その14
家に帰ると奈々が出迎えた。
「お兄ちゃんお帰り! どうだった? 凛さんとのデート」
「いや、デートじゃないから」
「それ服? 凛さんが選んだの?」
「そうだけど?」
「見せて見せて!」
目を輝かせて奈々はそう言うので買ってきた服を奈々に渡した。
「へぇー! ブランド品じゃん、お兄ちゃんのくせに」
「俺のくせにって言うのやめろ」
「凛さんやっぱりセンス良いねぇ、お兄ちゃんに似合いそうな服よくわかってるじゃん! これなんか可愛い」
奈々は買ってきた服を手に取りそう言った。 ウサギがピストル持ってる服なんだけどな。 凛が買った服はウケが良くて安心した。
「本当お兄ちゃんには凛さんはもったいない人だよねぇ」
「お前らさっき何話してたんだ?」
「それは秘密ー! 女の子同士の会話だから男子は禁止です」
「随分と仲良くなったもんだな」
「凛さんとっても綺麗で美人だしね! それに凄く優しいよ? お兄ちゃん凛さんといてなんとも思わないの?」
「そりゃあ凛は可愛いと思うけど?」
「あちゃー、凛さんも苦労するわこりゃあ」
「え? 何が?」
「お兄ちゃんはもう少し女心を勉強しましょう!」
「ああ、女心って本当によくわかんねぇな、奈々なんていても全然わかんないしな」
「あー、お兄ちゃん今私の事バカにしたぁ! 後で凛さんに言いつけてやるんだから!」
「いつも俺の事ディスってるくせに何言ってんだよ」
「今日さらにお兄ちゃんをディスりたくなりました! そぉいや凛さんいつ家に来てくれるのかなぁ?」
「あー、そうだなぁ。 後で奈々が遊びたがってたって言っとくわ」
「やったぁ! さすがお兄ちゃん」
「凛の事だとチョロいのなお前って」
「当たり前じゃん! あんな美人な友達いたならもっと早く教えてくれればいいのに!」
「少しは俺の事見直したろ?」
「いえ、逆に見下げ果てました」
「なんでそうなるんだよ!?」
「あははは、内緒〜!」
そしてあっという間に週末が過ぎると思ったらその日の夜岸本からLINEが来た。
それはなんと明日遊ばないかという内容だった。 その日のために買った服がもう役に立つとは……
俺は喜んでいいよと返事を返した。 だけど金がない。 服を買ったせいで……
その事を岸本に伝えるとどこかその辺でブラブラしたりでいいからと言ってきた。 よかった、それなら大丈夫そうだ。
翌日になり岸本と待ち合わせた所に行くと岸本はもう待っていた。
「あ、広瀬君ごめんねいきなりで」
「全然いいよ、待った?」
「ううん、私も今来たとこ」
「それなら良かった、今日どうする?」
「じゃあその辺散歩しながら考えようか?」
「え? そんなんでいいの?」
「もしかして嫌だった?」
「いや、全然! むしろそれがいいな」
「フフッ、良かった。ごめんね、そんな事で呼び出しちゃったりして」
「こうしてゆっくり過ごすのも楽しいと思うよ」
「ありがとう。 そういえばなんか広瀬君ってオシャレになったね、みんなでカラオケ行った時よりも」
おお、早速突っ込まれたか。やっぱり女の子はそういうとこよく見てんだな。
「俺妹がいてさ、お兄ちゃんはダサいから女の子と会うならもっとオシャレになりなさいって言われてたんだ」
「あははッ、そうなんだ。 私ダサくたって気にしないのに。 てか妹いるんだね、知らなかったよ」
「まぁ俺と歩いてて恥ずかしくならない程度であればいいかなって思ってさ。 妹とは超生意気だけどな」
「フフッ、そうなんだ。恥ずかしいから…… 違う意味で恥ずかしいかな、ちょっとドキドキする」
「うん?」
「あんまり慣れてなくてさ、だから長浜さんとか広瀬君に普通に接してて羨ましいなって思うもん」
「ああ、案外俺の事男として見てなかったりしてな」
「そんな事ないと思うけどな、広瀬君かっこいいし」
「そんな風に思われた事あんまないと思うから真面目に言われると照れるな、しかも岸本みたいに可愛い子に」
「広瀬君は上手いなぁ、私こそ照れちゃうよ、あ! あそこの公園寄って少し休憩しない?」
「そうだな」
「じゃあ行こう!」
そう言うと岸本は不意に俺の手を取った。 ほんのり温かい岸本の手は緊張で少し汗ばんだ俺の手を握った。
不意打ちだろそれ、めちゃくちゃ嬉しいけど手を拭きたかった。汗ばんだ手なんて気持ち悪いよな……
だけど岸本はそんな事を気にする様子もなく俺の手を引っ張りベンチに連れて行った。
「フフッ、手握っちゃった。 男の人と手握ったなんて最近ないから恥ずかしかった」
「いや、俺もビックリした」
「ごめんね、嫌だった?」
「そうじゃなくて俺手に汗かいてたから汚かったかなって」
「あははッ、全然気付かなかったよ。 そんなの気にしないよ」
そして俺達は公園のベンチでしばらく休んでいた。
すると岸本がウトウトしだし、俺の肩に頭がコツンと当たった。
「ごめん、昨日の夜少し眠れなくて……」
「いいよ、それなら少し寝なよ?」
「ありがとう、広瀬君肩かしてもらっていい?」
「あ、ああ、どうぞ」
そして岸本は俺の肩に頭を寄せた。 岸本の凛とは違ったいい匂いが俺を刺激する。
俺がめちゃくちゃドキドキしているのとは裏腹に岸本はスゥーっと寝息を立てて寝てしまった。
どれくらいそうしていただろう? 俺は必死に悶々と闘っていた。
1時間近く経っただろうか? ある意味もっとこの時間が続いて欲しいと思ったが岸本は目を覚ました。
「ふぁ、ごめんなさい、私だけ寝ちゃって」
「いや、良かったよ。 岸本の寝顔も見れたし」
そう言うと岸本は真っ赤になった。
「あわわ、そんなとこ見なくていいのに!」
「岸本ちょっといい?」
「ん?」
俺に寄りかっていた方の髪の毛が少し乱れていたので俺が手を当て直した。
「あ……」
岸本は顔を真っ赤にして俯いた。
「あの、その…… ありがとう。なんか今凄く緊張した」
その日はそれで俺達は解散になったけど少し岸本との距離が縮まったような気がした。




