短距離跳躍
「総員に告ぐ。これより本艦は短距離跳躍を行う。全員のバイタルチェックは随時行われているが、ワープアウト後に具合の悪くなった者は医療班へ報告するように。以上。」
いよいよワープを行うらしい。全員第一種警戒態勢のままその時を待つ。
オペレーターの声が船内に響く。
「ワープ開始まで、Tマイナス60、59、58…」
ブリーフィングルームの職人達は、若干顔が強張っている。
「私、お腹痛くなってきちゃいましたよ。」
ユージはお腹を抑え、冷や汗を流す。
「…Tマイナス20。ワームホール接続開始。」
「座標固定完了。5、4、3、2、1、ジャンプ」
地球低軌道上、観測船サンフラワー。
「ザターンワープまで30秒。重力変動を確認。磁力線、ガンマ線、光波異常無し。」
観測船サンフラワーは、ザターンから50kmの位置から観測を行っている。その他にも凡そ50隻の観測船、100機以上の衛星がモニタリングしている。
地上からの観測も同時に行われているが、極秘事項の為、一般人には知らされていない。
全長911mの船体がブレるように見えた。次の瞬間、まるでゴムを伸ばすかの如く先端が伸びて行く。その方向は冥王星方面であり、先に行くほど速く細く船体が伸びる。
「ザターンワープ5秒前3、2、1、0」
その瞬間、まるで伸ばしたゴムが縮むかの如く、伸びたザターンの先端が戻って来る。その刹那、水風船に針を刺したスロー映像のように、ザターンは消えていった。
ザターンのあった場所はキラキラと光り、それはまるで冬のダイヤモンドダストのようであった。
「ザターンワープ完了。冥王星観測艦から入電。ザターンのワープアウトを確認。タイムスケジュールはプラスマイナスゼロ秒。」
ザターンは1秒のズレも無く、正に瞬間移動を行った様子である。
一方船内では。
「3、2、1、ジャンプ」
その瞬間、辺りは光に包まれ…ない。
「成功したのか?何も変化ないぞ??おいユージ、何か変化あったか?」
「私お腹痛いですよ。トイレに行っても良いですかね?」
艦内放送が響く。
「総員に告ぐ。本艦は冥王星宙域へのジャンプアウトに成功した。観測船からの報告によると、タイムスケジュールはプラスマイナスゼロ。成功だ。総員、第一種警戒態勢のまま待機。各部署マニュアルに従い点検せよ。以上。」
「成功したらしいぜ。それにしても、艦内はドラマティックな演出もなにも変化ないもんだな」
余りの変化の無さに、呆気に取られる。
「おっと、全員で船外調査しないとな。AチームとBチームは船外に出て外装のチェックを行ってくれ。Cチームは内部構造変化のチェックだ。センサーでの異常は見られないが、目視及び打鍵にてチェックするように。ご安全に!」
何故だか俺が総指揮を任されている。恐らくジュンの独断だろう。
Gコンで制御されている為、船外活動でも命綱やスラスターは必要無い。船体全てが床の様に歩けるからだ。
一通りのチェックが済んだが、各部以上無し。
俺たち修理工は今の所、全く活躍の場が無い訳だが、日当は出る。大きくは稼げないが飢える事も無い。
ザターンは全てのチェックを終え、長距離跳躍の準備に入った。長距離とは言え、一回のジャンプで飛べるのは1光年くらいらしく、目的地までは400回以上のジャンプが必要だ。
一回ジャンプする毎に4時間はチャージが必要らしく、最短でも70日ほど掛かるらしい。
俺たちの仕事はいつ来るのだろうか…
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