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二十一 面談役

「王妃様。それではまた明日お伺いいたします。ゆっくりお休みください」

「はい。今日もありがとうございました」


 王妃になり他人に世話されることに慣れて来た。けれども、口調はやはりどうしても治らない。

 侍女を含め使用人たちはそんな王妃の姿を好ましく思うことが多かった。

しかし貴族たちは異なる。

 貴族の身分が幅を利かす王宮において、静子のようにクリスナのマティス家に養子に入っていない「平民」タエにあからさまに侮蔑の目を向けてくるものは少なくない。それでも異世界の娘に対して敬意が払われているため、風当たりはそこまで強くない。

 だが、まだ陰口を叩く貴族が中にはいる。

 カリダが学友たちに不満をもらすのも、タエの影響だと漏らすものもいるくらいだ。


「殿下のご学友……。どこかにいい方はいないのかしら」


 独り言をつぶやいたところで、扉が軽く叩かれた。

 ここは王の寝室で、タエは毎夜ながらも緊張しながら椅子から立ち上がった。


「タエ……か。今日もご苦労だった」


 部屋に入ってきたライベルは、タエがいることを知っているはずなのに、少し驚いたような顔をしていた。

 毎夜のことなのに、彼女は自分が何かしたのかと困惑する。


「ああ、タエ。ちょっと話があるのだ」


 ライベルはそんな彼女の様子にも気づくことなくて、話し始めた。


「私が面談を、ですか?」


 カリダの学友を選ぶ面談を実施することには、タエは両手をもって賛成したが、自身が判断する側であることには難色を示した。

 まずふさわしくない、それが一点だ。

 それから、もう一点。ニールと共に面談役にあたるところが、辛かった。


「カリダの学友には、将来のことを考えて適正のある者を選んでほしい。その判断ができるのは、お前とニールだと思っている」

「ですが、陛下……」

「クリスナにも話を通してある。ニールも承諾するだろう。カリダのために引き受けてくれ」

 

 どうやら選択肢はないようで、タエは最後には承諾するしかなかった。


「まず候補者一覧をクリスナが作る。その中から数名を選び面談するがよかろう」

「畏まりました」


 面談の仕事よりも、ニールと近くで顔を合わせることがタエは不安だった。

 自身の隠した気持ちが彼と接することで表に顕れないか、彼女は心配を抱えたまま、王妃の間に戻った。



「父上。陛下がそんなことを言い出したのか」


 今日もいつものように夜が更けてから、実家のマティス家にニールは戻った。

 すると待っていたかのように、クリスナに部屋に呼び出される。

 そうして聞かされた話は彼の予想しないことで、頭を抱えてしまった。


 カリダの学友を面談で選ぶことには完全同意だ。これで彼もようやくいい学友に巡り会えるだろうと安堵もする。

 しかし、その面談役をタエと共に担当するというのが、腑に落ちなかった。

 本来ならば、王と王妃が二人で選ぶのが妥当というものだろう。


「お前が断りたいのであれば、明日私から陛下に申し開きを、」

「王妃様には話を通しているのか?」


 クリスナの言葉を遮って、ニールは問いかける。


「おそらく今夜、陛下から話されるだろう」


 今夜という単語にニールは眉を少しだけ寄せた。

 二人が白い結婚であることは、それとなく聞いている。なので、一緒に夜を過ごすとしても同じベッドではないのだろう。

 すでに、己の手の届かないところにいるタエ――王妃のことを考えることはあまりにも不毛だ。口に出せば、おかしな噂を呼びこみ、騒動の元になる。

 なのでニールは、あの日、タエが王妃宣言をしてから、彼女とは距離を保ち、自身の思いを誰にも話したことはなかった。


「あの調子では、陛下は王妃様に選択肢を与えないだろうな」


 ニールは父のそんな呟きをぼんやりと聞く。


「無理だろうな。やはり断ろう。陛下が面談に介入したくないのであれば、私が代わりに参加してもいい」

「父上。俺は、この件を受けることにする。カリダのためだ。いい学友を選んだほうがいいだろう」


 タエが王妃になってから、彼は距離をとるようになった。

 今回も距離を置くべきだと、理性が正していたが、ニールはそれを抑え答えていた。


「そうか。わかった。私は、お前を信じているぞ」


 含みがある言い方を父にされ、ニールは一瞬だけ怯む。

 己の気持ちを見透かされた感じがしたからだ。

 だが、彼は安心させるように父に答えた。


「父上が心配するようなことは何もない」

「それならいいが」


 そうして、クリスナはどのような手順で面談を進めるのか、ニールに説明し始めた。


 


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