その29
「で? お前いつまでいる気なの? 」
「へ? まだまだいるつもりだったけど?」
「まだまだって?」
「明日は日曜日だし別にまだまだいいかなぁ? って。 何かおかしいかな?」
「ああ、お前他にする事ないの?」
「ないよ? だって昨日からこうなるんじゃないかなぁって思って色々済ませたし!」
「色々済ませたって言ってるけど凛ってこんな事してていいのか? お前だって好きな人いるんだろ? お前みたいに積極的ならデートに誘ったりとかそんなんしてた方が自分のためじゃないのか?」
「うわぁ、それ言う……?」
「だってそう思うだろう?」
「積極的なんて言うけどさ、肝心な所で積極的になれないの。 いつもここでこうすべきとかこんな時こうしてあげたいって思うけどそんな時に限って前に出れないんだ」
「お前でもそんな時あるの?」
「あるよ。今だって上手く行ってるようで何も進展してないもん。これ以上どうやったら進展するかもわかんないし……」
「その言い様だと今はそんなに悪くないって事か?」
「うん、今だけはね、だけどそんなの直ぐにひっくり返っちゃうからさ」
「凛の好きな奴ってそんなに凛に想われてるの知らないで呑気な奴なんだなぁ」
「それこそ盛大なブーメランだよね……」
「え? 何が?」
「あ、ううん! なんでもない!」
「まぁでも看病して貰えるのは嬉しいけどさ」
「え? 本当!?」
「ああ、今まではそんな奴いなかったしいたとしても奈々くらいなもんだしな。それが学校で男子から人気の凛なんてな」
「えへへ、遠慮しないで私を頼っていいんだよ? 私って友情に熱いから」
「お前が友達になってくれて感謝してるよ」
「来週末は体育祭だからそれまでに元気にならないとね!」
「あー、そうだった。 思い出したくなかったなぁ」
「あれ? 瑛太って体育苦手なの?」
「帰宅部してるくらいだぞ?」
「私もそうだけど?」
「俺は運動系全般は苦手なんだよ」
「あれ? でも瑛太ってバスケはそこそこやれたじゃん?」
「球技ならまぁまぁだけど、得意なのがバレーボールじゃなぁ」
「あはは、女の子みたいだねぇ」
「体育祭ったクラス対抗リレーとか騎馬戦みたいなハチマキ取ったりするんだろ?」
「うーん、多分そうかも! 」
「じゃあ俺の活躍の場はないな、凛は運動系得意か?」
「得意って言われるとどうだろ? あ、でも脚は早いかも」
「俺の印象だと凛は伶奈とバトミントンしてたイメージしかないけど」
「あはは、伶奈ちゃん強かったもんねぇ、それに体育やってるとわかるけど運動神経いいよ、伶奈ちゃんは。 可愛くて運動も出来て頭もそれなりにいいってハイスペックだよね…… 道理で私なんかじゃ相手になんないはずだよね」
「何急に伶奈に対抗意識出してんだよ? 張り合うより凛には凛のいいとこあるだろ?」
「例えば?」
「まぁまず…… 凛は凛で可愛いだろ?」
「そんなのもう負けてます……」
「え?」
「あ、ううん。 他には?」
「俺みたいな友達にもこんなに尽くしてくれてるだろ? これって結構嬉しいよ?」
「でも瑛太っていちいち迷惑そうにするから私あんまり実感湧かないもん」
「ああ、ごめんな。 でも内心嬉しいよ。 照れ隠ししてるだけかもしんないわ」
「そ、そっかぁ」
「それに色々俺の為に服とか選んでくれたり伶奈と上手くいくようにしてくれたりなんか凛から凄く優しさを感じるよ」
俺は自分で言っていて違和感を覚えたのでそれ以上何も言えなくなった。
あれ? 俺の為に色々してくれる凛を見ていてその優しさと可愛らしさに友達以上の好意が湧いてきている? なんか好きになりそうだなんて思ってしまった。
こいつにはこいつの好きな奴がいるし俺は伶奈の事が好きだったじゃないか? 今だってそうだ。
こんな事は思ったらダメだ、友達だと思って俺にこんなに良くしてくれている凛に失礼だ。
第一俺が凛を好きになったとしてもこいつにはもう好きな人がいる。 そうなったら俺と凛の友情は終わってしまう。
俺は危なく凛だけじゃなく伶奈まで失うような発言をする所だった。 というか何俺って上から目線なんだ? 伶奈だって俺と仲良くなりたいだけで友達以上なんてあり得るのか?
女となんて今まで付き合った事もないし女友達なんてのもいなかったから心の中では何を考えているのかわからない。
凛だってこうしてくれてるのは友達だからって強調している。 これは普通の事なのかもしれないし。
俺が思考の渦に陥っていると凛が何事かとこちらを覗き込む。 覗き込む凛の顔を見てドキッとした。
ダメだ、普段慣れている顔でも凛は可愛いし意識し出すとなんか調子狂う。
「瑛太? さっきから難しい顔して黙って具合悪くなっちゃった?」
「あ、いや。 そんな事ないけど」
「なんかちょっと顔色悪いよ? 少し寝なよ?」
「ごめん、そうするわ」
ベッドに入り凛が優しく俺に布団をかける。 そして凛は俺の手を握った。
「あ、安心させようと思って。 私のお婆ちゃんが私が風邪を引いてた時によくしてくれたの」
そうして凛はもう片方の手で俺の額を優しく撫でた。 凛の温もりを感じながら俺は眠りについた。
目が覚めるとベッドの横で凛もベッドに顔を乗せて寝ていた。 手はまだ握られたままだ。
こいつも寝ちゃったか。 凛の寝顔を見る。凛の整った顔は寝ていても可愛らしい。 俺こいつと何度かキスをしたんだよな…… 凛の口元は少し空いていた。
凛はいつも俺の為に行動してくれていた。 考えるとこいつって一体いつの隙に好きな奴と会ってるんだ?
自分の時間を犠牲にして俺に付き合ってくれてるのか? だとしたら俺はお荷物なんじゃないのか?
触ったら起きるかな? と思い凛の口元に手を伸ばそうとした。 すると……
「好き…… だよ……」
ビックリして体が硬直した。 寝言か、一体どんな夢を見ているんだろう? まぁ凛の好きな奴の事だろうけど。
俺は凛に触れようとした手をそっとしまった。
やっぱり俺って凛を好きになっている?
友達として好きだった、だが異性としてではなかった。 1度気がつくと後戻り出来ない。 俺は伶奈も好きだ、凛も。2人とも……? 俺は一体どっちが本当に好きなんだ?




