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身代わりの王妃は許しを請う。  作者: ありま氷炎
五章 王立学院
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四十四 マリアンヌの願い

 折角の遠乗りに、美しい光景。

 タエは自分のためにそれが無駄になってしまったことを申し訳なく思いながら、場所で彼に背中に触れる。

 従姉妹の静子の夫であり、このアヤーテの王のライベル。

 現時点で己の夫であるのだが、未だにタエにはわからない。


(わからないほうがいいかもしれない。私は王妃であり、この国のために尽くす。そして殿下と陛下を守る。守られているのは自分かもしれないけど)


 余計なことは考えないほうがいいと、彼女は前を向く。


(大きな背中。静ちゃんによって孤独から救われたと言っていたけど、今もまだ孤独なのかしら?そうに決まっている。でも私は何もできない。ただ王妃として彼を支えるだけ)



 考え事をしているとあっという間に屋敷が見えてきて、すぐにカリダが走ってきた。


「早かったね!お腹空いている?」

「殿下。稽古はいかがでしたか?」



 近衛兵の一人に手伝ってもらい、馬から降りてカリダに答える。


「楽しかったよ。やっぱり全然歯が立たなかった。ニールはやっぱりすごいよ。ナイデラが三本勝負で一本しか取れなかったし」

「殿下。それは他言無用ですよ。現近衛兵団長が負けたなど外聞が悪いにもほどがあります」


 カリダの後ろからナイデラが困った表情を浮かべて姿を見せた。


「ニールなら仕方ないだろう。誰もが納得するぞ」


 馬から降りたライベルがナイデラの肩をねぎらうように叩き、タエは彼の機嫌が損なわれていないことに安堵した。


 ☆


 昼食をとっていないのはライベルとタエ、そして二人に付き添った3人の近衛兵だけであったが、テーブルにはニールとカリダ、マリアンヌもつく。

 

「丘からの景色はどうだった?」

「美しかったぞ。タエなど感動して泣いていたくらいだ」


(陛下!)


 いきなりそのことを持ち出されるとは思わず、タエは動揺する。

 ニールは目を細めた後、豪快に笑った。


「それぐらい素晴らしい風景だったんですね。王妃様」

「ええ、それはとても」


 マリアンヌがそう言って、タエは答える。

 こうして笑い話にしてくれたおかげで、タエの憂いがかなり消えた。そのためにライベルが持ち出したとわかり、彼女は感謝する。


「あー、僕も見たかったなあ」

「じゃあ、明日見にいくか?あの辺で狩りもできるのだろう?」


 カリダが残念そうに言えば、ライベルが答え、ニールに問いた。


「ああ、小さい獲物だが、できるぞ。じゃあ、明日は狩りだな」

「やった~!」


 ニールの提案にカリダが大喜びして、明日の計画が決まる。

 マリアンヌが残るということで、タエは彼女と話もしたかったので、自分も残ることにした。

 明日の準備だと昼食が終わると、ライベルとカリダはニール達と倉庫に向かい、時間を持て余したのはタエだった。

 それを見かねて、マリアンヌが自室に誘った。

 お腹はいっぱいであったが、用意されたお茶の香りがよくて、タエは誘われるがままに円卓に座った。

 ロイドは別の部屋で昼寝をしており、部屋にはマリアンヌとタエだけだった。

 

「王妃様。この度はお越しいただき本当に感謝しています」

「カリダがずっと来てがっていたし、私もあなたに会って話をしたかったの」

「私もです。王妃様」


 二人は目線を合わせて笑い、それからこれまでの話をし始める。

 タエは視察に同行することになり、孤児院で勉強を教えることになったことを話した。貴族の学び場の話はまだ未確定なので、伏せた。

 マリアンヌは妊娠中の話、ロイドがいかに可愛いかを語り、タエは幸せそうな彼女を見て嬉しくなった。

 ちりっと嫌な感情が沸き起こりそうになったが、それを押さえ彼女は笑顔を保つ。


 しかし気づかないマリアンヌではなく、少し声を落とした。


「王妃様。王妃様は今お幸せですか?」

「ええ。とても」

「……それならいいのですが……。あの、実は私どうやら二人目がお腹にいるらしいです」

「おめでとう」


 タエは祝いの言葉をかけたが、マリアンヌは浮かぬ顔だ。


「私はもうすぐ28歳です。この子を産んだらもう」

「マリアンヌ。きっと大丈夫。あなたはこんなに元気じゃないの」

「王妃様。私の母も突然でした。29歳の時、私が4歳の頃に突然体調を崩したのです。ほとんど覚えていませんが、ベッドの上の顔色の悪い母の顔は覚えています」

「けれども」

「はい。けれども、私は幸せです。あのままニール様に結婚を迫らず、このロイドを生まなかったら、私はこの幸せを知らなかった。だから幸せなのです。たとえ、この子を産んだ後、死んだとしても。死ぬ直前まで私は笑顔でいるつもりです」

「マリアンヌ……」

「王妃様。お願いです。私が死んだ後、ニール様と子供たちのことをお願いしてもいいですか?」

「お願いって。私にできることはないわ」

「あなたならニール様を支えることができます」

「できないわ。そんなことはできないの」


 タエは自身信じられないくらい大声がでた。

 パルが慌てて入ってきて、彼女は自身の動揺に気がつく。


「ごめんなさい。マリアンヌ。パル。パルはさがっていいわ。ほかの人にも大丈夫だと伝えて」


 パルはマリアンヌとタエの顔を交互に見つめたが、一礼をすると部屋をすぐに出ていく。


「王妃様。申し訳ありません。私、なんだか」

「いいえ。あなたは悪くないわ。私はだめなの。静ちゃん……シズコ王妃から陛下と殿下のことを頼まれたけど、私は何もできていない。だから、ニールのことなんて絶対無理なの。マリアンヌ。あなたは大丈夫。おかしなことを考えないで。ニール、ロイド、お腹の子のことだけを考えて」

「……わかりました」


 マリアンヌは頷き、二人はそれからそのことを話すことはなかった。


 


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