その33
昨日は凛と放課後どこかへ行く予定だったが突然凛の知り合いらしき男が凛を連れて行った。
もしかしてあいつが凛の好きな奴なのかな? と思いながら通学していた。 凛が好きで伶奈も好きってもしどっちかと付き合ってたなら二股だよな?
なんてどちらとも付き合ってないのにそんな安易な未来予想をしていた。 そもそも告白した事もない俺はどういうキッカケでどういうシチュエーションで告白するのかそこから考えていた。
「瑛太ッ!」
背中に強い衝撃が走り前のめりに倒れそうになった。
「うわっ! ちゃんと支えてよ〜、私もちょっと危ないって思っちゃったじゃん」
「意識の外から急に勢いよく抱きつかれたらそうなるだろ」
「てか昨日はごめんねぇ。 誘っといてドタキャンしちゃって」
「同級生だったんだろ?」
「うん、まぁそうだね」
「もしかして凛の好きな奴ってあいつ?」
「え? なんでそうなるの?」
「いや、なんつうかイケメンだったし凛と並ぶとお似合いだなって思って」
「確かに誠治ちょっとカッコよくなったけど私の好きな人は誠治じゃないよ?」
「じゃあ一体誰なんだよ? 俺が伶奈を好きって凛は知ってるのに凛は自分の好きな奴は俺に教えないつもりか?」
「本当にね…… なんでわかんないのよ」
「は?」
「あ、ううん。 理由があって私の口からは言えないの、ごめんね」
「どんな理由だよ?」
「うーん、拗れに拗れた理由があってね。 とにかく秘密!」
「なんだよ、一方的だなぁ……」
「ねぇ、それより今日こそ一緒にどこか寄り道して行こう?」
「まぁ俺は特に予定もないからいいけど?」
「やったぁ! 昨日ドタキャンしたから断られると思ってた」
そして学校に行くともう体育祭が近いのでその練習が始まった。 クラス対抗リレーとか俺には苦手な競技ばっかりだ。
伶奈と凛は脚が速いそうで女子リレーの選手に選ばれていた。
そして体育の授業半ばやる気のない俺は2人を見た。
凛は自分で脚が速いと言っていたから走るのは速い。 凛がグラウンドを走っていく。
そして伶奈も凛からのバトンを受け取り走る。 あれ? 伶奈も選ばれるだけあってなかなか速いんだな。 寧ろ凛より速いくらいだ。 凛も駆け抜けていく伶奈を目で追う。
本当に伶奈はなんでも出来ちゃうんだな、そんな奴がこんな俺のどこが良かったんだろう?
体育祭とかみんなで勝つぞとか俺って全然興味ないし勝ち負けとかどうでもいいし早く終われとしか思わないもんな。
そして俺は障害物競争だ、ハードルとか跳び箱、平均台とか網とか、なんか小学生みたいだな。
俺の番が来たので3人並びスタートする、ビリになったら少し恥ずかしいぞ、伶奈と凛の視線も感じるし……
「瑛太ーッ! 頑張ってぇ!」
やめてくれ凛、これ見よがしに俺を応援されるとビリになった時余計に恥ずかしい……
そしてスタートした。 俺は早くも遅くもなかったが2番手だ、これを維持してやる! 平均台をこなしてハードルも難なく飛び越えた。そして跳び箱もクリアし残るは網を潜るのだが網が足に引っかかり俺はビリになってしまった。
うーん、ちょっと肩に力が入り過ぎたかもしれないと自分で自分を慰める。
「あー、瑛太途中まではまずまずだったのにねぇ、どんまい」
「そうだよ瑛太君、次は大丈夫だよ、ね?」
伶奈と凛が励ましに来たのがなんとも痛ましく思えた。
「それにしても伶奈と凛って脚速いよなぁ」
「私自信あったのに伶奈ちゃんもっと速いんだもん」
「あはは、凛ちゃんも結構速かったじゃん」
