地球に向けて
「私、レンズ磨きは好きですよ。」
「俺達は電気屋なの!とは言っても、与えられる仕事をこなすのもプロの仕事、苦手苦手言ってちゃ仕事来なくなるぞ?」
「ユタカさん、苦手とは言って無いじゃないですか!」
「あれ?そう言えばそうか。ユージは苦手な事しか無いからな!」
「酷いですよユタカさん…」
地球に向け、巡航速度に入ったザターンは順調な航海をしていた。
俺達に与えられた仕事は、光学式レーザーのレンズ磨き。時折、極小浮遊石の衝突はあるが、外板は傷一つ着く事は無い。
つまり、電気屋の仕事はまだ無いって事だ。
だが、仕事が無いからと休む事は出来ない。雑用でも仕事は仕事。お金を稼ぐのは大変だ。
「レンズが終わったら艦橋の窓履きだな。」
10人組のAチームの棒芯となった俺は、他のメンバーに指示を出す。
皆ベテランの修理工だ。数年ぶりに顔を合わせた鍛冶屋や、何度もチームを組んでいる電気屋など、ほぼ知った顔だった。
「所でユタカさん、地球方面に向かってますけど、地球に降りるんですか?」
「違うみたいだな。何でも、STTエンジンだっけ?あれのワープ試験があって、地球圏から観測するらしいよ。」
「成る程ですね。あとどれくらいで地球ですかね?」
「普通の船なら一週間かな?この船のスペック忘れたの?」
ユージとの通信に、強制割り込み回線が開き、ホログラムが映し出される。
「説明するわね。通常の高速船であれば、逆噴射を行いながら月を使って減速スイングバイを行い、地球圏に入るの。でも、この船にはGコンが搭載されているのよ?20%から地球低軌道でピタリと止まれるわけね。到着はあと7時間後って所かしら。」トモの声だ。
「私、トモさん苦手なんですよ。直ぐに通信に割り込んでびっくりしますからね。」
「まっ、俺は慣れたかな。」と俺は笑う。
「ワタシは皆んなの疑問に対し、説明しているだけよ。分からない事があれば何でも聞いてね。」と、トモはドヤ顔で胸を張る。
支給されたホロウォッチは、乗員の声やバイタルを常に記録している。全くプライバシーが無いように思われるが、自室内に限り音声記録は中断される。
何気無い会話や仕事の打ち合わせ中、質問が出た瞬間にトモは突然割り込んで来る。一度、UNKNOWNの装備について雑談中に割り込んで、危うく口を滑らせそうになり、アツシ提督から強制切断の上説教をされていた。
ちょっと間抜けなマッドサイエンティスト。それが皆んなの共通認識であった。
Bチームに引き継ぎが終わり、自室でシャワーを浴びる。Gコンによる1G環境の最大の恩恵は、毎日シャワーが浴びれる事かも知れない。
船内放送が鳴り、アツシ提督の声が響く。
「総員に告ぐ。本艦はこれより地球圏へと突入する。各員は所定の配置に着け。」
「本艦は地球低軌道で停止後、冥王星宙域へと短距離ワープ試験を行う。第一種警戒態勢で待機せよ。以上。」
第一種警戒態勢。つまり、全員持ち場について待機してろって事だ。ユージと合流して格納庫の隣にある修理工ブリーフィングルームへと向かった。
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