その20
「で! これこれこうなってああなりました」
私は昼休み沙月に瑛太と少し進展があったと伝えた。
「へぇ、やるじゃん。 まさか本気でキスとかするとは思わなかった。 焚きつけた甲斐があったわね」
「へへへ、瑛太私の事可愛いって言ってくれたよ。もう幸せ」
「んな事言っても根本的な事は変わってないじゃん?」
「え?」
「あんた浮かれすぎ。 岸本さんを好きなのは変わってないからね?」
「……う」
「それにそんな事して凛は友達なのにキスまでして軽い女なんじゃないのかって思われたかもしれないよ?」
「か、軽い女……」
「まぁ広瀬君の事だからそうは思わないかもしれないけどさ、ますます凛はわけわかんない奴だなって思ってるかもね」
「そんなぁ……」
「わわッ! こんなとこで泣きそうになるな、何事かと思われちゃうじゃない」
「ど、どうしよう!? 私軽くなんてないよ!」
「うん、そうだね。 どっちかってと重い女かな」
「どっちも最悪じゃん!」
「もうさ、なんで凛が広瀬君の事好きなのか言っちゃったら?」
「嫌だ。 瑛太はもう覚えてないしそんな事であの時の事ネタにして好きになってもらいたくない、だから昔の事抜きにして今の私を好きになってもらいたいの!」
「いやー、面倒くさいなぁ、凛って」
「面倒くさくて結構です」
「まぁ別にあの時の事なんて引っ張ってくる程の大層な話じゃないしね、なんだそんな事だったのかってね」
「そんな事でもそれから私は瑛太にずっと片思いしてたの! 本当はそれで終わるはずだったのに瑛太がいたんだもん! 運命だって思うじゃん」
「そんなに力説しなくてもわかってるって! ていうかあの場に私もいたんだけど広瀬君の記憶からはそれも綺麗さっぱり消えてるもんね」
「そうなんだよねぇ……」
「私だったらそんな奴とっとと忘れて新しい恋を探すわね。 広瀬君よりいい男なんてごまんといるわよ?」
「ちょっと! 私の好きな人の悪口言わないでよ! 沙月でも許さないよ?」
「あははは、冗談よ、そんな怒らないでよ」
「私にとっては大事な思い出なんだからね! 」
「まぁそれでも広瀬君からしてみれば何の話? 程度にしか思われないから無情よねぇ」
「いいもん! 私もともと思い出させようなんてつもりないし」
「でもさ、うかうかしてると岸本さんもそろそろ本格的にアピールしてくるんじゃない?」
「アピールねぇ……」
「じゃあさ、凛にキスされるのと岸本さんにキスされるのはどっちが広瀬君からしてみれば嬉しいと思う?」
「…………」
「それと凛と岸本さんだったらどっちに抱きしめられたいと思う?」
考えないようにしてた。 そんなの決まってる…… だから考えたくなかったのに。
「はっ!? あんた何泣いてんのよ! こんなとこでやめなさいって」
「だって……だってぇ!」
「あー、ごめんごめんね! 私が言いすぎたわ」
「沙月のバカァ〜!」
沙月にしばらく宥められようやく私の涙が治まってきた。
「まったく凛は手がかかるわねぇ。 広瀬君の前では無駄に強がってるくせに。隣のクラスの鮎川さんを少しは見習って自分からガンガン行っちゃいなさいよ」
「鈴菜さん? あの凄く綺麗な人だよね? でもなんか危ない事してたって噂聞いたけど?」
「まぁ綺麗なら凛も負けてないけどね、確かにそんな噂あったけどいつの事かそれに本当かわかんないじゃん? まぁあれくらい色気使って攻めちゃいなさいよ?」
「あ! でも私瑛太の妹さんと凄く仲良くなっちゃってさ、私の事応援してくれるって!」
「へぇ、妹取り込んだか。 でも結局広瀬君次第だもんね。 キスまでしたんなら本格的に押し倒して襲っちゃえば?」
「痴女じゃん、それじゃあ。 しかもそんな事したら瑛太に軽蔑されるし。 でも可愛いって直接言ってくれたんだから私の事少しは気にしてくれても良いのになぁ」
「だったら凛は次告白されたらOKの返事出して広瀬君の反応でも見てみたら?」
「そんな試すような真似したくないし好きじゃない人とは付き合いません」
「あくまで正攻法で行きたいなら岸本さんと2人きりにさせちゃダメじゃない?」
「だって協力するって私言ってるし……」
「あんたやっぱり詰んでるんじゃないのそれ?」
そんなの最初からわかってるけど瑛太と岸本さんが付き合うまでは私にも少しは望みがあるはず。
でも付き合ったらどうなるんだろう? 私はもう蚊帳の外で相手にもしてもらえなくなるのかな?
私だったら友達とはいえ瑛太と他の子がとても仲良くしていたら耐えられない。それは岸本さんだって同じだよね?
そしたら私は岸本さんに思いっきり敵視されるのだろうか? じゃあ今は?
「まっ! 当たって砕けろで行きなさいよ。 あんた可愛いんだから大丈夫でしょ!」
「それなんの根拠にもなってないよ?」
「ほら、そこに鮎川さんいるから男を落とす秘訣でも聞いてきたら?」
「鈴菜さんはいいってもう!」
「え? 呼んだ? 」
「ごめん、鈴菜さん。 何でもないの」
「ふぅん、悩み事あるんだったら遠慮しないでねぇ、凛ちゃん!」
「鈴菜さん、私悩んでるように見える?」
「見える見える! 好きな人で悩んでるんでしょ? 私の友達もそれで悩んでて同じような感じだったから。 あ、でも
私の場合悩みは聞くだけだから」
え〜、それじゃあんま意味ないけど人頼みはもともと私の性に合わないからまぁいいか。
「凛ちゃんの好きな人って朝一緒に来てる人?」
「そうだけど内緒にしててね? 鈴菜さん」
「わかってるって! ただ凛ちゃんにしてはなんだか普通っていうかもっとイケメン選ぶかと思ったんだけど」
私からしてみれば十分瑛太はかっこいいけどなぁ。
「鮎川さん、凛はもう広瀬君に盲目なのよ」
「あはははッ、なんかわかる気がする、私の友達も今まで付き合った事ないようなタイプを好きになってたから」
「鈴菜さんの友達って?」
「違う学校に行ってるのよ、この前会ったら可愛い男子連れてたわ。 私最近ストーカー被害に遭ってて困ってたの、それで相談しに行ったらね」
「ストーカーって……」
この前瑛太に適当な事言ったのに本当にそんな事ってあるんだなぁ。
「まぁ凛ちゃんも可愛いから気をつけなよ! それじゃ何かあったら聞かせてねぇ」
そう言って鈴菜さんは行ってしまった。
「鮎川さんストーカー被害に遭ってる割には元気だね」
「なんか鈴菜さん見たら少し気が楽になったかな」




