二十七 学友の面談
「これで八人ですね」
翌日の夕方、タエとニールは候補者を八人まで絞り込んだ。
昨日同様ぎこちない二人であったが、時間が経つにつれて、二人はカリダの学友選びという作業に集中し、余計な気を使うことなく、候補者を選びきった。
素養はもちろんのこと、周りの者への態度、日ごろの言動などから性格を判断して、二人は話し合った。
優しさが一番と思うタエに対して、二―ルは公平さを大事にしていた。
お互いの意見を噛み合わせながら、選び、落としていく。
今日で候補者を選びきるという思いを二人は共有しており、昼食も簡単に済ませて作業を続けた。途中カリダがお茶に加わったりと邪魔も入ったが、夕刻には作業は終了した。
「それではこの名簿を明日陛下にお渡しします。」
「よろしくお願いします」
ニールは席を立ち、タエに向かって退出の礼をとる。
(終わってしまったわね)
寂しく思う自身を詰りながら、彼女はただ彼の背を見送ることしかできなかった。
☆
翌日、タエが王室へ伺い、候補者最終名簿をライベルに渡す。
傍に控えていたクリスナにそれを渡し、彼はざっと八名の名を見て頷く。
「家柄に少し……。王妃様、お選びになった理由を教えていただいてもよろしいですかな」
タエは緊張しながら、彼女とニールが選んだ八名の選抜理由を述べた。ニールと話し合った結果なので、彼女はこの決定に満足していた。なので、よどみなく自信を持って、説明する。
「なるほど。そういうことなのですね」
「よく調べたな。タエ」
「私ではございません。ニール様が調べてくれたおかげです」
「そうだな。だが、お前もよく情報を吟味して、よい候補者を選んでくれた。感謝する」
「陛下……。私などには勿体ないお言葉でございます」
タエは自分ひとりの功績ではないし、そのように立派なことでもないと頭を下げる。
「本当に……。まあよい。それがお前という人であったな。さて、クリスナ。この候補者を集めてくれるか?王命であり、候補者同士の諍い、または面談前に候補者が事故を起こすようなことがあれば、厳密な処分を下すとも伝えろ」
貴族のうちから候補者を選んではいるが、タエとニールが選抜したものは要職についていない貴族の子息も入っており、やっかみで何か策を弄するものがいるかもしれないと、ライベルが危惧したため、このような王命を発することになった。
数日後、面談の日は設定され、小広間で実施する。
子息の年齢は九歳から十二歳であったが、小広間に入ることができたのは子息だけで、付き添いにきた父親たちは広間の前で牽制し合うことになる。
面談は意外にも早く進み、そんな牽制もむなしく、八名の候補者から二人が選ばれた。二人の学友はどれも要職についていない貴族の子息だった。
選ばれた子息の親のほうが戸惑うくらいで、お互いに仲良く顔を見合わせていた。
余計な者が邪魔をしないように、クリスナの仕事は速かった。その日のうちに二名の氏名を公表し、翌日から王宮へ学友として招くことにしたのだ。
もちろん、学友に選ばれた者が妨害をうけないように、王宮からの送迎馬車をつけることにし、カリダの学友選びは無事に終了した。
「ニール!」
夕刻に時間を無理やり作ったカリダは、警備担当の近衛兵に無理を言い、近衛兵団長室に訪ねてきていた。
このような場所に王太子を連れてきた部下を、ニールは注意をしようとしたが、カリダがすぐに庇い、ひと睨みだけで終らせる。
近衛兵を下がらせ、ニールはカリダに椅子を勧めた。
「ニール。僕の学友が二人決まったよ!どれも面白い奴ばっかり。退屈しそうもない」
面談のことだろうとすでに予想しており、ニールははしゃぐカリダを優しく見つめる。
「ニールとタエが八人まで選んでくれたんでしょ?おかしな奴はいなかったよ。性格がきつい奴はいたけどね。でも、学友になれなくても、将来一緒に働けたら、凄いだろうなって思う奴だった」
カリダの話を聞きながら、彼は嬉しくなって微笑む。
タエが選んだ十五人から二人で八人まで絞り込んだ。
タエの考えを尊重しつつ、自分の考えを述べる。それに対して、彼女が反論し、とても楽しい時間だった。
(三年前に戻ったようだった)
「ニール?」
ふと、カリダの呼び声で、意識を引き戻される。
「すみません」
「いいよ。ニールも参加したかったよね」
「そんなことはありませんよ」
「ちぇ、つまんないの。参加したかったと思ったのに」
「殿下。冗談です。できればその場にいたかったのは本当ですが、私がいなくも陛下、王妃様、殿下できちんと選べれたじゃないですか」
「そうだけど……」
「殿下……。明日からお二方と勉強が始まるのでしょう。うかうかとしていて大丈夫なのですか?ずいぶんサボっていたようですが」
「サボってなんかいないよ。ただ、図書館で本を読んでいただけなんだから」
「やはりサボっていたんですね。教師たちが怒る顔が浮かびます」
「怒ってなんかいないよ」
「それはそうですよね。殿下に怒りなどぶつけられないでしょうし」
ニールが揚げ足を取るように次々を言い返し、カリダは頬を膨らませる。
「わかったよ。わかった。部屋に戻って明日に向けてちょっと勉強するよ」
「はい。よろしいことで」
「ちぇ。なんかクリスナみたいなこと言うんだから」
カリダが不承不承ながらも椅子から立ち上がり、ニールが外の近衛兵を野太い声で呼ぶ。
するとすぐに兵士が入ってきた。
「殿下を部屋まで送ってやれ。寄り道するなよ」
「はい!」
「なんだよ。その寄り道って」
「もう遅いので図書館などに立ち寄りませんように」
「わかってるよ」
カリダは苛立ちをあらわにそれでもニールに手を振るのを忘れず、近衛兵に伴われ部屋を出て行った。




