表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わりの王妃は許しを請う。  作者: ありま氷炎
二章 身代わりの王妃
14/70

十三 ニールの求婚

 タエはほぼ毎日ニールとは会っている。

 それはカリダが毎朝、ニールから稽古をつけてもらっているからだ。今朝も訓練が終わり、ニールと顔を合わせることになった。


「タエ。今日の昼食一緒に食べないか?」

「申し訳ありません。殿下は本日昼食時にマナーの教師が来られるので、空いておりません」


 タエと言われたとわかっていたが、彼女は反射的にそう答えていた。

 ニールは口を半開きで、唖然としていて、タエは混乱する。

 そんな二人の間に挟まれたカリダがニールに助け舟を出した。


「タエ。ニールはタエって言ったよ。僕じゃないよ」

「え、そんな」


 食事に誘われたのは初めてで、タエは戸惑うしかなかったし、そんなことはよくないと断ろうとする。

 けれども、カリダから強く言われ、ニールと昼食を共に取ることになった。


 昼食の場所は中庭。

 そこは彼女の読書の場所で、テーブルと椅子が用意され、二人分の食事が置かれていた。

 給仕もついていたので、タエは慌てて断る。給仕役の使用人はそんな彼女に戸惑い、ニールに意見を求めた。

 彼女の好きなようにと答えられ、使用人はタエに給仕を任せ、その場を離れるしかなかった。


「ニール様。どうぞ」


 お茶を入れ、タエはその前に座る。

 本当は立っていたかったのだが、今日は昼食に誘われたのだ。一緒に食べないことはおかしなことなので、彼女はぎこちなく彼を窺う。


「なんか、変な気分だな」

「はい」


 ニールと二人っきりで食事なんて初めてで、タエも頷く。

 しばらくの沈黙の後、彼は再び口を開いた。


「俺の妻にならないか」


(どういう意味。意味がわかるのだけど。どういうことか意味がわからない)


 タエは混乱した頭で、必死に考える。


(もしかして、誰かとの練習なのかしら。ニール様もいいお年だし。好きな方がいるかもしれない。予行練習かもしれない)


「あの、お相手はどういう方なのでしょうか?」

「は?」


 切り返されたニールは、質問の内容が掴めない様で、目を丸くした。


「これは予行練習なのですよね。お食事に誘った上で結婚を申し込まれるのですか?それであれば、突然ではなくもう少しお話されたほうがいいと思います」


 タエには恋愛経験などまったくない。

 しかし、突然「俺の妻にならないか」と言われて、驚くのは皆同じだと考えた。

 なのでそう助言したのだが、ニールは笑い出す。


「予行練習。そう思ったのか。違う。俺は、お前、タニヤマタエに言っているんだ。俺はお前を妻にしたい。結婚してくれ」


 笑いを収めたニールは真っ直ぐタエを見つめており、嘘ではないことがわかる。

 しかし、タエはその視線から逃げた。


(どうして、突然。こんなこと。何かあったのかもしれない。でもそれでも私はだめ。私は殿下の成長を見守るためにここにいる。だから見届けたら……)


「ニール様。勿体無いお言葉ありがとうございます。けれども私のようなものがあなたの妻になれるわけがないのです。それに私は殿下の成長を見守るためだけにここにいます。それが私の償いですから」

「それは違う。お前に償いなど必要ない」

「いいえ。必要です。それでなければ私が生きる意味などありません」

「タエ!」


 ニールは立ち上がると体を前に乗り出す。そして彼女の両肩を掴んだ。

 息がかかるほどの距離まで、顔を近づける。


「俺を見ろ。タエ。償いなど必要ない。生きている意味なんて誰にもわからないんだ。ただ俺は、お前が俺の妻になって共に生きていってくれると嬉しい」


 青い瞳の中に、困惑したタエの顔が映っていた。

 きっと、タエの黒い瞳にもニールの顔が映っているはずだった。


「申し訳ありません」

 

 タエは必死に顔を背けたが、ニールは彼女を解放しなかった。


「タエ」


(胸が苦しい。どうして。なんでこんなに)


 彼女は自分の感情が理解できなかった。

 胸が苦しくて、ただこの場から逃げたかった。


「は、離してください」


 目から涙があふれてきて、タエの声が掠れ、ニールはやっと肩から手を離した。


「悪かった」

「いいえ。申し訳ありません」


 逃げるところがないタエは、そのまま力なく椅子に座り込む。

 ニールの顔を見ることはできなかった。

 自分を苦しめている感情が何か、タエは理解できず、それでも食事を無駄にすることを許さない彼女は俯いたまま、食事を進める。

 

「今日はありがとうございました」

  

 特別に用意されたと思われる食事で、タエは申し訳なさでいっぱいだった。


(こんな豪華な食事、私には必要ないのに)


「タエ。驚かせて、泣かせてすまなかった。ゆっくりでいいから、俺の申し出考えてくれ」


 食事の終わりにニールはそう言い、呼びにきた近衛兵と共にその場を後にした。

 彼が去って、タエはやっと顔を上げる。

 すると止まった筈の涙が再び流れてきて、頬を濡らした。涙は滞りなく流れ、片づけをするために戻ってきた使用人が心配するほどだった。

 おかしな噂にならないため、タエは必死に言い訳をして、部屋に戻った。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