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身代わりの王妃は許しを請う。  作者: ありま氷炎
六章 貴族戦争
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五十一 画策

「寝たか」


 ニールは手に持っていた本を閉じると、子供達を眺める。

 ロイドは五歳、クルートは三歳なり、ニールは毎晩子供達に本を読み聞かせるのを日課としていた。

 あのニールが本を読むなんてと最初はレジーナが驚いていたが、三年も続けており、もう板に付いたものだった。

 マリアンヌが死去した後、クリスナのみが王宮近くのマティス家に戻った。ニールはレジーナにも戻るように勧めたのだが、彼女は頑として聞かなかった。

 ニールは椅子から立ち上がり、本を棚に戻す。それから子供達の額に口付けしてから部屋を出た。


 自室に戻り、酒を煽る。

 酔いが心地よく回るまで飲み続けてから、彼はやっと寝室に戻った。

 一人で休む大きなベッド。

 マリアンヌが倒れてからなので、もう四年近く一人で寝ている。

 慣れているはずなのに、気がつけば隣のマリアンヌを探すように手を動かしている自分がいて、その度にニールは苦笑していた。


(今やっと、陛下の気持ちがわかる)


 彼が自暴放棄になったり、死を望んだ気持ち。

 それが手に取るようにニールにはわかった。


(死ぬか……)

 

 マリアンヌが死ぬまで死への渇望など全くなかった。けれども、今はこの苦しみから抜け出したいと死について考えてしまう。


(ロイドもクルートもまだ小さいのに。マリーに顔向けできないぞ。こんなことでは)


 そう思い、彼は日々どうにか生きていた。


(今はだめだ。彼らにとって安全ではない)


 クリスナから状況を聞いていた。王族の血を引くということで、ニールだけではなくロイド達の命も狙われるかもしれないと。


(この土地で子供達を守りきれるのか。大丈夫だ。領民の兵もいるし、警備兵から仲間だったものを引き抜いた。俺が守らなければ、誰が子供達を守るのだ)


 ニールは自身に暗示をかけるように言い聞かせ、目を閉じた。

 

 ☆

 


「陛下。何かが起きているのですか?」


 王妃になり十一年、すでに意味はないかもしれないが二人は同じ寝室で寝ているという擬態を毎日続けていた。

 今日もライベルが寝室へ戻ってくるのを待っていたタエは、昼間の祝賀会の不穏さに不安を覚え、部屋に入ってくるなり待ちきれず問いかけた。


「お前にも話しておくべきかもしれないな」


 ライベルは少し考えた後、現在密かに準備が進んでいる反逆の動きを語る。


 今回反ライベル派、ブリュノ・ラコンブが旗頭に選んだのはライベルの祖父にあたるアヤーテ七代目王の妹パメラの孫だった。パメラは隣国エイゼンの貴族に駆け落ち同然で嫁いだ女性で、その孫はジスラン・オフレという。

 エイゼンでも地位も高くない貴族であったが、今回ブリュノに唆され、アヤーテの王位を狙うことにしたようだ。


「王位がそう簡単に手に入れられるとでも思っているのか。遠縁殿は」

「何も知らないのでしょうね。またはエイゼンでよい立場にいらっしゃらないのでしょう」

「確かにかなりの借金を抱えていたらしいからな」


 ライベルは皮肉気に口元を歪め、腕を組む。


「お前は心配するな。話さないほうがいいとも思ったがそれでは気が済まないだろう?」

「そんなことは……。教えていただきありがとうございます」


 揶揄するように言われ、タエは否定しながら礼を言う。

 いくら己が何もできないと知っていても、知らされていないのは傷つく。なのでこうして教えてもらってタエはライベルが己を信頼していることを知り、安堵する。


「さあ、今日も疲れただろう。部屋に帰って休むがいい」

「……あの」


 ライベル以外の王族の命が狙われていると聞かされ、気になったのは王宮から離れているニールとその子供たちだった。ライベルとカリダは王宮の近衛兵を使って警備ができる。しかしここから遠いマティス領のニール達を思い、心配になる。

 マリアンヌが亡くなり、一度だけライベルとともにマティス領に行きマリアンヌの墓を訪れた。空元気のニールを顔を見て何も言えず、無邪気な子供たちを見て泣きそうになり、涙を堪えた。

 マリアンヌの手紙が頭によぎるが、彼女はここ三年の間積極的にニールたちに関わらず、ライベルから間接的に様子を聞いているくらいだった。

 けれども今回は命に関わることで、タエは勇気を出して口に出した。


「マティス領の警備は大丈夫なのですか?」

「安心しろ。王宮からではないが人を派遣している。領地でも領民を鍛えて守りを固めているようだ」

「それなら安心です」


 ライベルの答えに息を漏らし、いつも通り礼をとるとタエは寝室に戻った。


 ☆


「本当にいけ好かない」

「その通りです」


 屋敷に戻り、ブリュノ・ラコンブは息子と向き合い酒を煽っていた。

 日中の祝賀会でブリュノの意見が通ったように見えていたが、ブリュノ自身にとってはライベルの笑みと言葉から侮辱の色を感じていた。

 ライベルが王になった時、彼はすでに二十七歳になっていた。

 当時まだ若かった彼はエセルの甘い言葉にのらず、財務部の一人の文官として働いていた。あの騒ぎで財務大臣が罷免、大臣たちにくっついていた者たちも減俸などの罰を受け、彼に機会が回ってきた。

 副大臣になってからすでに六年がたっている。

 前大臣が退任する際には己が大臣になると予想していたのに、任命されたのはマルク・アペールというもう一人の副大臣だった。

 副大臣がもう一人任命された時点で彼は嫌な予感を覚えていた。そしてそれは的中した。彼は哀れみに近い視線を浴びながら耐え、次の機会をまった。王立学院が設立し、息子を入学させ、その理想をしり、彼は道を探り始めた。

 エイゼンの友人からアヤーテ王族の話を聞き真意を確かめたくて、彼は自らエイゼンに赴いた。

 アヤーテ王族の一人、ライベルの遠縁にあたるジスラン・オフレと面談し、彼の未熟さ弱さを利用してブリュノはある計画を思い立つ。

 王立学院を卒業し、一人息子が学力不足から兵団入学に決まり、ブリュノは計画を実行することを決めた。

 同じような不満を覚える貴族たちに密かに接触して、彼は反逆の仲間を増やしていった。


「父上。まだ計画は実行されないのですか?」

「もう少し待つのだ。事は慎重に起こさなければならない」


 ブリュノは持っていたワイングラスを空にする。

 すると息子がさらに酒を注いだ。


「心配するな。駒はすでに手に入った。あとは時期を選ぶだけだ」

「……あのカリダが命乞いをする姿を想像するだけでぞくぞくします」


 力強く語る父の向かいで、ドニは不気味な笑みを浮かべた。


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