その23
「伶奈って呼んで!」かぁ……。
私にとって伶奈ちゃんは恋敵であって私としてはそんなに馴れ馴れしくするつもりはなかった。
何よ! 瑛太なんか鼻の下伸ばしちゃって…… とか思ってた私は自分は器が小さいのだろうか?
もしかすると瑛太はそんな私より伶奈ちゃんに惹かれるのもしれない。
何か言いたくても私が下した制約によってそんな事瑛太にも伶奈ちゃんにも言えない。
沙月に詰んでるんじゃない? と言われたがその通りかもしれない。 そして伶奈ちゃんと瑛太はデートする事になってしまった。
私は瑛太からそれを聞いた時かなりムッとしてしまった。 そして瑛太に冷たい態度をとってしまった。 だけどそれではいけないと思い楽しんできなよと送り出した。
内心凄く焦っていた私は沙月に頼み事をした。
「お願い! 沙月!」
「はぁ〜!? なんで私も巻き込むのよ!?」
「悪いと思ってるよ? だけど1人だと心細くて……」
「だからって広瀬君と岸本さんの後をつけるなんていい趣味とは言えないよ?」
「だって気になるんだもん」
「もしかすると見たくないもんまで見るかもしれないよ?」
「う…… 知らないよりはいいかもしれないし」
「広瀬君にゾッコンなのは知ってたけどまさかストーキングする事になるなんて」
「ストーキングじゃないよ? 見守るだけだって!ねぇ、こんな事頼めるの沙月くらいなの。 だからお願い!」
「はは…… ほんとあんたといると退屈しないわね。 わかったわよ、一緒に行けばいいんでしょ?」
「ありがとう! 沙月!」
「どうなっても私は知らないからね!」
そして放課後になり瑛太と伶奈ちゃんの跡を少し離れた所から隠れながらついていく。
瑛太! 近いよ、伶奈ちゃんともっと離れて! と思ったがそんなの聞こえるわけもなく2人の距離はますます近付いてく。
「イタタッ! ちょっとぉ! 悔しいからって私の腕を握り締めるのはやめてよ、あんた凄い力だよ?」
「へ? 」
気付くと隣にいた沙月の腕を握り締めていたらしい。
「あ、ごめん…… つい」
「あんたの嫉妬パワー半端ないわ…… そのうち腕握り潰されそう」
「もう! ごめんってば」
やっぱり嫌だよ、伶奈ちゃんと仲良くしてるのは……
そして2人は電車の中に入った。 私達も後ろから急いで乗った。
少し混んでいて私達は目立たなくなって助かった。 引き続き私は瑛太達を監視した。
「ちょっと凛、あそこのオヤジずっと凛をエロい目で見てるから気をつけなよ?」
沙月が小声で私に注意を促した。 だけど私は瑛太達を見るので忙しい。 チラッと私が沙月に言われた人を見るとサッと目を逸らされた。
まぁいいや、別に見てくるだけなんて気にならないしとそのまま視線を瑛太達に戻す。
そして少し空いてきた辺りに2人は動き出した。 あ、あそこに座るのかと思ったら電車が揺れて私もバランスを崩した。
「わわっ!」
後ろの人に倒れ込みそうになったが後ろの人が支えてくれた…… までは良かったがどうして私の胸元と太ももに手があるの?
見上げると沙月がさっき私に注意したオヤジがいやらしい顔でニコッと私に微笑んだ。 最低ッ!
でもここで騒いだら瑛太達に見つかってしまう、てか瑛太達は?
そして瑛太達を見ると私と似たような事になっていた。 はぁ? はぁ〜ッ!?
私はオヤジを振り払い瑛太達を凝視した。 瑛太、それって伶奈ちゃんの胸触ってない? てか伶奈ちゃんは恥ずかしそうにしているだけで嫌がってはいない……
「凛! 今あいつにセクハラされたでしょ?」
「もうそんなのどうでもいいの!」
「どうでもいいって…… あ! あの2人くっついてるじゃん」
聞くのと見るではまったく違ってて視覚情報から入るその光景は私に物凄くショックを与えた。 こうなるくらいは覚悟してたはずなのに……
そして2人がオロオロしているうちに座ろうとしていた席も埋まりまた立っている事になった。
そして今度は伶奈ちゃんから瑛太にくっついた。 後ろから体を押し当てて。 瑛太! 少しは遠慮してよ!
「だから痛いって! 私の腕持たないよ」
また凛の腕を握り締めていたらしい……
「だってあの2人あんなに」
「だから見たくないものまで見る事になるって言ったでしょ? てかあのオヤジの事いいの?」
「もうそれどころじゃないよ!」
その後電車はまた揺れ伶奈ちゃんが瑛太に体を押し付ける。 これは拷問だ……
そしてようやく悪夢の電車から降りると2人は少し話していた。
何話してるんだろう? ていうかこれからどこに行くのかな?
「まったく、あのオヤジラッキーだったわね凛、あんたも少しは気にしなさいよ」
「だから気になって見てるんじゃん」
「いや、そっちじゃなくて……」
これ以上瑛太と伶奈ちゃんをくっつけさせるのは耐えられない、 だけどそんな事も出来ないと私は思いながらまた2人の跡をつけるのだった。
しばらく歩くとゲームセンターのようだった。 ああ、ここなら変な事できないよね? と私は安堵してまた2人を監視した。




