衝突
「ユタカさん、1mm上げです。オーケー!」
「あいよ!仮付けするぞ〜。お、ユージ。そろそろ定例ジャンプだから、詰所で休憩するか!」
太陽系からジャンプを繰り返す事1ヶ月。180光年程進んだ宙域。研究班と共同で、新しい装備品を取り付けている。
ザターンの前面に可動式のパラボラアンテナのような物を4機設置しているのだが、何に使われるのかは分からないが、単価は良いので皆張り切っている。
この船の資材庫には100トン近くの材料が置かれている。修繕用かと思っていたが、改造用にも使われる。と言うより、改造用にしか使われていないのだが気のせいだろう。
ザターンには多くの職人が乗船している。前世紀では完全機械化も行われたようだが、現在ではある程度の機械化はされているが、職人による作業も多い。特に、ワンオフ作業の多い修繕や改修、それに付随する作業などはほぼ職人の仕事だ。
4時間毎に行われる定例ジャンプ。初めの10回までは第一種警戒態勢が敷かれていたが、それ以降は第二種警戒態勢、つまり次番のチームの待機のみとなっていた。
量子通信で送られた、外部から撮った映像を見た時は衝撃的だったが、船内ではカウントダウンが0になるだけで何も変化は感じられず、4時間毎の時報代わりになっていた。
「Tマイナス3、2、1、0」
ドーーーン!
船内に衝撃音が響き渡る。睡眠中だった俺は、その音で飛び起きた。とてつもない轟音が轟いたが、船体の振動は感じられない。
「総員に告ぐ。ジャンプアウト直後に極小天体へ衝突した模様。各部チェックを行い報告せよ。総員第一種警戒態勢。」アツシの声が響き渡る。
高速船でもある本艦ではあるが、ジャンプアウト後の事故を回避する為に巡航速度は毎秒15km程に抑えられている。
着替えて部屋を出て、ユージと合流する。
「おはようございますユタカさん。何だか事故っちゃったみたいですねぇ」
「ああ、轟音は聞こえはしたけど、衝撃は無かったし、大した事は無いだろう。警戒態勢だしな。」二人で話しながら、修理工ブリーフィングルームへと向かう。
「全員揃ってるな。って、Cチームは第三種待機だから寝てたのは俺たちAチームだけか。」
出航から2週間経った頃から、第三種警戒態勢へと移行していた。第三種は次番の警戒のみ、つまり、何か起きればすぐに駆け付けられる状態を保てば良いので、各々自由時間となっている。
「小天体への衝突と連絡は受けているが、詳細は不明だ。AチームCチームは外板のチェック、Bチーム隔壁内部をチェックしてくれ。振り分けは各リーダーに任せる。以上、解散!」
30人の職人達に指示を出し、俺とユージは船首付近のチェックに向かった。
「こりゃ酷いな…当たり所と相対速度が良かったんだろうな。大惨事一歩手前だぜ。」
極小天体が衝突したのであろう箇所は大きく凹んでいる。補強リブが真裏に通っていたようで、貫通する事なく済んでいるようだ。
「Aチームリーダーユタカより連絡。衝突箇所を目視確認。外板の破れは無いものの、取り替えの必要あり。」CICに連絡すると、ジュンからの個人回線が開く。
「お疲れ様、通常航行には支障ない感じか?」
「おいおい、業務連絡なんだからそんなフランクで良いのか?通常航行には支障無いだろうけど、切った貼ったするから2チーム態勢で1日って所かな。」
「堅いのは苦手だからな。んじゃ、その間はジャンプ出来ないから、俺も久々手伝いに行くよ。」
「お前艦長だろ?遊んでて良いのかよ?」
「視察視察。昔取った杵柄、衰えて無いか腕試しさ」
「って、お前電気屋やってたの二年くらいじゃねーか」
ブリーフィングルームへと戻り、Bチームと合流し、Bチームリーダーに内部の状況を聞く。
「中もボッコリ逝ってますね。縦リブは破断寸前、横リブもちょっと曲がってます。ダイヤフラムは躱してたんで、3メートル位切れば行けると思いますよ。」
凹んだ周囲を切り取り、その部分を作り変える事に決まった。そろそろ交代の時間だ。Bチームから引き継ぎし、ACチームで作業に当たる。
Bチームに予備部材の切り出しと加工を指示し、Aチームは破損箇所の切断へと向かう。
「それにしても、破損の割には衝撃は少なかったな。」
「私、大きな音苦手なんですよ。ビックリして飛び起きましたよ。」
「ワタシが説明するよ!これもGコンのお陰よ。衝突の衝撃も慣性なわけだからね!」
いつものように、トモが割り込む。
「Gコンって凄いけど、バリアー的な事は出来ないんだな。」と笑うと、トモは不機嫌そうに
「い、今は出来ないだけよ!研究が進めばもっと凄い機能くらい付けれるわよ!」
突っ込まれて苛立ったのか、頬を膨らませたトモは回線を切った。
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