「伶奈ちゃん本当に運動神経も良いねぇ」
「せめて球技大会だったら俺も少しはマシだったんだけどなぁ」
「瑛太君はそっちの方が得意なの?」
「得意っていうか人並みっていうか」
「うちの学校の体育祭って規模が小さいよねぇ」
「まぁ3時間ちょいで終わるからな、こんなもんだろ?」
「そういえば二人三脚もあったよね?」
「あ、あったね! あれの練習はしないのかな?」
「私やるんだったら瑛太君としたいなぁ」
「わ、私も瑛太とは息が合うと思うから瑛太とがいいな」
あれ? 珍しく凛が張り合ってきた。
「私だったら瑛太君に歩幅合わせて上手く走れるよ」
「私だって瑛太に合わせられるもん」
あれ? なんか2人の雲行きが怪しくなってきたような……
「あはは、私達もなんだかんだで息合うかもね? 凛ちゃん」
「そ、そうだね!」
伶奈…… お前って奴は大人だな。 なんて思っていたら二人三脚の練習も始まった。 好きな人同士とかそういうのではなく女子と男子の背の順だったので結局2人とは組む事はなかった。
俺が組む事になったのは「橋本 水希」という子だ。話した事ない奴だな。
「あの、よろしくお願いします」
「おう、よろしく」
伶奈と凛とは違い眼鏡を掛けた地味っ子だ。 俺が言うのもなんだが。
脚を縛り肩に手を掛ける。
「ひゃっ!」
「え?」
「あうぅ…… ごめんなさい」
「あ、いや。 別に気にしてないから」
橋本は結構ガチガチになっていて足元も覚束ない。 これ大丈夫か?
「あの、頑張りますから!」
「あ、ああ。 俺も頑張るよ」
そう力むと尚更息が噛み合わず俺と橋本はクラスでもかなり遅い方になってしまった。
「あー、最悪。私と組んだ奴凄くいやらしい手付きで触ってくるし」
体育が終わり凛が愚痴っていた。
「瑛太だったら別に良かったんだけど」
「俺だと良いのかよ?」
「だって慣れてるし、あはは」
「なんか俺がいつもいやらしいみたいじゃないか」
「瑛太は橋本さんでしょ? 橋本さんが羨ましいなぁ」
「いや、実際組んだら全然息合わなくて橋本の奴もガチガチでさ……」
「多分橋本さんも慣れてないのかもねぇ、私も瑛太と初めて話した時はガチガチに緊張してたし」
「お前そんな感じしないのにな、つか俺くらいで緊張してたのか?」
「あははッ、私でも改まっちゃうと意外と緊張しちゃうよ。 それより瑛太、今日どこ行くか考えてた?」
「あ、ごめん。 凛にお任せしようと思ってた」
「だと思ったぁ、瑛太ったら」
「なぁ、気になったんだけどあの時二人三脚でどうして伶奈に食い下がったんだ?」
「怒ってる? ごめんなさい、協力するって言ってたのに……」
「その事で怒るわけないだろ? 凛にこんなに協力してもらって。 ただなんとなく気になったんだ」
「だって…… 私だって少しは瑛太と思い出作りたかったんだもん。 伶奈ちゃんと付き合ったら私なんてほっとかれると思って…………」
「お前の事そんな風に扱うわけないだろ? 俺がもし伶奈と付き合えたら凛のお陰なんだから俺だってお前に協力したいっていうかさ、なんか最近凛の事……」
「瑛太?」
「えーと……」
俺が言い淀んでいるうちに次の授業が始まってしまった。 でもどこかホッとしているような気もしているのも事実だ。言ったら何もかも壊れてしまいそうでそれが怖くて。自分はなんてチキン野郎なんだ……
凛は少し気になっているようでこちらをチラチラと見ている。 ごめんな、俺はそんなに凛に心配されるような友達としての資格もないのかもしれない。




