その47
長いようで短い夏休みが終わり数日が経った頃俺は屋上に前に凛に告白してフラれたサッカー部の先輩に呼び出されていた。とても重い雰囲気だ、いつかは痛い目見るだろうと思ってた。 そしてそれは突然やってきた。
夏休みが明けると橋本が注目を集めていた。 前に俺が髪型変えてコンタクトにすればもっといいんじゃない? と言った事を実戦してきたのだ。
相当可愛くなった橋本は巨乳も相まって男子から注目を集めていた。 もともとお喋りじゃない橋本は男子に話しかけられて焦っていたようだ。
橋本に注目する男子を遠目で見ながら迷惑だろうなと思いながら夏休みデビューを果たした橋本を見ていると凛が話し掛けてきた。
「橋本さんえらい変わり様だね? 瑛太の影響かな?」
「まさか本当にしてくるとは……」
集まっている男子の隙間から橋本はこちらを見て俺と目が合うと照れ臭そうにニコッと笑っていた。
「もう、瑛太が余計な事言うから橋本さんめちゃくちゃ可愛くなっちゃったじゃない」
「ええ、それ俺のせいかよ?」
でもやっぱり橋本は隠れ美人だったんだな。 橋本が可愛い事に気付かなかった男子は変わった橋本に今まで眼中になかったのに手のひら返しで接している。
本当に都合がいいよな、まぁ伶奈と凛に都合よく接している俺も人の事は言えないかと思っていた。
そして大分橋本の人集りも落ち着いた頃橋本は俺の所へやってきた。
「ど、どうかな? 広瀬君の言った事を参考にしてみたんだけど……」
「凄く可愛くなったよ橋本」
「嬉しいな…… 広瀬君にそう言われると」
橋本は顔を赤くさせてそう言った。 さっきまで男子に話し掛けられていて少し迷惑そうにしていた時の表情とはまるで違っていた。
「瑛太君、何見惚れてるのかな?」
伶奈が若干不機嫌そうにその様子を見て俺に訪ねてきた。 そういえば前に橋本の件で伶奈に言われたっけ……
「あ、いや、そんな事ないって」
「いや、そんな事あるよ? 瑛太」
凛も乗っかってきた……
「あ、広瀬君の事怒らないで? 2人の邪魔しないから」
橋本は焦ってそう言った。 前にもそんな事言ってたけど控えめな橋本らしい。そう言って自分の席に戻っていった。
「これ以上ライバル増えたら私でもお手上げだよ。 しっかり自重してね? 瑛太君!」
「は、はい……」
伶奈にしっかりお灸を据えられ確かにこれ以上いろいろ拗れると俺もキツイので気をつけようと思い、それから更に数日が経った頃橋本が申し訳なさそうな顔で俺の前に現れた。
「広瀬君ごめんなさい!」
「え、どうかしたの?」
「あの、昨日私サッカー部の先輩に告白されたの。 そ、それで……」
「うん?」
「そ、それでその人あんまりしつこくて私好きな人いるって言っちゃったの……」
「ま、まさかそれって……」
横から凛が割り込んできた。が、俺もまったく凛と同じ気持ちだった。まさかそれって俺の事? なんて言われたりして……
「うん、広瀬君の事が好きって言っちゃったの。 あ! でもそれはその場を凌ぐための嘘であって、でも広瀬君の事は好きなんだけど! あ、あれ!? そういう意味じゃなくて」
橋本はすっかり収拾がつかなくなりしどろもどろになっていた。
「はぁ、やっぱり橋本さん瑛太の事好きだったんだ」
「で、でも私岸本さんとか長浜さんより広瀬君の事後から好きになったから2人の邪魔とかする気なくて見てるだけでいいからって」
橋本は言ってて顔がどんどん赤くなり最後の方は聞こえないくらい声量が小さくなっていった。
「本当に大丈夫なんでしょうね? 瑛太!」
「よりにもよって瑛太君だなんて瑛太君油断も隙もないんだから!」
2人にジトッとした目で見られるが俺だってその気があって橋本に接していたわけではないのでそう言われても困るんだけど……
そして事態は悪い方へ進み俺はサッカー部の先輩に放課後呼び出された。先輩は腕を組んで仁王立ちし明らかに怒りの表情を俺に向けていた。
「おい、てめぇ調子乗りすぎじゃねぇ? 凛だけならまだしも他にも2人女の子侍らせてるようじゃねぇか、ことごとく俺の邪魔しやがって」
「別に邪魔とかしてるわけじゃないんです。ただ自然にこうなっちゃって……」
「お前みたいになんの取り柄もない奴がなんであんな可愛い子達にモテるわけ? 俺の方がよっぽどイケメンだし頼り甲斐あると思うけど」
