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身代わりの王妃は許しを請う。  作者: ありま氷炎
二章 身代わりの王妃
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十二 ライベルの変化

 それからのニールの行動は早かった。自身にむやみに近づいてくる者を以前は邪険にしていたのだが、少しずつ距離を詰めていった。

 彼たちが好みそうなよい酒屋に連れ出したりして、彼らを気分よくさせ、話を聞く。そうして彼は何人か怪しい人物を絞った。

 「カラス」から離れているが、その偵察力はまだ健在なので、パルに頼んで、絞り込んだ怪しい者たちを監視させ、証拠を掴む。

 一ヶ月ほど、彼をそれをやり遂げ、クリスナに証拠を提示した。

 正規な手段で、クリスナはそれら何名かの貴族たちを糾弾し、身分を剥奪し、ライベルを脅かすものたちを一掃したつもりだった。

 

 これでニールは堂々とタエを娶れると思った。


「ニール。久しぶりだな」


 父のクリスナにタエを妻にすることを承諾させた後、彼はライベルに面会を申し出る。従兄弟でもあり、近衛兵団長の届けであればすぐに許可がでる。

 ライベルは人払いをさせ、ニールを待っていた。


「お前の用件はわかっておる。あの女――タエのことはお前に任せる。勝手にするがいい。だが、俺は婚姻の場には出ない。タエを前にして、平静でいられるか、まだ俺にはわからないのだ」


 ニールが発言する前に、ライベルは一気に語りかけた。

 それを驚いていると、彼は薄く笑った。


「俺はシズコのことを想って生きる。お前は、先に進め。そしてカリダを頼む」

「陛下」


 久々に言葉を交わしたライベルは少しやせていて、以前のような力強さが見当たらなかった。

 まだ二十二歳のはずなのに、活気がなく、老年のような雰囲気を纏っている。


「用はそれだけであろう。ああ、この度の働き、感謝しているぞ。これで、煩い者たちが減った」


 用事は済んだとばかり、ライベルは背を向ける。

 ニールは驚きばかりが先走り、用意していた言葉の一つも口にすることはできなかった。しかし、彼の用事は済んでおり、深く一礼すると彼は王室を出た。

 その後に向かったのは、王宮のクリスナの執務室だ。

 扉の前の近衛兵がニールの姿を見て、驚きながら部屋に通す。

 団長であるから当然なのだが、何か問いかけたらどうなのだと思わないこともなかったが、彼は早く父と話すことが先だと、扉を叩いた。


「近衛兵団長、ニール・マティス。入ってもよろしいか?」


 部下の手前、いつも通りとはいかず名を名乗る。

 間が一瞬あったが、「入れ」を中から声がして、ニールは扉を開けた。


「何か用か?おかしな顔をしているな」


 机の上に書類が広げられ、忙しそうなクリスナがそこにはいた。ニールの顔を見ると唇の端っこを少し上げて、嫌味ともとれる笑みを浮かべる。


「陛下はどうしたんだ?いったい」


 扉を閉め、彼は机の前のソファに座り込んだ。クリスナは立ち上がり、その目の前に腰掛けた。


「生気がなかっただろう。公式の場では、どうにか前のように振舞っているが、私やお前の前では肩を張るつもりもないのだろう」

「だから、どうして」

「陛下は生きる気力を失っている。食事は一応とってくださるが、気力の問題だ」

「それは、シズコ様を失ったせいか?」

「ああ」


 ライベルにとって静子はそれだけの存在であり、ニールはその想いに胸が苦しくなった。同時に自分の静子への想いが思いのほか小さかったことを自覚する。もしかしたらそれはタエという存在が悲しさを和らげてくれた可能性もあったが、ニールはそこまで考えたくなかった。


「……父上。陛下を王位から解放してやったほうがいいのでないか?」

「ニール!二度とそんなことを口にするではない。お前がそんなことを口にするのは許さない」


 激しく怒りを表すクリスナに、ニールはただ呑まれ彼を凝視する。


「今、王位だけが、陛下を生かしているのだ。もし王位を失えば、あの方は消えてしまうかもしれない」

「そんなことが……」

「私はそう考えている。だから、絶対に陛下を守るのだ。これは私の償いなのだ」


 クリスナはそう語り、視線を息子から逸らした。


「異世界の娘を娶ることは、お前が考えている以上に大きなことだ。タエはただの娘ではない。わかっているな」

「わかっている。俺も父と同じだ。陛下には害を決してなさない」

「それならばいい。だが、タエはこの世界の人間ではない。したがって、この結婚はタエの意志も関係している。タエがお前との婚姻を望まなければ、それは無理強いすることはできないぞ」

「わかっている。それも」


 クリスナが表情を和らげて揶揄するように笑い、ニールは少し苛立ちながらも安堵する。


「レジーナに助言でも求めるのだな」

「それは無理だ。父上。とんでもないことしか言わないはずだ」

「確かにそうだ」


 マティス家の男は家に残した女主人のことをそれぞれ思い、苦笑する。 


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