七 クリスナの計画
短いです。
ニールは、ライベルとクリスナ、どちらかに先に会うべきかと考えたが、先ほど喧嘩別れしたライベルよりも、まだ無難だと父親のクリスナに会うことにした。
彼の執務室を訪れたニールが扉を叩くと、待っていたかのようにクリスナに迎えられる。
「カリダ様とタエはどうだった?」
すでにクリスナの知るところであり、ニールは苦虫を噛み潰した様な顔をしたが、クリスナの前にゆっくりと座る。
親子の瞳の色は、王家の青色。ニールは探るように父の瞳を見ていたが、諦めた。体を動かすのは得意だが、彼は考えること苦手である。
「父上は、タエを王妃にするつもりか?」
なので単刀直入に彼を尋ねた。
「後々はそうしたい。それが国の安定に繋がる」
「ライベルは絶対に賛成しないぞ。シズコの死の責任をタエに押し付け、逃げている」
「わかっている」
クリスナは一度目を閉じてから、再び開ける。
「お前はどうしたいのだ?まさか、タエに何かしら思いがあるのではないな?」
「あるわけないだろう!そんな気分になれるわけがない!」
ニールは父親の指摘に、怒りを表し、立ち上がる。
「陛下のご様子を受け、王宮内でも火種が再び燻っておる。タエを公式に異世界の娘とした場合、お前の妻に添え、カリダの補佐として押す動きが出てくるかもしれない。それならまだいいが、陛下だけでなく、カリダの地位を脅かすことになる。わかっているな?」
「わかっている。そんなこと!そもそも、俺があの、タエを好きになることなんてありえない。あいつはシズコ様とは違う」
「そうだな。そうわかっているなら、よい」
クリスナはそう言って、二―ルに再び座るように促す。
「国安定のため、タエには王妃になってもらう。そのためには陛下を説得する必要がある」
「タエの意志は?」
「これは償いだ。そう伝えれば、タエも同意してくれるだろう」
「し、しかし!」
「タエは死ぬ気だろう。罪の意識に苛まれ過ぎている。その彼女に生きがいを与えるのだ。カリダはとても素直な子だ。彼とともに過ごせば、彼女の罪の意識も薄まるだろう」
「が、」
ライベルの意志だけではなく、タエの意志も確認しないまま、事を進めようとするクリスナにニールは戸惑う。けれども、間違ったことでない。牢屋で縮こまり、頭を下げたタエは死を望んでいた。
静子は死んだ。だが、状況から彼女のせいでないのは明らかだ。罪の意識を持つこと自体が不自然で、静子も望んでいないだろう。
そうニールは考え、具体的な方法を話し合おうとし、顔を上げる。
だが、彼が口を開くよりも先に、扉が乱暴に叩かれた。
「何者だ?」
「近衛兵団所属のガードラ・エファンです。至急お知らせしなければならないことがあります」
扉越しに聞く内容ではないと判断し、クリスナは扉を開けた。
ガードラはクリスナの背後にニールの姿を見てまずは敬礼する。
「ご苦労。ガードラ。何事だ」
近衛兵団長でもあるニールはクリスナの隣に立ち、用件を促した。
――陛下が倒れられました。
近衛兵には日ごろから緊急自体の場合は、各自で判断にするように伝えている。無論、その判断にいたるまで後日ニールに報告する必要はあるが。
今回もニールの命を待つよりも先に、ライベルを寝室に運び、医師を手配していた。そのことに、安堵して、二―ルとクリスナはライベルの部屋に向かった。
☆
「ライベル」
目を覚ますと、そこは彼の寝室で、カーテンを閉め切った暗い部屋の中、ぼんやりと静子の姿が見えた。
「シズコ!」
起き上がり、ライベルはすぐに彼女を求める。
けれども、ベッドから立ち上がり、静子を抱きしめようとしたが、手を宙をかくだけで、何も掴まなかった。
「ごめんね。ライベル。私はもう傍にいられない。だから、カリダのことをお願い。タエのことは怒らないで。彼女は何も悪くないのだから」
「シズコ!」
「ライベル。愛してる。だから、本当にごめんなさい。私の姿は消えても、いつもずっと傍にいるから。馬鹿な事はしないで。お願い」
「シズコ」
すっと、彼の唇に何かが触れたような気がした。
でもそれだけ。
静子は微笑むと溶けるように消えてしまう。
「シズコ!」
ライベルはそれまでいたはずの静子の残像を求めて、気が触れたように手で宙を切る。彼女の姿を探すように何度でも。
「シズコ!」
けれども、彼が静子に触れることも、再び彼女の姿を見ることもなかった。