その21
「瑛太おはよう!」
「おはよう凛」
凛とキスをしてからなんだか変に凛を意識してしまう。 あの唇で俺に触れたんだよな?
凛が喋っているとついつい唇に目が行ってしまう。 凛の程よくプックリとした唇が動く度に俺は目で追う。 これが童貞かと俺は自嘲気味に笑った。
「ん? どうしたの瑛太、ボーッとするのはいつもの事だけどさ」
「あ、いや。 よく喋る口だなぁと思って。 この前はだんまりしてたくせに」
「私でもたまには静かな時だってあるんです! どう、意外な一面だったでしょ?」
「へぇ、そうか」
凛はこの前の事どう思ってるんだ? ただ友達として本当にそんな事をしたのだろうか?
自分だったらもし立場が逆なら出来るだろうか? 俺が岸本の事を好きで凛にも好きな奴がいて凛に協力する?
ダメだ、それは岸本に対する裏切りだ。
だけど凛は俺を大事な友達だと言った、そんな大事な友達と好きな人を天秤に掛けて俺を選んだ?
いや、そもそも俺は岸本とは付き合ってない。別に裏切りとかではないかもしれない。
好きだと思っているだけでそれは凛が好きな奴も凛は好きだと思ってるだけで確定してはいない。
だから岸本と結ばれたいっていう俺の気持ちを優先していたのか? 凛だって好きな人と上手く行くように自分も練習を兼ねている的な事を言っていた。
それなら全て辻褄が合う。 だけどなんだろう? それは理屈では確かにそうかもしれないけど俺はそこまでしようと思うか?
俺は女心をわかってないとよく言われていた。 凛は女だ、男とは思考回路がまるで違う。 女にはできるけど男にはそこまでするっていう事はないのかもしれない……
考えれば考えるほどわけがわからなくなってくる。
「ねぇ、本当にどうしたの? さっきから私の事ジーッと見てるけど上の空のようだけど?」
「いや、お前って何考えてるのかなぁって」
「え!? 私ってそんなに何考えてるのかわからない? もしかして軽い女とか思ってる?」
「いや、そこまで言ってないだろ?」
「私瑛太の事は真剣に考えてるよ? 好きじゃなかったらあんな事しないもん」
「え?」
「あっ! 大事な友達としてね! それくらいしてあげたいって思う私の気持ちって変?」
「な、なんか俺にはやっぱ女心って難しなって思っただけだよ」
今の感じだとやっぱり凛は純粋な気持ちで俺に協力したいって思ってくれてるのか……
なのに俺はこいつに何もしてやってないんじゃないのか? それで俺は凛がそういう事で困ったらどうしてやれる?
もし仮に岸本と付き合えたらとしてそうしたら俺は凛とはこんなに接しなくなるかもしれない。
岸本はどう思うかわからないけど恋人がいるのに他の女と仲良くしてたら傷付くかもしれないしな。
凛はずっと片思いの好きな奴と結ばれないで協力だけさせて俺は知らん顔か?
それって俺はとんでもない薄情な奴なんじゃないだろうか……
「なぁ、凛の好きな奴ってどんな奴?」
「え? どうしてそんな事を聞くの?」
「いや、なんとなく」
「そうだねぇ。凄く鈍感なんだよね、私がいくら振り向いて貰おうと頑張ってるんだけどその人には私なんか眼中にないみたいなの。 てか私が好きだっていうのに気付いてすらないかもしれない」
「なんだよそれ? お前レベルの奴でも眼中ないの? 理想高すぎなんじゃね? そいつ」
「あははッ、そうかもしれないね! 私自分なりにかなり頑張ってるんだけどな」
「そんなに頑張ったのか?」
「うん、普通じゃ恥ずかしくて出来ないような事だってしたのに効果あったかどうかすらわかんないもん」
「へぇ、めちゃくちゃ鈍感なんだなそいつ」
「私がはっきりしないから悪い部分もあるんだけどね。 たださ、私からしてみたらその人の事それでもどうしようもないくらい好きなの。 前よりもずっと好きになっちゃったんだよ」
「そんなにそいつの事想ってるんだな」
「うん、だけどダメになるかもしれない確率の方が高いの」
「なんで?」
「言ったでしょ? 私なんか眼中にないのその人は」
「それって他に好きな人でもいるって事?」
「そうなの。 私よりその人にとってその子がずっと魅力的に見えるんだと思う。 もう最初から負けてたのかもしれない、それでも私は頑張ったんだよ? だけどやっぱり敵わないのかもしれないんだ」
「うーん、そればっかりは相手次第だからなぁ、そいつが鈍感だったら凛がそんなに頑張ってるってのもわかってないだろうし面倒な相手だな」
「本当だよ、でも好きになっちゃったんだもん。 しかもどんどん好きになってるから私かなり重症かもね」
「だったら思いをぶつけてみたら?」
「え?」
「そいつの事好きなんだろ? こんなに頑張ったってそいつにもわからせてやったら?」
「私だってそう言えたらどれだけ楽か…… でもこじれにこじれちゃってさ、私が悪いんだけどね。 でも1番怖いのはその人に告白してダメだったらどうしようって」
「でもわかんないじゃん?」
「言ったでしょ? ダメかもしれない方が確率高いって。 瑛太にわかる? ずっと片思いでいてひょんな事から偶然出会えて…… 奇跡だと思ったんだよ? なのにその人はもう好きな人がいたんだ、だからそんな人に私が告白したってさ、結果は見えてるよ」
こいつ結構辛い片思いしてたんだな、突っ込んで聞かなかったからわからなかったけどそんな理由があったのか。
「あっ! だから瑛太の事は応援したいなって、それだけだから!」
「いや、そんな焦らなくても……理解したから」
「……うん」
「だったらさ、俺に出来る事あるなら言えよ?」
「え?」
「凛にばっかり協力してもらってそれで俺が上手く行っても俺ばっかりそんな事されてたら対等な友達じゃないだろ? だから俺も協力するよ」
「…… 瑛太、ありがとう」
俺にそんな事を言われるとは思ってなかったのか少し凛は困っていたように感じたが俺に笑顔を向けてくれた。




