楓は学校に通うようです。
早朝・女子寮内部
「おい、起きろ明日香。遅刻してもいいのか」
「んん~あと五分……」
「そうか。今日の一コマ目の授業は、ヴァインハルト師のものだったな。聞いた話によれば、ヴァインハルト師は規則に厳しく、中でも遅刻は決して許さない人間だと言う。その事を知っているにも関わらずヴァインハルト師の授業に遅刻するということは、ある意味勇者に値する行為だ。称賛はするが、愚かなる行いだ」
私は面倒事は嫌いだ。先に行っておく。
それだけを言い残し、その場を去ろうとする楓の耳に飛び込んできたのは、布団が勢いよくはね飛ばされると同時に明日香が慌てて起き上がった音だった。
楓の言葉ですっかり目が覚めた明日香は、バタバタと慌ただしく朝の準備をする。
「遅刻だけは絶対やだぁ~!!!」
それだけはごめんだと体全体で表現しながら準備をしている明日香。
そんな彼女を、楓は毛繕いしながらのんきに眺めている。
それを横目で見た明日香は、楓に向かって愚痴をこぼす。
「もっと早く起こしてくれてもよかったのに。。」
「起こしたが。あと五分だなんだと言って起きなかったのも、時計のアラームを間違えたのも、お前の方だと思うのだが」
「へ?アラームを間違えた……?」
まさか。。そう思いながら、恐る恐る時計の時間を確認する。
只今の時刻、午前8時25分。
それに対して、授業が始まる時間は午前7時10分。
もう一度言おう。
授業が始まる時間は午前7時10分。
そして今現在の時刻は、8時25分。
・・・実に、一時間十五分の遅刻である。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
こうして、楓は初日の授業から大遅刻したのであった。。
2コマ目・教室内。
「おはよう、明日香さん。お寝坊さんですよ?次からは気を付けましょうね。それから、ピンク色の可愛い魔物さんは、先生のところまで来てくださいね。一緒に、自己紹介をしましょう」
にこやかな笑顔を浮かべながら二人に優しく話しかけたのは、2コマ目(魔法学)の授業を受け持っている教師、アマリスタ。
とても優しく生徒思いな教師であると共にその授業は面白く、生徒達から指示されている教師の一人である。
明日香は「ご、ごめんなさい。。」と素直に謝り、楓をアマリスタ師のもとまで連れていってから席についた。
隣の席に座っていた翔琉が、ヒソヒソ声で明日香に声をかける。
「よかったな、明日香。2コマ目がアマリスタ師で。ヴァインハルト師を宥めて下さったんだぞ?」
「そうなんだ。。あとでお礼言っておかなくちゃ」
「翔琉さん、明日香さん。今は授業中ですし、今から可愛らしい魔物さんが自己紹介をするので、ちょっとの間しぃ~っですよ?」
二人の声に気がついたアマリスタ師は二人に優しく注意すると、人差し指を口に当てた。
この可愛らしいしぐさも人気のひとつなのだが、その事を彼女は知るよしもない。
二人は素直にアマリスタ師に謝り、それと同時に(先生可愛いな~)と心のなかで呟いたのであった。
静かになった教室にうんうんと満足そうに頷いたアマリスタ師は、教壇の上に座らせていた楓を優しく抱き上げる。
そして、優しい声音で生徒達に話しかけ始めた。
「はぁーい、皆さん。前に注目してくださいね~。そうそう、ご協力ありがとう。はい、では皆さん。私が抱っこしているピンクの魔物さんに注目してくださいね」