その31
「瑛太君おはよう」
「おはよう伶奈」
「どうしたの? なんか今日元気ないね?」
「そうかな? なんでもないよ」
俺はなんでもないフリをして伶奈にそう言った。 やっぱり伶奈の事も俺は好きなんだ……
伶奈が俺の事をどう思ってるなんてわからない、それは凛も。
二兎を追う者は一兎をも得ずなんて諺がある、いつかは伶奈に告白しようと思っていた。
ダメで元々、伶奈も凛もダメかもしれない。 だけど俺はどっちに告白をした方が良いんだ!?
伶奈はそのまま友達でいたい。 凛は尚更友達でいたいんだろう。 伶奈に告白すべきか…… でも伶奈と凛本当に好きなのは未だにわからない。
「瑛太君この前具合悪そうにしてたよね? もしかしてまだ具合悪い?」
「え? 気付いてた?」
「当たり前だよ? 私だってそれくらいわかるんだから!」
伶奈はえへんという感じで腰に手を当てそう言う。
「お見舞いに行きたかったんだけどわたし瑛太君の家わからなかったし具合悪いのに連絡するのもどうかと思って……」
伶奈は伶奈で俺の事を気にかけてくれてたんだな、凛とは違って控えめな所が伶奈らしい。
って何上から目線で冷静に分析してるんだ? 俺なんかが失礼だろそれは…… そもそも俺は凛を好きになってはいけない気がする。
こんなに伶奈と仲良くなれたのは凛のお陰でもある。 俺が凛を好きになってしまったらそれが全部なんのためだったのかわからなくなる。
こんなの伶奈と凛には相談できない。 かと言って相談できる相手もいない……
あ、奈々って凛と仲良かったよな、奈々には相談したくなかったけど。
後で何気なく話してみるか……
「おーい、瑛太君! おーいってば!」
「うわっ! ビックリした」
「ビックリしたのは私だよ? そんなに考え込んじゃって……」
伶奈がジトーッとこちらを見つめている。 その様子を凛も気になったのかこちらを伺っている。
「瑛太君、今日お昼休み教室じゃない所で食べよっか?」
「え? ああ、いいよ」
伶奈はそう言うと自分の席に戻っていった。
「瑛太、どうしたの? いつにも増して変だよ?」
「いつも変人で悪かったな」
「何か気になる事でもあるんなら聞くよ?」
「いや、特に何もないから」
「え? …… うん」
凛はなんだか寂しそうに頷いた。 え? 俺何かきずつけるような事言ったか? 素っ気なかったか?
そうして授業中も横から凛の視線を感じながら授業を受けた。 ダメだ、完璧に恋愛脳になってしまっている。 俺は非リア充だろ! 落ち着け……
昼休みになり伶奈が弁当箱を持って俺の手を取り教室を出た。 横目で凛を見ると凛と目が合った。 凛は目を逸らす事なく俺が去るのをずっと見ていた。
あいつ上手くいってて喜んでくれているのだろうか?
「うーん、どこで食べようかな?」
伶奈がキョロキョロしてなるべく人が来なそうな場所を探している。 少し疎らに人がいるけど体育館の裏とかどうだろう? と俺は提案してそこに行く事にした。
「あ、ここ誰もいないねぇ! さすが瑛太君」
「何がさすがかよくわかんないけど誰もいないだろ? 少し雑草生えてるけど」
「そうだねぇ、でも気にしない気にしない!」
「そこに石段あるからそこで食べるか?」
「うん、そうだね! 」
そして弁当を開け食べ始めようとしたがなんでこんな場所に来たのか気になって問い掛けてみた。
「なぁ、なんで今日はこんなとこに来たんだ?」
「んとねぇ、瑛太君を気分転換させる為かな、なんか今日は変だったし場所も変わって誰もいなくなれば少しは落ち着くかなぁって」
「なんか気遣わせてごめんな」
「ううん、いいの。 そういう時って誰にでもあるじゃん? これって私の解決法なんだけどね」
「伶奈っていつだって優しいな。 俺も見習わなきゃ」
「ううん、そうでもないよ? 私だってそんな出来た人間じゃないもん、瑛太君だからだよ?」
「え、 俺だから?」
「う、うん。 だって瑛太君は友達だし優しくしてあげたいのは当然じゃん?」
「なんか伶奈に言われると照れるな」
「だって私もこんな事言うの恥ずかしい」
そして俺達は弁当を食べ終えた。 もう行こうか? と伶奈に言うと手を掴まれた。
「瑛太君、こっちに来て?」
「え?」
すると伶奈の横にまた座らされ頭を伶奈の膝の上に置かされた。これって膝枕じゃん……
「れ、伶奈?」
「何で悩んでいるのかわからないけど私だって相談乗ってあげたいし慰めてあげたいし…… 少しは頼ってくれてもいいんだよ?」
「ごめん、心配掛けてたんだよな。でもこれは俺自身の問題だから」
「うん、わかった……でも少しこうさせて?」
「うん、なんか落ち着く」
「良かった」
伶奈の膝枕でなんだか予想以上に心地良くなっていつの間にか寝そうになってしまった。 といより一瞬寝てしまった。
「……た君? 瑛太君?」
「ごめん、寝落ちし掛けた……」
「フフッ、じゃあ私も瑛太君の寝顔見ちゃった」
「あ!」
涎とか垂らしてないよな!?
「涎垂らしてなかったか気にしてたでしょ? 拭いたから大丈夫だよ?」
伶奈がハンカチを持っている、という事は……
「あー、ごめん。 汚い寝相を見せてしまった……」
「ううん。 可愛かったよ」
「俺が可愛いってなかなか伶奈も物好きだな」
「あはは、そうかもね! そろそろ授業が始まっちゃうから行こう?」
そうして俺達は教室に戻った。 やっぱり伶奈の事が好きなんだっていうのは動かない。だけど凛も好きなんだ。 どっち付かずの自分にイライラする。
こんな煮え切らない自分に優しくしてくれている2人は俺の事を恋愛対象として見てくれているのだろうか? それすらわからない。
友達として? 俺にとってその言葉は気持ちにストップを掛けさせるに十分働いてしまう……
教室に戻ると凛が隣にいる。 いつもと違うのは凛の事を意識し伶奈の時と同じく緊張感が生まれた。
「ねぇ瑛太、なんか私によそよそしくなってない?」
「そんな事ないけどなんで? 」
「うーん、私の気のせいかなぁ…… ねぇ、今日の帰りどこか寄って行かない?」
「ん? まぁいいけど」
「やったぁ! どこか美味しいお店あるか調べちゃおッ」
「凛って結構センスいいもんな」
「え? えへへ、だって瑛太が喜んでくれるように一生懸命調べてるんだから当然じゃん」
「そうだったのか」
「え、えっと! 私って優しいからさ」
凛はスマホで店を検索しているようだ。
そして学校が終わり校門を出ると凛が誰かに呼び止められた。
「凛、久しぶり」
「あ、誠治……」
「あのさ、ちょっと今日付き合ってもらっていい?」
「えっと……」
「行ってくれば? どっか行くのは明日でもいいからさ、他の高校からわざわざ来てくれたんだろ?」
「え? う、うん。 瑛太がそう言うなら…… わかった」
「凛の友達? ありがとう、気を遣ってくれて」
そして凛は誠治とやらとどこかへ行ってしまった。 俺は彼を見てすんなり引き下がってしまった。
どう見ても凛とお似合いのイケメンだったから。 俺なんかといるよりよっぽどいいだろと卑屈になった。




