その44
私が瑛太と伶奈ちゃんとこんな関係になってから少し経ちもう少しで夏休みに差し掛かろうとしていた。
私は瑛太とは付かず離れずを保っていた。 いや、保たれていたと言った方がいいかもしれない。
瑛太の家に伶奈ちゃんと行った以降も何回か瑛太の家にお邪魔したが付き合うまで一線を越える気の無い瑛太が思ったより手強くてやきもきしていた。
でもそれは伶奈ちゃんにとっても同じかもしれない。 あんなに迫っても瑛太は落ちてくれないなんて…… でもそれは伶奈ちゃんもこれ以上付け入る隙がないという安心感を与えていたのだけれど。
「おはよう!」
「凛おはよう」
朝、瑛太といつも通り学校に向かう。 瑛太は本当のとこどう思ってるんだろう? 普通にしているように見えるけど……
だけどそんな事聞くと瑛太にウザがられそうで。 瑛太だって考えてるのだろうからしつこく言われたくないよね?
でも私にとっては生殺しみたいな状態なので毎日不安だ。
「ねぇ……」
「なんだよ?」
「あのさ、私と伶奈ちゃん…… やっぱりなんでもない」
「え?」
どっちが好き? なんて言われても瑛太は困るだろう。それにもし伶奈ちゃんなんて言われたらしばらく立ち直れそうにないし。
教室に着くと伶奈ちゃんが瑛太に駆け寄る。 私はトイレに行きたくなり教室を出た。 まぁ私がいない間何かあるとは今の状態じゃあり得ないからね。
トイレを済ませてを手を洗っていると懐かしい声がした。 なんか凄く久し振りだった。
「あ、凛ちゃんじゃん、おひさー」
「鈴菜さん? 学校に戻ってきたの!?」
「そう、そろそろ欠席日数もヤバイしね、留年になったら目も当てられないもん」
「確かに…… 2ヶ月近く休んでたもんね? あのストーカー大丈夫だった?」
「うん、解決したよ! 結局最終的に警察沙汰になっちゃったけど。ていうか殺されそうになったかな、あはは」
「え!? そこまで? 」
殺されそうになった割には鈴菜さんはあっけらかんとしていてそんな風に感じさせなかった。
「でもさ、私こんなんでも結構落ちてるのよ。 まだ時間あるから話聞いてくれない?」
「え? あ、うん」
そして私と鈴菜さんは屋上の踊り場まで来ていた。 鈴菜さんと2人きりになるのってそういえば初めてかな? なんて考えていると……
「で、凛ちゃんは例の彼と順調?」
「順調かぁ…… どうなんだろ? 私の場合は順調というより止まっているというかなんていうか」
「あはは、何それ? 」
「なんか私もよくわかんない状態なの」
「凛ちゃんも悩んでるような顔してたからやっぱり微妙な感じなのね」
「私もって事は鈴菜さんも何か悩んでるの?」
「私の場合柚の彼の新村君が少しいいなって思っちゃったかな」
「ああ、あの凄く可愛い男の子」
「あ、 覚えてた?」
「そりゃあまぁ。 なかなかあんな可愛い男子いないもんね」
「私と柚が一緒に暮らしてたのは知ってるでしょ? その後ストーカーに付きまとわれて殺されそうになった時新村君私の事守ってくれてその時新村君って可愛いだけじゃなくてかっこいいなって思ったんだ。だけどね、その後が大変で」
「そりゃいろいろ大変だよ……」
まさか殺す殺さないの話題が高校生の私の耳に入るなんて鈴菜さんが来るまで聞いた事なかったし。
「柚錯乱しててね、ストーカーごと新村君まで殺そうとして……」
「え!? 何それ? どうして?」
「ちょっと柚は特殊な環境で育ってきたからさ。 そういえば私の噂って聞いた事ある?」
鈴菜さんの噂といえばあんまりいい噂は聞かないけど確か何か悪い事をしていたというのは聞いた事ある。
「私さ、ウリをしてたんだ」
「え? ウリって?」
「まぁ平たく言えば援交だね」
「援交? 鈴菜さん、そんな事やっちゃダメだよ!」
「うん、そうだよね。 だからもう辞めたんだけどさ。 怖い思いも結構したしね。 私柚に憧れてたんだ」
「朝日奈さんに?」
