その50
ある日の放課後俺はトイレから出て教室に行こうとしている所、横から腕を掴まれいきなり引っ張られた。誰かと思いその人物を見ると……
「伶奈?」
「瑛太君……」
伶奈はそのまま俺を引っ張っていった。 どこに連れて行くんだ? するとどうやら図書室のようだった。
「こ、ここなら誰もいないかな?」
「いないって?」
「あっ!」
そして図書室を開けると伶奈の予想とは違い先客がいたようだ。とても綺麗な女子とイケメンの男子がいた。この綺麗な人は椿先輩だ。てことはそっちのイケメンは彼氏かな? そして入ってきた俺と伶奈を見た。
「わ、可愛い……」
椿先輩が伶奈を見てそう言った。
「椿先輩こそ」
「あれ? 私の事知ってるの?」
「だって有名ですもん。もちろん春人先輩も」
伶奈がとなりにいる春人先輩に向かってそう言った。
「だってぇ〜、聞いた春人? そんな私が彼女でよかったわねぇ」
「はいはい、そっちこそ俺が彼氏でよかったな」
椿先輩はニコニコして春人先輩にちょっかいを出していた。思ってたより椿先輩って話しやすそうな人だな。あんまり綺麗だから気難しそうな印象を勝手に持っていた。
「あ、私は椿で間違いないけどそちらさんはどちらさん?」
「あ、1年生の岸本伶奈です。 こっちは同じクラスの広瀬瑛太君です」
「伶奈ちゃんかぁ? 可愛いッ」
椿先輩はそう言って伶奈に抱きついた。伶奈は緊張しているのかそのまま硬まっていた。そして椿先輩に頭を撫で撫でされている。
「そんな緊張しなくていいよぉ〜、そこがまた可愛いけど」
「そうそう、こんな奴に緊張する必要ないぜ? なんてったって俺もその頃椿にコーヒー吹きかけられたし」
「バカッ! なんて事思い出させんのよ!? 恥ずかしいじゃない」
「ハハッ、その2人見てたら思い出したわ」
「バカな春人の言う事は気にしないでね、私達図書委員やってるからよくここに来るんだ。あんまり人来ないしね」
「あ、そうだったんですね」
「椿、今日は俺達忙しいから他行こうぜ?」
「あ、そうだね。 私達もうしばらくしたら戻ってくるからごゆっくり」
そう言って先輩達はどこかへ行ってしまった。 てか思いっきり俺達に気を遣って出て行ったようだ……
そして伶奈を見ると俺を睨んでいた。
「瑛太君、さっき椿先輩に見惚れてたでしょ?」
「いや、そんな事ないって。 確かに綺麗だなって思ったけど」
「あははッ、わかってるよ。ちょっと瑛太君をからかっただけ」
「それでどうしたんだ? いきなりこんなとこに来て」
そう言うと伶奈は少し困ったような表情をした。 何か言おうかでも言いたくないようなそんな感じだった。
「あのね、私少し失敗しちゃった」
「え? 何が?」
「瑛太君に時間あげ過ぎたって思ってるの。 私ここ最近…… ううん、もっと前からずっと冷静じゃなかった」
伶奈はとても思い詰めている、 いつもの伶奈らしさがない。
「本当は私…… 私今すぐにでも瑛太君の彼女になりたいの! 凛ちゃんだってそうかもしれないけど私は……」
「なぁ、よくわかんないよ? どうしたんだよ伶奈」
「私達両思いだったでしょ? 瑛太君は凛ちゃんも好きだって言ったけどそれは私の事よりも後からの感情だよね? だったら私と」
伶奈はそう言い俺に迫ってきた、伶奈に無理矢理図書室の死角に連れて行かれ俺に口付けしてきた。伶奈がそんな風に思ってくれるのは嬉しい。
だけど伶奈は何焦っているのか無理をしているような感じでそんな伶奈と俺はそういう事をする気にはなれなかった。
それに凛に黙って何も告げずに伶奈と関係を持つなんて伶奈との約束を聞き入れた凛にも失礼だと思った。
「伶奈、無理して凛にも何も言わないでこんな事するのやめよう? しかもこんな場所で」
「私無理なんかしてない! 瑛太君とずっとこうなりたいって思ってた、もう約束の日まで1ヶ月もないんだよ? 仮に瑛太君がどっちを選んだって私は……」
「ちょっと落ち着けって! 伶奈らしくないぞ?」
そう言うと伶奈はピタッと動きを止め少し俺から離れ顔を伏せた。
「私らしいって何?」
「え? 伶奈はいつだって優しくて綺麗で俺の事とか…… それに凛の事だって。喧嘩しててもいつも相手の事考えてたじゃないか?」
「それも私だし今の私も私だよ。凛ちゃんとだってこれからも仲良くしたいし友達でいたいって思ってるよ…… ねぇ、今の私嫌い?」
嫌いなわけあるかよ…… 伶奈の事を嫌に思ったことなんて1度もない。 だけど2人に対して失礼な事をしている俺には何も言えなかった。
だけど伶奈が約束を破ってまで思い詰めていたなんて俺は全然気付けなかった。だからこんな事になってるんだろうけどさっきまで普通の伶奈だったのにいきなりこんなに豹変するなんて……
「何も言ってくれないんだね…… やっぱりこんな私は嫌い?」
「違うんだ、俺って伶奈がここまでしなきゃいけなくなるほど鈍い奴なんだなって思ってたんだ、ごめん」
「最初は…… こんな強引な事するつもりなかった、だけど、ひっ……時間が迫ってきて私どんどん余裕がなくなって…… ふぐっ…… うぅ……」
伶奈はポロポロと涙を流しさっきまで興奮しかけてた伶奈は俺の胸で泣き始めた。
凛はよく感情を表に出す方だったので珍しくはなかったけど伶奈がこんなに泣くほど取り乱したのは初めてだったので俺もどうしていいかよくわからなかった。
だけどこんな風にさせてしまったのは俺のせいだしなんとか泣き止んで欲しくて伶奈の背中を摩り頭を撫でた。すると俺が触れた途端ビクッとしたけどすぐに伶奈は俺にに身を委ねた。
そして少し落ち着いたのか俺に顔を向けた。涙で目を少し腫らした伶奈の顔が近付いた。そんな顔でも伶奈はとても綺麗で妖艶だった。
「ごめん、ごめんなさい。 やっぱり私らしくないよね…… こんなんじゃ瑛太君もいやになっちゃうよね」
そうじゃないよと言おうとした時図書室の扉が開いた。 椿先輩達戻ってきたのかな? やっぱりここで何かするのは危ない、いろんな意味で……
「あ、まだ私達お邪魔だったかな?」
「え?」
今の状態を確認すると伶奈はまだピッタリと俺にくっついていた。 そして伶奈は泣いていたので椿先輩達には何か思わしげな表情に見えてしまったんだろうか。
「あ、いえ、大丈夫です! 気を遣わせてしまってすいません」
「あはは、そんな慌てなくてもお姉ちゃん達のせいで私らそんな光景は見慣れてるから大丈夫だよ?」
お姉ちゃん? ああ、奏先輩だっけ? 見慣れてるってなんだと思いながら俺は伶奈を連れていそいそと図書室から出た。 椿先輩はまたおいでと言ってくれたけど恥ずかしい場面に遭遇させてしまったので若干俺は気不味かった。
「2人ともどこ行ってたの!? 探したんだから!」
凛はとても怒っていたので宥めるのが大変だった。 ふと伶奈を見るといつもの伶奈に戻っていた、だけどこの状態って伶奈も無理してるんだなってわかった。今何を考えてるんだ? 伶奈……




