったと思っている。
「あー、ついにこの時が来ちゃったねぇ。 私的には瑛太君のメイド姿見てみたかったんだけどなぁ」
「あ、私も見てみたかったかも! でも後で着させる事出来るよね」
「キモいだけになるから冗談じゃないわ」
まぁぶっちゃけ後の事を考えると俺にとって文化祭なんて前座に過ぎないけどな。伶奈と凛は普通に楽しめるのだろうか?
「ほら、瑛太君今日はこのくらいにして終わりにしよう?」
「そうするか」
看板作りやら何やら中学の時もやったけど意外とこういうのは時間を忘れてできるな。 なんてただ気を紛らわせてるだけだけどな。
伶奈と凛も迫ってきているのを感じているか若干そんな感じを見せている。いくら気にしないって言ってもそりゃあ気になるもんな。
でも伶奈の沈み様は少し際立っていた。伶奈と話しても伶奈は一向に元気にもならないしもう結末がわかっているようだ。
文化祭の準備も着々と進みいよいよ明日となった時俺は伶奈と話したくてどこか寄り道していこうと誘った。
原因は俺なんだけどなんとか伶奈に元気になってもらいたいので久しぶりに伶奈と前に寄ったカフェに行く事にした。
伶奈はいつものように凛も誘おうか?と言うがどうしても伶奈の事が気になったので今日は伶奈と行きたいと告げると少し伶奈は戸惑っていた。やっぱりおかしいぞ? 伶奈の中では一体文化祭の後とか今はどうなっているんだ?
カフェの道中伶奈は俺の手を取り一緒に歩く。 だけどやっぱり違う、もともと大人しい伶奈だけど雰囲気が悲壮感しか感じない。
「なんか私最近暗いよね? ごめんね」
「いや、俺のせいだよな。俺こそごめん」
「ううん、でも今日は嬉しい。 瑛太君と2人きりだもん」
伶奈は俺にニッコリ笑いかける。俺は伶奈の笑顔がとても好きだ。やっぱり伶奈の事が……
カフェに着くと伶奈はなんか凄く懐かしいような気がすると穏やかな表情になった。 相変わらず混んでいて並んでいるが。
「前来た時も嬉しかったけど今もとっても嬉しいな。 瑛太君と一緒だからね」
「そんなに嬉しいならいつでも行ってやるからさ、伶奈が喜んでくれて良かった」
はっきり言ってここに来てそんなに喜んでもらえるなんて思わなかったので少し驚いている。
「…… うん! 瑛太君にそう言ってもらえると本当に嬉しい。大好きだよ」
「伶奈?」
伶奈は俺の両手を取りギュッと握る。やっぱり、やっぱり俺は……
すると程なくして店の中に入れた。案内された席は昔伶奈と座った場所と同じ所だ。
「前もここだったね、なんか本当に昔に戻ったみたい。もうその頃は瑛太君の事気になってしょうがなかったなぁ」
「そうだったのか? 俺は一目見たときから伶奈に惚れてたんだよな」
「フフッ、瑛太君の視線感じてたよ」
「え、マジで?」
「うん」
見てたのバレてたのか…… 俺になんの感情もなかったら伶奈にとってキモい奴認定されてただろうな。 凛にもそんな見てたらバレちゃうよって言われてたけど。
「なぁ、伶奈っていつ頃俺の事好きになったんだ?」
気になってたので聞いてみる。今までなんか恥ずかしくてそんな事聞けなかったから。
「瑛太君の視線に気付いてちょっとした頃かな? 凛ちゃんに話しかけられて瑛太君の事起こしに行った事あったでしょ? もうあの頃から気になってたよ」
じゃあ俺が伶奈に視線を送っていたのも無駄じゃなかったんだな。
「だからね、カラオケ行った時はもう瑛太君と隣になってドキドキしてたんだ」
「俺もずっと伶奈と隣で緊張してたよ」
「あはは、歌う時声上ずってたもんね」
あれを思い出すのは今でも恥ずかしい、盛大に音を外してたもんな。 伶奈と仲良くなりたくて今みたいにこうなりたくて凛に協力してもらってそして気付いたら凛の事好きになってて俺は今までの事を振り返っていた。
「その頃は何も考えないでただ瑛太君を想ってて本当に幸せだったなぁって今は思うよ。あっ……」
そう言った伶奈はポロポロと涙を流していた。 最近の伶奈はいろんな表情を見せる。今だって笑っていたと思ったら急に泣き出して。 て、そんな思いに耽ってる場合じゃない。
「伶奈、大丈夫か? なんか俺変な事言っちゃったか?」
「ううん、瑛太君じゃないの。 私が勝手に……」
タイミングの悪い事に伶奈が泣いている最中にオーダーしたケーキが来てしまい店員から怪訝な顔をされてしまった。でも俺の事はどうでもいい、このままだと伶奈が心配だ。
「私最近泣いてばっかだよね? ごめんなさい」
「いや、俺が伶奈をそんなに悲しませてるんだよな、本当にごめん」
「違うの、そんな事じゃないの…… ごめん。 泣いたら少しスッキリした、ケーキ食べよ?」
何か言い掛けた伶奈だったけどそれが原因だったらと思うと今の伶奈には聞けない。 慰めてやれる言葉が思いつかない、つくづく情けない……
気を取り直してオーダーしたイチゴのタルトを食べていると伶奈が美味しそうと言って一口食べさせてと言ってきたのでフォークで一口大に崩して伶奈の口に運んだ。
「わっ、ちょっ、おっひいよ」
どうやら思ったより俺の一口大が大きかったようで伶奈の口から溢れそうになった。
「ちょっと伶奈には大きすぎたな」
「もう、こぼしちゃう所だったよ! あ、瑛太君にも私のあげるね? あーんして」
伶奈のシフォンケーキをパクッと食べた。 今は結構慣れたけど前までは間接キスと思ってて味なんかわからなかったなぁ。 そして俺達はカフェを出た帰り道伶奈が俺の事をジッと見ていたのでどうしたの? と問い掛けた。
「あのね、瑛太君の事だから今日は私を元気づけようとしてくれたんでしょ?」
「なんか役に立てなかった気もするけどな」
「そんな事ないよ…… 私泣いちゃったけど瑛太君といるとね、ホッとできるよ」
そんな風に思ってるなら今だって寂しそうな顔するなよと思ったけど伶奈は気付いてないんだろうか? そして土曜になりとうとう文化祭の1日目が始まってしまった。