「柚もね、昔はウリやってて私みたいにやってみたいとかそういう軽いノリじゃなくて目的があってしてたんだけどね、綺麗でどんどんお金を稼ぐ柚がなんか眩しくて私も柚みたくなりたいって思って柚に頼んでさ」
鈴菜さん軽いノリでそんなとんでもない事してたんだ? そりゃ危ない目にもあうよ。 だけど朝日奈さんもそんな事してたなんて。 でも朝日奈さんはなんか普通じゃないような気がしたから少し納得はできる。
「あはは、凛ちゃんそんな目で見ないでよ、私がバカだってわかってるから。 今回の件も後ろ盾なしに私ひとりでウリやってた結果だから。 これは柚にも言われたなぁ」
「後ろ盾?」
「うん、ヤクザの事」
その言葉を聞いて私は身構えた。 鈴菜さんって思ってたよりヤバい人かも……
「大丈夫だって、もうそっち系とも縁は切れてるし。 だから柚くらいにしか相談出来なかったんだ」
「そ、そうなんだ」
「でもね、そのせいで柚、新村君にフラれちゃったの…… 私のせいなんだ。 私が変な頼み持ちかけて来なきゃ…… もうしばらくは新村君と柚は持ってたはずなんだけど」
「なんかそれだと遅かれ早かれ別れるみたいな言い方だよ?」
「ほら、柚っていきなり豹変したりしたでしょ? 何やらかすか私にも予想出来ないからさ」
「あ、ああ〜」
そう言われると確かにいきなり場が凍りつくような事言ってたなぁと思い出した。 少し関わり難い人だなって感じだし。
「でも本当は悪い子じゃないし、とっても可哀想なんだ、柚って。 でね、私のせいで新村君にもフラれちゃってさ、そこで凛ちゃんにお願いあるの」
「え? 私に?」
「少しでも柚の気を紛らわせてあげたくて、でも私だけだと場が持たないからさ、凛ちゃんにも来てほしいなって」
「ど、どこに? なんで私?」
「どこがいいかな? 後で考えとくね! ほら、私って噂のせいでろくに友達もいないしこんな事話したの凛ちゃんくらいだし」
「え、いきなりそんな事言われても…… 大体私も結構切羽詰まってるし」
「お願い! なんだったら凛ちゃんの彼も来ていいから! バカな私を助けると思って」
どうしよう…… そんな事頼まれたって。
うーん、ここまで話してくれた鈴菜さんの頼みを断るのもなんか悪い気もするし。
「わかったよ、付き合うけど瑛太も誘うね? 私瑛太とあまり離れたくないから」
瑛太も勝手に巻き込んじゃって悪いと思うけどもしそれで伶奈ちゃんと2人きりになったらもっと嫌だし。ごめんねと瑛太に思いながらそう言った。
「ありがとう、流石凛ちゃん!多分夏休みに入ったら誘うと思うからその時よろしくね!」
夏休み入ったらか。 それならまだちょっと先だし少し安心した。
「うん、わかった。 じゃあ私勝手に決めちゃったから今から瑛太に言ってくるね?」
「うん、本当にありがとう!」
そして私は教室に向かった。 はぁ、こんな事あんまり頼みたくないけど仕方ないか。瑛太嫌がるかなぁ? 教室に戻ると瑛太は伶奈ちゃんと話していた。 あの2人私がいない間に何話してたんだろう?
「凛ちゃん、遅かったね?」
「うん、ちょっと鈴菜さんと話してて」
「鮎川さん? あれ? 学校に戻ってきてたの?」
「うん、解決したみたいでさ。それでね瑛太、悪いんだけど」
私はこれまでの経緯を瑛太に話した。勝手に話に入れててごめんと謝りながら。
「なんだ、そんな事か。 別にいいよ?」
「え? いいの?」
「当たり前だろ? 凛にはいつも迷惑掛けてるしそれくらい引き受けるよ」
「私も行こうかな」
「伶奈ちゃんも?」
「だって凛ちゃんは私の友達でもあるし! それに瑛太君と2人なんて怪しい事しないかね」
「べ、別に何も企んでないし!」
こうしてその内鈴菜さん達とどこかで遊ぶ事になった。 瑛太が私の頼み事をすんなり聞いてくれて少し嬉しかった。
伶奈ちゃんは何を思ってるかわからないけど本当に友達だって思ってるのかな?




