36話 下 ヘリの中で
俺はベランダから縄梯子が垂れ下がっているのを何の感情も無く登り屋上に着く。
そこにはエンジンを切ったヘリコプターが屋上に着陸し待っていた。
俺は当たり前に思った。
『まあ、そうだよな・・・。』
ヘリの騒音って相当、五月蝿い。ヘリが動いている場合大声を出して喋らないと言葉なんて伝わらないのが普通である。
で、思う。確かにクラスでの会話は大声のやり取りでなかったな。
通常の声音でことが成った。
うん、俺もまだまだ若いなぁ・・・・。
俺は感慨に耽りながら、ヘリの降板へ足を向けた。
途中ヘリの降板側に立っている3曹の階級所をつけた自衛官が俺に敬礼し、無線でやり取りをしていた。
その会話には、もう1人(山田一尉以外で)ヘリに乗るといっている人間がいるとだけ聞こえたが、一体誰が来るって? まさか、今回の責任を感じて担任が来るのか? 何て思いつつ、もあることに気がついたため、意識がそちらに向けられた。
良く考えてくれ、専用のヘリポートならいざ知らず学校の屋上(ウチ、基本立ち入り禁止だからフェンスに予算をかけてはいない。)はへリポート専用でもないから大丈夫なのかが心配である。
崩れたりしないよな。
一応恐怖から、近くに有ったパラシュートを手繰り寄せ確りとシートベルトを腰に巻こうとしたら話しかけられた。
「軍曹。お久しぶりです」
そんな嬉しそうな声音が聞こえてくるから、声の方に顔を向けるとパイロット席から専用のヘルメットをしサングラスをしている男がいた。
俺は数秒黙り、顔の輪郭から思い当たる人を思い出す。
そう、この人は・・・・
「牡鹿3尉です。っと、いっても今は昇進して2尉になりましたが」
パイロットは女にモテそうな素敵笑顔を俺に振りまいてきやがる。
だが、俺にそんな趣味はねぇ。
だから、俺は、
「ああ、お久しぶりですね。生きていられたんですね」
「あはははは、軍曹、今日は何だか棘がありますね。如何したんですか?」
「色々あったんだよ、ふん」
「そうなんですね。全て無線で知ってましたけど」
「おいっ!」
瞬発力を発揮させて結構な声量でツッコミを入れてしまった。
「あははははは。まあそんな事は置いておいて」
「いや、置くなよ」
「後ろ、2人目が着ましたよ。」
俺の突っ込みを軽く受け流し、何故か厭らしい笑みで俺を見てから後ろの降板を見る牡鹿2尉。
その顔にさらにイラつきつつも、気になるので見てみると、さっき俺に告って振ったご婦人が・・・女性が外に居た自衛官にエスコートされてヘリに乗ってきた。
えっ!? 何があったの一体? と考えるのはおかしいだろうか。
でも、彼女は俺に臆する事無く近づいてきて、当たり前のように俺の隣に座るのだった。
俺は彼女から身体を少し離し凝視していると、
「龍様、そんなに見られると恥ずかしいですわ」
頬を染め、手で押さえ恥ずかしがる顔を隠そうとする。
俺は混乱して、パイロット席の年上の先輩を見るとニヤニヤしてこっちを見ているクソ野郎を見つけた。
よし、お前今すぐ面に出ろやっ! と睨むと、うそ臭そうに「ああ、そうだそうだ。新しいマニュアル読まなきゃ~」と間抜けな声を出して近くにあった、確実に3年くらい使われているマニュアルを開いて前に引っ込みやがった。
ジーッと俺はパイロットを睨むが、こっちを見る気配がないので俺は隣を見ることにした。
そして、気まずさが俺を苛める為に要らぬ事を聞いてしまう。
「・・・・いや・・・俺、さっき・・・君を振ったよね・・・・・?」
何で、そんな事出来るの? と疑問にも思ってしまったことを聞くと、後ろから(パイロット席から)深い残念な気持ちが満載な溜息がこれ見よがしに聞こえてきて、俺は今とても不快な舌打ちを後ろに送っておく。
「・・・そうですわね。振られてしまいましたわね・・・・」
俺の言葉に少し悩むような表情を見せた彼女はそれでも改めて覚悟を決めた女の表情をしたかと思うと直ぐに砕けた笑顔を俺に向けて堂々と口を開いた。
「・・・でも、振られたからといって、嫌いにならなければならないというわけではありませんわ。
それに、龍様は先ほどからちゃんと私を女の子として見ている事が解かりますわ。
それは私に脈がないと言う話にはなりませんでしょう」
彼女は頬を又赤く染め、小さく俺に聞こえるように言うのだった。
「お気づきになられていないようですので言いますが、龍様のお顔赤くなってますわ」
・・・・・・・・・・・・・。
俺は一瞬思考が止まり、顔を抑える。
何気に火照っているの気がつき顔を覆う。
そう、事実俺は彼女が近づいてきて表情を見ていた。長いまつげ澄んだ蒼色の瞳、確実に日本人離れしている美しさ、さらにいうと先ほど泣かした俺が思うのはクソだと思うが潤んだ眼をしたこの女性に綺麗だと思ってしまった自分自身に自己嫌悪を覚えたほどだ。
俺は己の顔を、目を覆い彼女を見ないように後ろに顔を向ける。
その先には真面目にマニュアルを読むパイロットがおり、茶々を入れてこない。
俺は思う。
こういうときほど茶々を入れて、場を濁してくれよ。
そう思っていると、俺の右隣に柔らかい何かがふわっと寄って温かさと人の重みが乗ってくる。
彼女は優しく嬉しそうな笑みを浮かべて俺に全てを預けてきて来るのを指の隙間から見てしまうともう如何しようも出来なくなってしまった。
なぜ、何故・・・? さっきの教室でのように突き放せないのか、突き放せなくなってしまったのかを考える。
そして、直ぐに理解した。
振られたはずの彼女が当たり前に俺の隣に座った。
一切引くことも無く、堂々と、そして、マジマジ彼女を見、最後の優しく嬉しそうな笑みに俺はどうも遣られてしまったらしい。