よく自分でそこまで言えるなと思ったが確かに先輩はイケメンだしスポーツやってるだけあってガッチリしている。
凛達はたまたま俺に好意を持っていただけであってそれが運の悪い事に先輩と被 ってしまっただけなんだけどな。
「俺もこうなるなんてわからなかったんで本当にすみません」
こんな面倒な事は謝り倒してなんとかこの場をやりきろうと考えた。 だが先輩の怒りはそれで収まらなかった。
「てめぇが女を連れて帰って行く姿が嫌でも目に入ってムカつくんだわ」
先輩からしてみればそんな光景目の当たりにしたら確かにむかつくだろうな……
「これからは先輩の目に入らないように気をつけますので許してもらえませんか?」
「いーや、ダメだね。 許して欲しいならこれからはあいつらと一切近づくな、それならいいけど?」
それを聞いた俺はなんでそこまでこいつの言う事聞かなきゃいけないんだと思った。
俺は伶奈が好きだし凛も好きだ。この2人に関する事以外ならなんでも言う事聞いただろうけど2人の事だったら話は別だ。
「なんで先輩にそこまでしなきゃいけないんですか?」
俺も喧嘩口調になってしまった。 そうすると先輩は露骨に気に入らなそうな顔をして俺の胸ぐらを掴んで凄んで見せた。
「てめぇ殴られたいの?」
「いいんですか? そんな事したら部活に響くんじゃないですか?」
「別に響いたっていいよ? ただの部活だし、それに俺もともとモテるからサッカーなんてやらなくても余裕だし」
「じゃあ俺の事でそんなムキになる必要なくないですか?」
「てめぇは別だ、2回も俺の事邪魔したからな」
そう言って先輩は俺の腹に1発重たいパンチを放った。 グエッと変な声が出て俺は崩れ落ちる。
「あー、さすが何もやってないだけあってこんなんで悶絶してるなんて情けないねぇお前」
そりゃいきなり殴られればこんなもんだろと思ったが痛くて何も言い返せない。
そして髪を掴まれ無理矢理立たせられ同じ箇所にもう1発食らった。 正直ゲロ吐きそうだ……
このままボコられると思ったら屋上のドアが勢いよく開いた。
「瑛太ッ!」
「瑛太君!」
伶奈と凛と橋本が俺の所へ駆けつけてきてくれた。
伶奈と凛は崩れ落ちている俺を見て先輩にこれ以上殴られないように2人して俺を包み込んだ。 橋本は俺の前に立ち両手を広げて先輩の前に立った。
「あんたって最低! 自分がフラれたからって瑛太に報復するなんて」
「な、長浜、なんだってそんな奴庇うんだよ? こいつどこもいいとこないぞ? 今だってお前らに守られてて情けなくないか?」
「こんな事する先輩の方が情けないわよ! とっとと私達の前から消えてよ! これ以上瑛太に酷い事するんだったら先生とかに言いつけるわよ!?」
凛が凄い剣幕で言ったのが効いたのか先輩はチッと舌打ちして屋上から出ていった。
「瑛太君、大丈夫?」
伶奈がそう言ったので伶奈をみると泣いていた。伶奈だけじゃない、凛や橋本も俺を見て泣いていた。
「バカ! いなくなったと思ったらこんな所で殴られてるなんて」
「ああ、ごめん。 こんな事になるなんてな」
「心配したんだよ、瑛太君!」
「あ、あのもとあと言えば私のせいで広瀬君がこんな事になっちゃって…… 本当にごめんなさい!」
橋本は深く頭を下げて俺に謝った。
「橋本のせいじゃないって。 たまたま運が悪くてこうなっちゃったんだから仕方ないよ。だから頭上げろって」
「で、でも私が広瀬君の事が好きって言わなければ……」
「言っても言わなくても近いうちにこうなってたかもしれないしな、橋本は気にする事ないよ」
泣いている橋本をなんとか元気付けようと俺も強がって見せた、本当はまだ少し痛むけどなんともないフリをして伶奈や凛にも笑いかけた。
「瑛太、本当に大丈夫? なんだったら先輩の事私言いつけてこようか?」
「いいって、そんな事したらまた恨み買うかもしれないし」
「…… それもそうか、でも瑛太をこんな目に合わせるなんてあいつやっぱりムカつく」
「私もそうだよ、散々瑛太君の文句言って。 私はあの先輩こそどこがいいのかわからないもん!」
そしてその後は俺の事を心配した2人は俺を家まで送って行くと言い出した。てかこいつら来なかったらもっと殴られてたかもしれないと思うと先輩の言う通り俺は情けない奴かもしれない。




