五十六 指揮を執るもの。
打倒ライベルを目指すジスラン派は、王宮に向かいながら反ライベル派の貴族たちから兵士を集めるつもりだった。
けれども、それぞれの領地で領民や兵士が反乱を起こしたりして、貴族たちはジスランに兵を貸す余裕がなくなっていた。
兵力は増えることはなかったが、今動きを止めてしまっても、処罰されるのには変わりがない。
処刑まではされずとも、領地没収及び貴族の身分も剥奪されるのは目に見えていた。
三年前取り潰された貴族の二家は財産が残ったにも関わらず、結局運営を上手くできず、最後は粗末な暮らしに身を落とし、耐えられなくなり自害している。
あのような末路をたどるくらいなら、死んでしまったほうがいいとブリュノは考えていた。
「父上。このまま進むつもりですか?」
ブリュノの息子のドニは不安そうな顔色を隠すこともなく、馬を寄せてブリュノに伺いを立てる。
「ああ、そうだ」
無能者に成り下がってしまった息子にそう答え、彼は皮肉気な笑みを浮かべた。
「我が正統な王なのだ。我に従えば道は開かれる!」
後方を走る馬からはジスランの威勢のいい声が聞こえてくる。
「正義は我々ジスラン・アヤーテ王にある。ライベルを打ち取り、我々貴族の権威を復活させるのだ!」
ブリュノは笑みを引っ込め、声を張り上げた。すると兵士たちは声を上げ、おかしな熱が広がっていく。
ジスラン派はまるで何かに憑かれたように進撃をつづけていた。
☆
「ジスラン派はしぶといな」
「今さらやめられないというところでしょうか」
ライベルの言葉にクリスナが返す。
作戦を開始してから三日後、兵士を集められないジスラン派は進軍をやめるかとも思ったが、千人ほどの兵士たちは依然として王宮に向かっていた。
「諦めてほしかったのだが、仕方がない。次の作戦に移るぞ」
「はい」
クリスナが頷き、テーブルに置かれた周辺地図をカリダ、ニール、近衛兵団長ナイデラ、国防大臣シーズ、財務大臣マルク、外務大臣トマが囲む。
「現在ジスラン派はここにおります。明朝にはこの場所に移動するはずです。我々はこの場所でジスラン派を討ちます」
国防大臣シーズが、王宮から離れ、森を抜けた平地を指す。
「すでに、警備兵団の精鋭にその箇所へ向かっている。俺もこの会議が終わったら向かうつもりだ」
「私も近衛兵を率いてニールと共に出陣します」
ニールの言葉にナイデラが追随する。
「僕も同行する!」
「殿下!」
「カリダ!」
沈黙を続けていたカリダが発言し、ライベルを始め集まった者が皆抗議の思いを込め彼を呼ぶ。
「今回は、僕が懇意にしている貴族の者たちに兵を出させたんだ。王太子の僕が行けば士気があがる」
「殿下が指揮を執る必要はありません。俺も紛いなしにも王族でありますから、俺が参加すれば済むことです」
「それじゃ足りない。次に王になる僕が命を張ってこそ、今回王派についた貴族たちへ示しがつくと思うんだ」
カリダを諭すようにニールがいうが、カリダは退かなかった。
すると、ライベルが口をはさんだ。
「ならば、俺が指揮をとろう。カリダは僕のためと言っているが、これは俺に反抗する貴族との戦いだ。向こうは旗頭として遠縁のジスランをあげている。俺が正統な王として貴族たちの前で戦うことは、今後の王家への求心力につながるだろう」
「陛下!何をおっしゃってるのですか?」
今度はクリスナがライベルを咎めるように声を荒げた。
「そうです。王自らなんて。それが相手の狙いかもしれないのですよ」
シーズもクリスナの言葉に同意を示す。残る二大臣もシーズと同意見のように頷いていた。
「俺が倒れても、カリダがいる。今回は王としての威信を見せるつける必要があると思うのだ」
「しかし」
「俺が陛下を命がけで守る。父上、これまで何度も貴族たちは陛下に反抗してきた。今回は反王派をすべて取り除き、陛下の治世に賛同するものだけを残すのだろう?それなら、陛下は国王軍として指揮をとったほうがいい。すべての貴族に今回の戦いの意味をわからせるんだ」
「それなら僕が」
「殿下。あなたはまだ若すぎる。あなたが行けば陛下が年若い王太子を犠牲にするつもりなどと、おかしな噂が沸く。まだ機会は巡ってくる。それを待つべきだ」
「……わかったよ。ニール」
渋々だが頷くカリダにニールは彼の幼き姿を見て、懐かしくなる。
「そういうことだ。クリスナ、シーズ。俺はニールとナイデラと共に行くぞ。王宮の守りは任せた」
「畏まりました」
「承知仕りました」
反論はもうできないとクリスナとシーズは仕方なく賛同を示す。ほかの二人の大臣もそれに続き、最後の戦い準備は進められた。




