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身代わりの王妃は許しを請う。  作者: ありま氷炎
二章 身代わりの王妃
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十七 身代わりの王妃

 王室の前に集まる貴族たちの前に、ライベルとタエは姿を見せた。その背後に、ニールとクリスナが控える。

 ざわめきが一瞬やみ、クリスナはそれをついて口を開いた。


「このように集まってくれたこと、感謝する。陛下はこの通りご無事だ。異世界の娘タエ様が心配をされて、王室へこられた。この機会に、私は皆にタエ様を紹介したいと思っている」


 貴族たちはクリスナが何を言い出すのかと、再びざわめき始める。

 ライベルの隣で、タエは倒れそうになりながらも必死に己に言い聞かせていた。


(私は異世界の娘タエ。静ちゃんと同じように毅然としなきゃ。そうじゃなければ、何のためにこの道を選んだのか。私は償いをするため、静ちゃんの願いを叶えるためにここにいる)


 ふとニールがこちらを見ているのがわかった。

 こんな形で彼を裏切り、タエは彼を見るのが怖かった。けれども、彼の表情は怒りとは別のもので、頑張れと応援している。そんな表情だった。

 ニールの変わらぬ優しさに泣きそうになったが、彼女は自身を奮い立たせる。


(私は、私の役目を全うする)


 まっすぐに貴族たちを見つめ、微笑む。

 久々に笑ったような気がした。うまく笑えているか、タエにはわからなかったが。


「皆様、私は前王妃静子の代わりに召喚された、谷山タエです。静子様同様、私は異世界の娘として、ライベル王の盾となり、このアヤーテ王国を守ることを皆様に誓いましょう」


 タエの言葉の後に、間髪いれずライベルが続ける。


「私は、第九代アヤーテ王として、この異世界の娘タエをシズコの次の王妃として迎える。シズコはこの世界には戻らない。したがって異世界の娘として、このタエが今後アヤーテを守護する。我らアヤーテは新たな異世界の娘を迎え、末長く繁栄するだろう」


 ライベルが宣言し、タエは必死に再び笑みを作る。


「皆の者、讃えるがよい。ライベル王は異世界の娘を新たに迎え、この国の繁栄をお約束された」


 クリスナが貴族たちを眺め、片膝を床につき、恭順の意を示す。


「私、近衛兵団長、ニール・マティスも、王と、新たなる王妃、異世界の娘タエ様に忠誠を誓う


 ニールは父に追随しライベルとタエへ頭を垂れる。すると次々と周りの近衛兵たちもそれに従った。

 周りを伺っていた貴族たちも我先にとそれに習い、片膝をつき始める。

 

 タエはこのように多くの人に敬われたことがなく、逃げ出したくなった。だが堪え、当然とばかり微笑みを維持する。


 そうしてこの日。

 タエは、己が静子の代わりにこの世界に召喚された異世界の娘で、王妃になることを集まった貴族たちの前で宣言した。



 


 貴族たちの前で宣言した後、倒れこみそうな自身を叱咤した。

 王室に戻るまで気丈に振舞っていたが、タエは限界だった。クリスナ、ライベル、そしてニールから逃げるように部屋に戻る。

 王妃になることを決めたのは彼女自身だった。それは、同時にニールの求婚を断ること。自分にはふさわしくないと一度口に出しておきながら、選んだのは王妃の道だった。

 ニールは誤解などしないだろう。

 あの場ではそれしか選択がなかった。

 ライベルには、異世界の娘という盾が必要だった。そうでないと、彼は儚く消えてしまいそうに見えたからだ。


 けれども、終わってみれば、ニールの顔に泥を塗るような行為であったと自身に吐き気を覚える。

 この三年、カリダの無邪気さに癒され、ニールの包み込むような優しさに甘えていた。

 彼の求婚は驚きでいっぱいであったが、今思えば嬉しかったのだろう。

 

(ニール様のことを好きだったかもしれない)


「タエ。考えてはだめ。私は異世界の娘。王妃となり、王の盾になるものなのだから」


(それが私の償い)


 彼女は自身に言い聞かせる。

 しかし、すぐに目頭が熱くなって、涙が溢れてきた。


「どうして、私」


 胸が詰まるような、息苦しい気持ちになりながらも涙は止まらない。


「タエ?入ってもいい?」


 しかしふいに扉を叩かれ、カリダの声がした。

 おかげで涙は止まり、彼女は自分がすっかりカリダのことを忘れていることに気づき、唖然とする。

 乱暴に涙を拭い、すぐに扉を開ける。


「タエ!」


 カリダはタエに抱きついてきて、その後ろのメリッサが心配そうな視線を送っていた。

 

「大丈夫だから。メリッサさんは休んで」


 腰に抱きついてきたカリダの背中をさすり、タエは彼女に声をかける。迷っているようだったが、最後は彼を任せることにしたようで、頭を下げると、彼女は扉を閉めた。


「ごめんなさい。殿下」

「タエ、僕、ずっと待っていたんだよ。泣いているの?」


 カリダは不安そうに仰ぎ見る。


「いいえ。大丈夫ですよ」

「本当?」


 彼は信じられないとその緑色の瞳をタエに向けていた。


(緑色の瞳。陛下と同じだわ。新緑の色……。そうだ。私は殿下に王妃になることを伝えなければ。そうして静ちゃんのことも)


 カリダはまだ五歳にならない。

 その理解力もまだ足りない。

 けれども、タエは己が王妃になるのであれば、静子の死について説明すべきだと思った。


「殿下、お話があります」


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