五十三 狩りの行事
カリダの学友の名前がずっとバラバラですみません。
ギャンダーとガーネイルです。
一週間後、今年も予定通り王宮の森を使って狩りの行事が行われた。
上位貴族及び役職につく貴族、今年はカリダの同期の卒業生も含め、参加者の数は過去最高になった。
しかしながら、カリダの同窓生が年若いものばかりであるのが理由で、婦人たちは例年通りの数で収まり、タエは前年と同様貴婦人を招いて王宮の池付近で茶会を催した。
この日、何が行われるのか、ライベルはタエに事前に教えてくれて、彼女は心の準備をしてこの日を迎えた。
「タエ。今日は一番獲物を多くしとめるから期待していて」
カリダにもこの狩りの行事の本当の目的を伝えられているはずなのに、タエに褒められたいのか、去り際に彼女に聞こえるようにだけそう言う。
まだまだ子供だと思いながら、期待していますと伝えるとカリダは嬉しそうに笑い、馬で駆けていき、もう八年来の付き合いとなるガーネイルとギャンダーが慌てて追うのを苦笑しながら見送る。
参加者の男性陣すべてが森に入り、茶会が始まった。
タエは婦人たちが不安を覚えないように、王妃として培ってきた経験を総動員して茶会に目を配る。
一刻ほどしただろうか。
森の中から喧騒が聞こえ始めて、婦人が騒ぎ始める。タエは下手に動くよりもじっと待っていたほうがいいと判断し、女性陣を安堵させるように語り続けた。
「王妃様。何が起きているのでしょうか?夫は無事でしょうか?」
「こんなところにいては危ないのではないのですか?」
「私も陛下と殿下のことは心配です。けれども私たちはここで待つのです。下手に動くと、邪魔になります。警備は近衛兵でも優秀なものばかりです。なので安心しなさい」
きわめて落ち着いた口調でタエは語り続け、騒ぎ立てる女性陣を押さえ続ける。
「王妃様」
そのうち一人の兵がやってきて、事が片付いたことを伝える。
「広間にまいりましょう。そこで殿方を待ちます」
タエがそう宣言し、婦人達は近衛兵に守られ、ゆっくりと移動し始めた。
(終わったってこと。ブリュノが主犯だと思うけど、捕まえたのかしら)
移動しながら、タエはブリュノの妻の姿を探す。彼女は何も知らされていないのか、ほかの者同様にただ不安そうに歩いている。
(ほかにもかかわっている者がいる。きっと広間で明らかにするのね)
タエはこれで終わりだと半ば安堵しながら、広間に向かっていた。しかしながら、事が起きたのは王宮だけではなかった。
☆
「こんなこと」
「どうして」
ほぼ同時期、マティス領に二十人ほどの山賊のような者たちが入り込んだ。
ニールとその二人の息子は無事であったが、領民に被害が及んだ。その中には、ロイドと仲がよかった領民の子供も入っており、領民の間で波紋を落とした。
山賊は山賊のなりをしていたが、貴族の者も含まれており、領民の子はロイドから服を借りて遊んでいたところを、ロイドと間違われ殺されていた。
入ってきた賊は半数以上を捕縛、あとは抵抗が激しく殺すことになってしまった。
親の怒りはロイド、領主にどうしても向かう。
命が狙われていると知っていながら、どうして服を交換などしたのだ、と。これからもこのようなことが続くのかと、領民たちは不安を募らせた。
そうして、ニールは決断をするしかなかった。
領地の管理を一時代理人に任して、ニールは子供たちを連れ、王宮近くのマティス家に移ることにした。
王宮の森、マティス領の襲撃は失敗したが、ブリュノは息子たちと王宮から己の領へ逃げだすことに成功していた。
ブリュノの妻を王宮に残したまま行動したことに、タエは驚きを隠せなかった。妻の処遇は迷った挙句に、王宮に軟禁となる。
牢屋ではなく、客間の一つを彼女に貸し近衛兵に見張らせた。
妻を使ってブリュノを説得する案もあったにはあったが、王としてあまりにも卑怯な手であったので、王宮へ軟禁という手段をとることになったのだ。
ブリュノはしばらくしてラコンブ領で声明を出した。
王の相応しいのは、ジスラン・アヤーテだと。
現王に不満を持つものは我の元へ集い、正義の鉄槌を下せと。
「ジスラン・アヤーテだとな。認められてもいないのにアヤーテを名乗るなど太々しいのもほどがある」
王宮から反ライベル勢力追い出し、近衛兵は半分にも数を減らした。
貴族たちも半分に割れ、もっぱら身分の高い者がジスラン側についた。
現在政堂の会議室にて、反ライベル派、逆賊への対策が話し合われていた。会議に出席するのはライベル、カリダ、クリスナ、ニール。それから外務大臣トマ・ガダンヌ、国防大臣シーズ・ブレイブ、財務大臣マルク・アベール、近衛兵団長のナイデラ・アサムだ。
王宮近くのマティス家にニールが母レジーナと子供たちと戻ってきたのは騒動から二日後だった。領地においてはマリアンヌの祖父に一時的であるが、代理人を任せてある。領地にこれ以上混乱を出さないように、移動の際は豪華な馬車を使い、警備を厳重にし、王族の王宮への移動を印象付けた。
領地には、守りを固めるため兵として鍛えた領民も置いて安全面を保障しておく。その上、ニール達王族が領地を去ったため、ブリュノ達の襲撃はもうないだろうと領民たちは安堵しているに違いない。
四年にも渡って治めていた領地、マリアンヌの墓の傍を離れるのは断腸の思いであったが、ニールは領民の気持ち、子どもたちの安全を考え、王宮周辺への移動を決断した。




