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身代わりの王妃は許しを請う。  作者: ありま氷炎
五章 王立学院
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四十九 マリアンヌの手紙

 マリアンヌの訃報は翌日王宮に届けられた。

 クリスナに王宮の出来事は伝えられており、彼は手紙に葬儀の参加を控えるようにライベルにしたためた。クリスナ不在、王まで王宮を離れたら、また何か企む者が出てくる可能性を考えたためだった。

 ライベルは理解を示したが、タエは自分だけでも葬儀に参加できないかと打診した。

しかしながら、クリスナ不在で宰相ではないが相談役のようになっている国防大臣シーズ・ブレイブに諭され断念するしかなかった。


 ――妻を亡くし、一人になったニールの元へ以前心を通わせた王妃が弔いに向かう。おかしな噂を呼び込むかもしれません。


 ライベルの怒りを買うのを承知で、シーズはそう進言した。

 タエ自身、彼の言葉に激高しそうになったが己の気持ちを優先して厄介な事態を引き起こすことは望んでおらず、ライベルを静めて、シーズの助言を受け入れた。


 そうして一か月が過ぎ、クリスナが王宮に戻ってきた。


「宰相閣下が?」

「そうです。いかがしますか?」


 彼が宰相の職に復帰して、王室では何度も顔を合わせていた。

 こうして一人で王妃の間を訪ねてくることは珍しく、伝言を持ってきたパル自身も訝し気な表情だった。


「通してください」


 王妃は宰相より身分としては上だ。断ることも可能だが、断る理由もないのでクリスナを通すようにパルに伝える。

 彼女は礼をとると外に出ていき、まもなくしてクリスナが姿を見せた。


「王妃様。この度は突然の訪問申し訳ありません。直接二人だけでお話がしたいと思い伺った所存です」


 間近でみるクリスナは随分老けた印象だった。

 孫が生まれてから老いを感じるようになったが、更に加速していた。けれどもその柔らかく見える青い瞳の中の鋭さは変わらず、タエは背筋を伸ばし応対する。


「これをマリアンヌから預かっております」


 懐から手紙を出され、タエは震える手でそれを受けとる。


「私は内容を知りません。もちろんニールも。ニールはその手紙の存在すら知りません。邪心されてしまうのが怖いということで、私が託されました」


 クリスナの言葉にタエは眩暈を覚えた。


(マリアンヌは最後まで信じきれなかったの?ニール様の愛を……なんてこと)


「王妃様。誤解をされないでください。マリアンヌはニールの愛情を疑っておりません。ただ、ニールに誤解されるのが怖かったようです」


(……よかった。マリアンヌはニール様の愛をちゃんと感じていたのね。でもどうして手紙なんて)


 タエは手紙を両手で包みこみ、マリアンヌのことを思う。


「王妃様。あなたは立派な王妃です。辛く当たったこともありましたが、陛下と殿下、そしてこのアヤーテを支えていただき感謝しております」


 彼の言葉に嘘はないだろう。

 けれどもタエは空虚さを覚えた。


(どうしてなのかしら)


「ありがとうございます。これからも私は王妃として陛下と殿下を支え続けます。これからもよろしくお願いします」


 気が付くとそう返して、タエはいつもの王妃の笑みをクリスナへ向ける。彼はぎこちなく笑みを返すと一礼をして退出した。


「タエ様?」


 クリスナを見送り部屋に入ってきたパルは、気が抜けたように椅子に座っているタエに声をかける。


「あ、パル。ごめんなさい。ちょっと一人になりたいの?いい?」

「勿論です。お茶の時間になりましたら呼びにまいります」


 パルはいつも通り無表情で答え、円卓のティーカップなどを片付けると部屋を出ていく。

 タエは大きく息を吐いた後、手紙の封を切った。



 王妃様


 あなた様がこの手紙を読んでいるということは、すでに私はいなくなっているでしょう。

 お義父様に手紙を託すことになり、ごめんなさい。

 この手紙をあなたに個人的に届ける方法が他に見つからなかったのです。

 ニール様に渡すと誤解されそうだから。

 私は、彼の愛を疑っておりません。

 それは心配されないでください。


 さて、どうして私があなた様にこのような手紙を残すのか、それは私が亡き後、ニール様と子供たちのことが心配だからです。

 前王妃シズコ様の意志を継ぎ、あなた様は長年陛下と殿下に尽くされてきている。邪心のある者なら陛下との間に子をもうけ権力を握ろうと思うのに、あなたは前王妃を敬い、決してそのようなことをされておりません。

 殿下に対しても実の子のように接し、健やかな成長を助けられた。 

 殿下の人柄はこの領地まで伝わってきます。

 未来の王として相応しい人格者です。


 そのようなあなた様に私は、ニール様と子供たちを託したいのです。

 もちろん、お義父様とお義母様がいらっしゃるので、このようなことをあなた様にわざわざ手紙でしたためることはないとお思いでしょう。

 お二人はきっと支えてくださります。


  王妃として今でも重圧に立たれているあなた様に私の勝手な願望を託してしまいごめんなさい。

 でも私はニール様と子供たちが心配なのです。

  あなた様に託すことで、私は心が安定し、静かに眠りにつけると思うのです。


  ニール様と子供たち、ロイドとクルートをお願いします。



  マリアンヌ・マティス


 

 

 タエは手紙を読み終わり、再び深い息を吐く。

 

「買いかぶりすぎ。私は罪を償いたいだけ。静ちゃんの死の。マリアンヌ。どうして、あなたが死ななければならなかったのかしら。どうして私はまだ生きているのかしら?」


 彼女は宙に向かって呟く。

 答える者などいるはずもなく、タエは目を閉じた。



 5章はここで終了です。

 6章はこれから2-3年後の予定です。

 今年中に更新できるように頑張ります。



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