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二十四 ニールの気持ち

「ええ?どうして?」


 王妃の間に戻るとカリダが待っていて、タエは急かされるように伝える。

 ニールが参加せず、代わりにという言い方はよくないが、ライベルが面談に当たると聞き、不満そうな声を彼は漏らした。


「なんでニールはだめなの?」

「殿下。殿下のお父上は陛下です。陛下が面談役をされるのは当然でございます」

「だったら、なんでニールも参加できないの?」

「それは」


 子供のことに、親が関わるのは当然で、血は繋がっていないが母親がわりの王妃のタエ、父親である王が共に面談役を担当するのは自然の流れだ。

 ニールは親族ではあるが、従叔父だ。

 本来なら彼が面談に当たることすら、不自然なことだ。

 そのことを説明してみたが、カリダはわからないようで、子供っぽく頬を膨らませ、怒りを滲ませていた。


「だって、二―ルとタエは僕が小さい時から一緒にいてくれたでしょ?父上は確かに父上だけど」

「殿下。聞き分けがないことを言わないでください。本来ならば、私も加わっていいか、わからないくらいなのですから」

「タエ!タエは絶対に参加してよ。僕の学友選びだ。もしタエに変な態度を取るやつがいたら、即刻落とすんだから!」


 結局、カリダは納得してくれたのか、なんなのか、タエが面談役を降りるようなことを言い始めると、ニール不参加について不服な態度をとることはなくなった。


 


 ニールが自分の気持ちを押し殺して過ごすようになって、早六年。

 静子への想いがタエへ昇華されているのか、彼はただ静かに彼女の幸せを願ってきた。

 過度の接触もせず、王妃としてタエに接していることから、衝動的な想いに駆られることもなく、このまま彼女の側で近衛兵団長として、見守っていくつもりだった。

 しかし今回の面談のことで、タエと会う機会が多くなり、気持ちが揺るぎ始めた。触れるほどの距離、彼女からもたらされる笑顔。

 ライベルとタエの結婚はまだ白い結婚のまま、それは二人の気持ちが恋や愛ではないという証明のように思え、ニールは一線を越えそうになる自身を叱咤した。


(面談役を引き受けるのは失敗だったかもしれない)


 彼女の側にもっといたい、そんな卑しい気持ちから父に疑われながらも、面談役を受けた。


(父上に釘を打たれるのは当然のことだな。情けない)


 彼女が王妃になると決めた時から、彼も決意したはずだったのに、こんなに揺れ始めている。

 普段は団長室で飲酒などしないのに、今日ばかりは飲みたい気分だった。

 

日が落ち、そろそろ実家に戻ろうとしているとき、父のクリスナが尋ねてきた。

呼び出されることはあっても彼から団長室に来ることはなく、ニールは驚きと同時にいやな予感を覚えた。

 クリスナに椅子をすすめ、彼もその前に座る。


「殿下の面談のことで話がある」


 実家で話すこともできたのに、クリスナはそう切り出した。


「面談には陛下と、王妃、そして殿下が当たる。お前には面談の候補者を選別するまで手伝ってもらう」


 父の言葉に正直ニールは衝撃を受け、ライベルに嫉妬に似た感情を覚えた。だが、それを悟られないように必死に表情を保つ。

 けれども、クリスナにはすでにわかっていたようで、冷笑した後、彼を鋭く睨んだ。


「ニール。お前はどうするのだ。すでに三十四歳だぞ。成人した子供がいてもおかしくない年齢だ」


 ニールは黙ったまま、父を睨み返した。


「お前の思いは国を滅ぼす可能性がある。今回の面談で、お前が殿下、王妃様と任に当たればよからぬ噂が立つ。すでに現時点でもおかしなことを言うものをいるのだからな」

「……わかっている。俺はこの気持ちを誰にも明かすつもりはない。もちろん、王妃様にもだ」

「ふん。私がわかるのだ。他の者にも気づかれていよう。もちろん陛下もご存知だ」

「陛下も?」

「その通りだ。だからこそ、私はお前に婚姻を結んでもらうつもりだ」


 今まで何度もその話は出てきた。

 しかし、クリスナが強引にすすめたことは一度もない。

 今回は、異なるようで、彼は書類を机の上に置いた。


「お前が婚姻すれば、陛下も余計な気を回すことはなくなるだろう。陛下のシズコ様への想いの深さは理解している。だが、もう六年だ。癒される時間としては十分だと思っている。お前もそうだろう」


 揶揄するように笑われ、ニールは怒りの視線を父に向けた。


「シズコ様と、王妃……、タエ様はとてもよく似ている。性格はまったく違うがな。陛下もきっとお前という障害がなくなれば」

「父上。話はわかった。だが、陛下のシズコ様への想いは俺のとは違う。陛下はきっと忘れられない」


 ニールの言葉にクリスナは黙っているだけだった。



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