その30
「ん……」
「凛、目覚めたか?」
「あ、私眠っちゃってたんだ?」
「ああ、グッスリ寝てたなお前。 疲れたんだろ? そんなんじゃ俺の風邪移るぞ?」
「大丈夫、私結構丈夫だし! ん? どうしたの? そんなに私を見つめて」
「いや、なんでもないよ」
そうして凛はまた俺の額と自分の額をくっつけた。 さっきまではただビックリしただけだったのに今になって緊張した。
「瑛太、どうかした? なんか少し反応違うよ? これってやってみるとよくわかんないね」
「じゃあなんでやるんだよ?」
「スキンシップの練習……かな!」
「なぁ凛、好きな奴の事思うとどんな気持ちになる?」
「へ? 何いきなり?」
「まぁ……なんとなく」
「ん〜、私の場合はその人には好きな人がいるから…… とっても切ないけどやっぱり好きで、諦めようと思ったけどそれも無理で。 その人を想うと苦しいようで嬉しいような、なんか言い難いけど心が乱されちゃんうんだよ? 悪い意味じゃないけどね!」
心が乱される……か。
聞いてみたがよくわからなかった、だけど凛の事はきっと好きだったんだ。
今思えばこんな練習とか言っても恋人紛いのキスや、抱擁なんて普通はしない。俺がそれを受け入れたのだって凛だから他ならない。
多分無意識ながら俺は凛の事が気になってたのかもしれない。 こいつは初めて出来た女友達だ。 それが俺にブレーキを掛けさせてたんだと思う。
だったらこいつも同じなのか? 俺の事が嫌いならこんな事はしてくれないはず……
だけど好きな人がいるし俺だって伶奈の事も好きだ。 ボーッとする頭で取り留めのない事ばかりが頭に浮かび消えていく。
「ねぇ、さっきから考え事? 」
凛は俺の意識を戻そうと半分起き上がってた俺の上に乗り俺の頬に手を当て大きな目で真っ直ぐこちらを見ていた。
凛の瞳に俺は目が離せなくなった。 なんなんだろう? こんなに凛に吸い込まれそうになったのはあの時凛を送って行った時くらいだ。
凛の顔がそっと俺に近付き唇に触れた。
そう思ったらそのまま凛にベッドに押し倒され今までとは違う深いキスだった。
凛の舌が俺の口の中に入っていき俺は凛の舌の動きに身を任せた。
どれくらいそうしていたのか、思ったより早かったのか遅かったのか凛は唇を離した。
「ん…… これで頭の中スッキリした?」
「余計グチャグチャになったよ……」
「流石に抵抗するかと思ったらすんなりしてくれて私もビックリしちゃった」
「こっちがビックリだわ、いきなりあんな事されたら俺みたいな奴硬まるに決まってるだろ……」
「だって瑛太さっきからずっと上の空だったから、せっかく頑張って看病してるのに寂しいじゃん?」
「俺が風邪引いてるのわかっててよくやるよな、流石に移るぞ?」
「言ったでしょ? 私丈夫だって! それにすぐ引き剥がされちゃうと思ったから…… そうしなかったって事はそんなに私が魅力的に見えたのかな?」
「いや、硬直しただけだって……」
実際は凛の言う通りなんだけどな。 こいつは何もしなくても見た目だけでも魅力的だろう。
だけど凛の内面や性格を知り、自分がこいつを好きなんだと思ったら抵抗なんて出来るわけなかった。
「でも凛、お前凄く綺麗だったよ……」
思わずこんな事を言ってしまった。 こんな事は普段恥ずかしくて言えない。俺なんかが言ってもキモいだけだし。
「え……?」
「…… だからさ、好きな人にも自信を持って接してもいいと思うぞ?」
ただこいつに好きな人がいるんだもんな。 凛も今でもこんな思いをしてるんだろうな。
俺は伶奈か凛のどっちが好きなんてまだわからないしそもそも2人が俺をそんな目で見ているのかすらわからない。
思い上がっちゃダメだ、モテる奴ならこんな時どうすればいいのかわかるんだろうけど俺はそんな奴じゃない。
「瑛太から言われると少し自信がついちゃうな…… 少しは私に関心示してくれたならそれだけで幸せだから」
少し凛は影がある笑顔でそう言う。
まぁそんな事言われたって実際はどうするのかは凛次第だしな。
俺は凛の好きな奴の事はわからないし俺がどう言ってもそいつの気持ちを動かせるわけではないしな。
「ねぇ瑛太」
凛は俺を抱きしめた。 力一杯に。
「ありがとう、これはお礼だよ? いつもの練習とかじゃなくて素直な私の気持ち」
「じゃあ俺も素直に受け取っておくよ」
「うん」
「お兄ちゃん、洗濯物乾いたから畳んで持ってきたよー? って、また2人してそんな事してる! なんか私お兄ちゃんの部屋のドア開ける度になんかフラグでもたってるんじゃないかと思っちゃうじゃない!」
「だからノックし忘れてるお前もお前だろ……」
「いや、まさか本当にそんなイチャイチャしてるなんて思わないし」
「イチャイチャって……」
「でも凛さん!」
なんだか奈々が凛に向かってウインクしている。 なんのサインなんだ?
