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二十三 クリスナの懸念

 基本的にライベルは王室にいるか、クリスナの執務室にいることが多い。また時折体がなまるとして、近衛兵団の訓練所で体を動かしたりする。

 王妃が必要となる業務以外は、二人は一緒に行動をしない。

 しかし、今回は提案という形になるので、王妃としてタエがライベルとクリスナに話をもっていくことになっていた。

 夜まで待てばよかったのだが、カリダが期待あふれた目で見るので、タエはライベルに謁見を求めるため王室へいくことにした。

 

 王室は王妃の間の隣。

 しかもタエは王妃である。けれども王室に突然訪ねるのはさすがに無礼だと思ったので、許可を先にとることにした。

 その際に、クリスナも同席してもらうことを加える。


 こうして己から謁見を求めたことはなく、彼女はかなり緊張して返事を待っていた。

 本日の日中がだめなら、今夜ライベルに話そう、諦めていたころ、許可が降りて彼女は王室を訪ねた。

 言葉にはしていなかったのだが、王室にはライベルとクリスナしか姿が見えず、タエは自然とほっとする。

 他の者がいれば、王妃らしく振舞わなければと余計な気を使うからだ。

 多少気楽になりながら、礼を取ってから王座のライベル、その隣のクリスナに近づく。


「陛下。お時間をいただきありがとうございます」


 ある距離まで近づき、タエは立ち止まると頭を再度下げる。


「面倒な奴だな。頭を上げろ。礼はいいから、話をしろ」


 ライベルの物言いには慣れてきてはいるが、緊張するのは変わらない。今日はクリスナも傍にいて、やはり突然の謁見に驚いているのか表情が少し硬かった。

 タエは息を少し吐いて、気持ちを落ち着かせると口を開く。


「本日は殿下のご学友の面談のことでご提案したいことがあります」

「提案とな?」

 

 王座からライベルは珍しそうにタエを見る。クリスナはただ頷いて彼女の次の言葉を待っているようだ。


「クリスナ様がご用意した名簿から面談のために数名を選ぶ予定なのですが、最終的に殿下にも面談に参加していただきたいのです」

「ほお。それはカリダの申し出か」

「それもございます。でもそれだけではありません」


 カリダの単なる我侭と思われないように、タエは慎重に言葉を選ぶ。


「今までは、ご学友選びには身分と年齢のみを考慮されてきたと思います。今回は、それに加え、素養及び性格も判断材料に入れる予定です。このことに関しては、二―ル様のご協力をいただいております」


 ライベルはただ頷いたが、クリスナは「ニール」という単語に少しだけ眉を動かす。

 知らなかったのかと思いながらも、タエは言葉を続けた。


「素養と性格、そして身分と年齢。これらを組み合わせ、ご学友を選ぶ。かなり優秀で、殿下のためになるご学友を絞れると思います。しかしながら、私とニール様が最終的に選んだ方が、殿下と相性が合わなければ以前と同じ結果になると思うのです」


 タエはそう言い切り、多少無礼だと思いながらも二人の様子を伺う。

 これで説得できなければ、カリダに諦めてもらおうと彼女は二人の答えを待った。


「俺は、タエの意見を採用したい。これだけ時間と手間をかけていて、結局カリダとうまくいかなければ、意味がない。クリスナ、お前はどう思うのだ」


 彼女が入室してからクリスナはまだ言葉を発していない。

 ライベルは意見を求め、タエはそれを黙って待った。


(陛下は同意してくださったけど、クリスナ様は反対かもしれない)


「私も王妃様の意見には賛成いたします。しかしひとつだけ」

「何だ?問題があるのか?」

「すでに二―ルが選定段階で王妃様にご協力されている。面談には彼は必要ありません。面談の際には、陛下と王妃、そして殿下のお三方であたられるのがよいでしょう。殿下の学友選びです。王と王妃が対になり、なされるのが自然だと思われます」


 思ってもいない言葉にタエは衝撃を受けた。

 それは己の邪な思いを揺さぶるもので、彼女は気取られないように表情を引き締める。


「なんだ。それは。確かにわが子のことであるが、彼の養育に最も携わっていたのはタエとニールだ。二人にさせればよいではないか」


 ライベルは呆れたように笑ったが、クリスナの表情は変わらなかった。


「王妃様はどうお考えでしょうか」


 その上、タエを試すように聞いてくる。


(クリスナ様は私の気持ちに気づいている。だからこんなことを聞いてくる。わかってる。私は異世界の娘、王の盾。静ちゃんの代わりなのだから)


「私はクリスナ様の意見に同意いたします。王と王妃、そして殿下で面談に望むのが自然な形でしょう」


 不審がられないようにタエは必死に言葉をつむぐ。

 

「王妃様。王妃様ならそうおっしゃると思っておりました」


 クリスナは彼女の回答に安堵したように微笑んだ。

 それが王室に入ってから最初に見た彼の笑顔で、タエはずっと彼に疑惑を持たれていたのだと気がつく。

 妙な空気が流れ、ライベルがそれを打ち破った。


「……そうか。タエがそう言うのであれば、そうしよう。面談まで、ニールとともに良い候補者を選ぶがよい」


 謁見はそれで終わりだった。

 カリダの願いは叶ったが、タエは打ちのめされたような気持ちになって退室した。

 


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