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身代わりの王妃は許しを請う。  作者: ありま氷炎
五章 王立学院
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四十五 王立学院

 マティス家の領地に五日ほど滞在して、タエ達は王宮に戻った。


 王宮に戻ってから、貴族の学び場について本格的に話し合う。

 王宮内の図書館の近くに専用の建物を作り、王立学院として運営すること。


 語学、数学、社交、剣技の科目を作り、語学は図書館の館長が担当し、数学は財務部で最も優秀なものが教師に、社交は歴史と礼儀作法を学ばせることにして、貴族の中から選定した。剣技は近衛兵団から副団長を指名した。

 教師の選定、講義内容などの形を整え、王立学院の建設が始まってから、ライベルとクリスナは貴族たちを集め、説明した。

 期間は四年として、四年後の学業の成績によって文官か武官かの決定、所属先が決まるとの言葉に、貴族側から反発が上がる。

 けれどもそれを押し切って、ライベル達は王立学院の設置を進めた。


 一年後、王立学院は開校する。

 クリスナは反対したが、カリダと学友ガーネイルとギャンダーも入学した。

 入学は義務ではなかったが、すでに教育を受けている者も、十二歳以上から十六歳までの貴族が入学し、一年目が始まった。



「本当にいやになるよ。あいつら」


 今日は学院が休みの日であり、カリダは王妃の間に来て愚痴をこぼしていた。

 カリダの前では行われないが、学院では陰湿はいじめがはびこっているらしい。


「どうにか尻尾を掴んでやろうと思っているだけど」


 十二歳になったカリダは顔はまだ幼さを残し、けれども身長はライベルに迫るほどになっていた。


「あなたが入学してくれてよかった。能力のある子どもがおかしなことでつぶされるなんてあってはいけないから」

「僕、頑張るよ。荒立てない方法を今ガーネイル達と考えているんだ。王立学院はタエの夢だろう。国政にもいい影響があると思うから、学院の存亡に関わるようなことになったらどうしようもないからね」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 十二歳になってからカリダは少し変わったようにタエには思えた。

 去年までの子供っぽさがなくなり、彼女は少しだけ寂しさを覚える。


「さて、明日の予習でもしてくるかな。王太子である僕が他の奴らより成績が悪いとよくないからね」


 カリダはカップに残った紅茶を飲み干すと立ち上がった。



 ☆


「ロイド!」


 ニールとマリアンヌの長子ロイドは1歳半になっていた。生まれたばかりの弟クルートに興味深々なのか、周りに人がいないと近づきちょっかいを出す。それをマリアンヌが咎めるというのがマティス家の日常になっており、今日もロイドは大きな瞳に涙を浮かべて泣き出してしまった。その泣き言につられ、クルートまで泣き出し、屋敷内は大変な騒ぎになる。


「まあ、奥様。ロイド坊ちゃまも寂しいのですよ」


 

 年長の使用人サンディがロイドをまずは抱きしめ、マリアンヌに引き渡す。その後にクルートを抱きかかえあやした。

 マリアンヌに抱かれたロイドはその首に手をまわし、しゃっくりを上げていた。


「ごめんなさいね。ロイド。決してあなたを蔑ろにしているのではないのよ。クルートはまだ生まれたばかりで小さくて弱いでしょ?大切に守らないといけないのよ。わかるでしょう?」


 マリアンヌが背中を撫でそう説くとロイドは頷く。


「奥様。クルート坊ちゃまは私が見ておりますので、ロイド坊ちゃまとお昼寝されてはいかがですか?次の受乳まで余裕がありますし」

「そうさせてもらうわ。ありがとう」


 ロイドを抱いたまま、彼女は使用人に微笑みかけると彼の部屋に向かった。

 ニールは領民に呼ばれ視察中で屋敷に不在だ。

 そのことに多少の心細さを感じていたが、領主として仕事を投げ出してもらっても困るので、マリアンヌは気丈に振る舞いニールを見送った。

 ロイドの部屋に入り、ベッドに彼を寝かせて添い寝をするように横になる。

 まだ寝ていなかったらしく、ロイドはマリアンヌの胸に顔をうずめ、その小さな手で彼女を逃さないとばかり掴んだ。


「ロイド。寂しかったのね。ごめんね」


 マリアンヌは彼の頭をなでると、その額に唇を寄せた。


 


「マリー」


 囁くように名前を呼ばれ、頬に暖かさを覚える。

 目を開けると、そこにいたのはニールだった。

 


「私、」

「起こしてしまったな。悪い。折角気持ちよさそうに寝ていたのに」


 ニールはバツが悪そうに頭をかく。

 よく見ると彼は外套を身に着けたままで、外から戻ってきたばかりのようだった。


「昼食は食べましたか?」

「ああ。ご馳走になってしまったよ。いらないと断るのもよくないからな。ああ、マリー。そのまま寝ていてくれ。ちょっと心配だったから様子を見に来ただけなんだ」


 体を起こそうとしたマリアンヌを再びベッドに押し戻すようにして、ニールが笑う。

 けれどもその瞳は心配そうな色を残したままだ。


 一週間前、マリアンヌは突然倒れた。

 医師を呼び寄せたところ、疲労といわれニールを始め皆が安堵した。

 けれども、マリアンヌはなんとなく感じていた。

 時が近づいている、そんな漠然とした予感だ。

 数か月後の誕生日で、彼女は二十九歳になる。三十歳まであと一年しか残っていない。

 ニールは信じていないと言っていたが、マリアンヌには彼の恐れが痛いくらいにわかった。

 それは同時に彼が彼女自身を本当に愛してくれていることの証明でもあり、悲しいことでもあったが。


 疲労が彼女の思考を奪う。

 起きなければと思いながら、マリアンヌはニールの背中を見ながら眠りに落ちていた。



 


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