二十四 ニールの気持ち
「ええ?どうして?」
王妃の間に戻るとカリダが待っていて、タエは急かされるように伝える。
ニールが参加せず、代わりにという言い方はよくないが、ライベルが面談に当たると聞き、不満そうな声を彼は漏らした。
「なんでニールはだめなの?」
「殿下。殿下のお父上は陛下です。陛下が面談役をされるのは当然でございます」
「だったら、なんでニールも参加できないの?」
「それは」
子供のことに、親が関わるのは当然で、血は繋がっていないが母親がわりの王妃のタエ、父親である王が共に面談役を担当するのは自然の流れだ。
ニールは親族ではあるが、従叔父だ。
本来なら彼が面談に当たることすら、不自然なことだ。
そのことを説明してみたが、カリダはわからないようで、子供っぽく頬を膨らませ、怒りを滲ませていた。
「だって、二―ルとタエは僕が小さい時から一緒にいてくれたでしょ?父上は確かに父上だけど」
「殿下。聞き分けがないことを言わないでください。本来ならば、私も加わっていいか、わからないくらいなのですから」
「タエ!タエは絶対に参加してよ。僕の学友選びだ。もしタエに変な態度を取るやつがいたら、即刻落とすんだから!」
結局、カリダは納得してくれたのか、なんなのか、タエが面談役を降りるようなことを言い始めると、ニール不参加について不服な態度をとることはなくなった。
☆
ニールが自分の気持ちを押し殺して過ごすようになって、早六年。
静子への想いがタエへ昇華されているのか、彼はただ静かに彼女の幸せを願ってきた。
過度の接触もせず、王妃としてタエに接していることから、衝動的な想いに駆られることもなく、このまま彼女の側で近衛兵団長として、見守っていくつもりだった。
しかし今回の面談のことで、タエと会う機会が多くなり、気持ちが揺るぎ始めた。触れるほどの距離、彼女からもたらされる笑顔。
ライベルとタエの結婚はまだ白い結婚のまま、それは二人の気持ちが恋や愛ではないという証明のように思え、ニールは一線を越えそうになる自身を叱咤した。
(面談役を引き受けるのは失敗だったかもしれない)
彼女の側にもっといたい、そんな卑しい気持ちから父に疑われながらも、面談役を受けた。
(父上に釘を打たれるのは当然のことだな。情けない)
彼女が王妃になると決めた時から、彼も決意したはずだったのに、こんなに揺れ始めている。
普段は団長室で飲酒などしないのに、今日ばかりは飲みたい気分だった。
日が落ち、そろそろ実家に戻ろうとしているとき、父のクリスナが尋ねてきた。
呼び出されることはあっても彼から団長室に来ることはなく、ニールは驚きと同時にいやな予感を覚えた。
クリスナに椅子をすすめ、彼もその前に座る。
「殿下の面談のことで話がある」
実家で話すこともできたのに、クリスナはそう切り出した。
「面談には陛下と、王妃、そして殿下が当たる。お前には面談の候補者を選別するまで手伝ってもらう」
父の言葉に正直ニールは衝撃を受け、ライベルに嫉妬に似た感情を覚えた。だが、それを悟られないように必死に表情を保つ。
けれども、クリスナにはすでにわかっていたようで、冷笑した後、彼を鋭く睨んだ。
「ニール。お前はどうするのだ。すでに三十四歳だぞ。成人した子供がいてもおかしくない年齢だ」
ニールは黙ったまま、父を睨み返した。
「お前の思いは国を滅ぼす可能性がある。今回の面談で、お前が殿下、王妃様と任に当たればよからぬ噂が立つ。すでに現時点でもおかしなことを言うものをいるのだからな」
「……わかっている。俺はこの気持ちを誰にも明かすつもりはない。もちろん、王妃様にもだ」
「ふん。私がわかるのだ。他の者にも気づかれていよう。もちろん陛下もご存知だ」
「陛下も?」
「その通りだ。だからこそ、私はお前に婚姻を結んでもらうつもりだ」
今まで何度もその話は出てきた。
しかし、クリスナが強引にすすめたことは一度もない。
今回は、異なるようで、彼は書類を机の上に置いた。
「お前が婚姻すれば、陛下も余計な気を回すことはなくなるだろう。陛下のシズコ様への想いの深さは理解している。だが、もう六年だ。癒される時間としては十分だと思っている。お前もそうだろう」
揶揄するように笑われ、ニールは怒りの視線を父に向けた。
「シズコ様と、王妃……、タエ様はとてもよく似ている。性格はまったく違うがな。陛下もきっとお前という障害がなくなれば」
「父上。話はわかった。だが、陛下のシズコ様への想いは俺のとは違う。陛下はきっと忘れられない」
ニールの言葉にクリスナは黙っているだけだった。