「奈々、お前たまに凛にそんな意味不明なサイン送ってるけど何それ? 不気味なんだけど」
「し、失礼な! 可愛い妹に向かって不気味なんて! ねぇ凛さん?」
「あはは、そうだよ瑛太? 奈々ちゃんとっても可愛いじゃない? きっと奈々ちゃんもモテるだろうし瑛太はこんなに気に掛けて貰えて幸せだね」
「そうよ、お兄ちゃん! お兄ちゃんは見慣れてるだろうけど私だってモテるんだからね、こんな私が妹なんてありがたく思いなさいよ?」
「自分でよく言うよ……」
「お兄ちゃんは本当鈍感なんだから困っちゃうよねぇ、そういえば凛さん、今日泊まっていったら? 私凛さんが泊まっていってくれたら嬉しいなぁ」
「お前いきなり何いってんだよ!? そんなのすぐ決めれるわけないだろ?」
「凛さんの面倒は私が見るからお兄ちゃんはなんも心配しなくてよし」
「うーん、じゃあ私家に連絡してみるね? でも瑛太の親とか大丈夫なのかな?」
「私が凛さんと泊まりたいって言えば大丈夫だよ? お兄ちゃんだと過ちを犯しそうだからね! 凛さんがよくてもいくらなんでもね」
「俺をなんだと思ってんだよ? 大体風邪だしなんもできないだろ……」
そして凛は自分の親に電話をしてOKを貰ったようだ。
「やったぁ!凛さん今日は一緒にお風呂入ろうねぇ!」
「うん、奈々ちゃんといると可愛い妹が出来たみたいで嬉しい!」
そして奈々の勝手な提案で凛は奈々の部屋に泊まることになった。
その後俺の家族は凛を大歓迎した。凛が美人だからか俺の家族受けはやはり良く夕飯を食べ奈々と風呂に入って行った。
まさか凛が俺の家に泊まるとは……
俺は風邪を引いているので風呂には入らずそのまま寝ていた。
しばらくすると風呂上がりの凛が俺の部屋を訪ねた。
「瑛太、なんかごめんね? 図々しく泊まる事になっちゃって」
「いや、こっちこそ奈々がいきなりでごめんな」
「ううん、私は嬉しいよ。瑛太お風呂まだ入らないでしょ? 体とか拭いた?」
「あー、いや」
「じゃあ私拭いてあげるよ?」
「え? 恥ずかしいからいいよ」
「あはは、遠慮しない! 今日は看病しに来たんだから。 ね? 上だけでも拭こう?」
マジで俺の体拭くつもりか? と思ったが凛はやる気を出していたので上の服を脱いだ。
「え、えと…… し、失礼します!」
「そんなに緊張されるとこっちも緊張してくるんだけど……」
「だ、だって私もお父さん以外の男の人の体なんてよく見た事ないし……」
「それでよくやろうと思ったな……」
「え、瑛太の為に頑張るもん!」
そして凛は俺の肩に手を触れた。 俺だって家族以外の異性にこんな事されるなんて思わなかったからかなり緊張するし凛を意識しだしたから尚更だ。
そしてタオルで凛は俺の体を拭いていく。その途中……
「瑛太の背中って大きいね、やっぱ男の子だ」
「そうか?」
「瑛太……」
凛は後ろから俺を抱きしめた。
凛の体温が背中から俺に伝わる、とても熱い。
「えーと……凛?」
「こ、これもちょっとした特訓だよ? 私も兼ねてるんだから…… つ、付き合ってよね」
凛の心臓の鼓動が俺にまで伝わってくる、そして凛の少し荒い吐息が俺の背中に当たる。
俺が振り向こうとすると……
「見ちゃダメ! 見たら罰としてもっとキツい特訓が待ってるんだから!」
え? それって罰なの? と思いしばらくそのままでいたがもういいだろうと思い振り向く。
「バカぁ……見ちゃダメって言ったのに」
見ると凛の顔は紅潮していて目がウルウルとしていて今にも泣きそうだった。
「ご、ごめん!」
俺は顔を逸らそうとしたが凛に押さえられそのまま凛は俺にまた深いキスをしてきた。
そしてどれくらい交わしたのかわからないくらいの時間が経つと凛はそっと唇を離した。
「た、確かに普通の友達はこんな事しないけど…… わ、私と瑛太は特別な秘密を持った関係だから。 し、仕方ないよね!?」
「え、確かに特殊な秘密はあるけど……」
そしてしばらくくっついていたが上半身を拭き終え真っ赤になった凛は後は自分で拭いてねとそそくさと奈々の部屋に行った。
そして体を拭き終わった俺は眠りについた。 次の日も凛は夕方辺りまでいて特訓混じりの看病が続いた。
「熱は大分下がったようだね? 良かったぁ、これなら明日学校来れそうだね?」
「ああ、お陰様でな。 逆にお前に移ったんじゃないかとこっちは思ってるけどな」
「あはは、大丈夫だよ! それにもし移ったら今度は瑛太が看病しに来て欲しいな…… なんちゃって」
「うーん、それもそうだよなぁ」
「え? 本当? だったら移ってたらいいなぁ」
「え?」
「あ! ううん、なんでもない! じゃあまた明日」
「ああ、ありがとな」
なんだか看病されてはいたが変にドキドキさせられた。 そして俺は凛が好きなんだと気付いた事もあり本当にこのままでいいんだろうかと心の中で思った。




