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もふもふは正義。

楓が目を覚ますと、そこには異端の地が広がっていた。

現世にはなかった草花、現世にはいなかった動物などが存在する世界。

けれど、なぜだろうか。

初めてきた筈なのに、楓はこの地を懐かしいと感じていた。

そして、楓は懐かしさに引き寄せられるかのように、一歩歩き出そうとした。

が、そこで自分の体の異変に気がついた。

「・・・?」

足の感覚がない。

何か、別の物が蠢いている感覚がある。

その違和感がなんなのかを確かめようとするも、うまく首が動かず、そのままこてんと横に倒れてしまう。

なんとか立ち上がろうとするものの、やはり動かすことができない。

仕方がないため、楓はしばらくそのままの形でおとなしくしておくことにした。

とはいえ、このままなにもしないというのも退屈なことこの上無いので、自分の体のどの部分が動くのかを確かめてみることにした。

まずは顔。

「・・・」

目は動いた。

それから、口も。

鼻から息を吸おうとした結果、盛大にむせたがなんとか吸うことはできた。

辺りの音が聴こえていることと、景色が見えていることから、一応顔の機能は備わっていると言えよう。

次に、首を動かしてみる。

「・・・」

これは、動く気配がなかった。

どうやら、今の自分は人間とはほど遠い存在になっているようだ。

楓は、そう冷静に解釈した。

となれば。と次に動かしたのは、手。

「・・・」

成る程。小さそうだが、手はあるようだ。

それに、指先というものもこの生物には存在しているらしい。

足を動かしてみる。

「・・・」

やはり、足の感覚がない。

この生物には、足という概念ですらないというのだろうか。

最後に、先程感じた違和感のある場所。

「・・・おぉ」

何やら、この蠢く物体は、自由自在に動かせるらしい。

つい感嘆の声を発した楓は、(声も出るようだな)と思いつつ、物体を体に巻き付けてみたり、ピンと伸ばしてみたりなどして遊び始める。

しばらくそうやって遊んでいると、何者かの声が聞こえてきた。

「・・・な、何。。これ……」

何者かは第一声にそんな問いかけを発し、楓を見下ろしてきた。

この世界においての学生だと思われるその人物は、じろじろと楓を見つめてくる。

流石に女性の体をそこまでみるものではないだろうと思った楓は、その人物に声をかける。

「・・・おい」

「ぎゃあ!!しゃべった!?」

大袈裟すぎるほどの反応を見せるその人物に、楓は話しかけ続ける。

「いくらお前が私と同姓とはいえ、人の体をじろじろと見つめられるというのは、いささか不愉快というものなのだが」

「ご、ごごごごめんなさい!!」

すかさず謝罪したその人物、もとい女性は、楓に質問を投げ掛けてきた。

・・・この女性、肝は座っているらしい。

「ね、ねえ?貴女は女の子?なんだよね。どうして、魔物が人の言葉を話せてるの。。?それに、貴女は何て言う魔物なの?みたことない・・・」

「ああ、女だが。そんなこと、私に聞かれても答えに苦しむ。まず、自分が魔物であることすら、ついさっき知ったばかりだ。お前が知らないことを、なぜ今しがた生まれたばかりの私が知っていようというのだ」

楓がそう言うと、女性は半泣きになった。

(何この魔物。怖い……)

楓は半泣きとなっている女性のことなど気に求めず、また自由自在に動く物体を体に巻き付けて遊び始める。

しばらくそうやって遊んでいた楓の前に、また新たな人物がやって来た。

「おーい、明日香~!んなとこでなにやってんだー?」

声からして男であろうその人物が、明日香と呼ばれた女性のもとへと走ってくる。

「あ、翔琉……」

「なーにまた半泣きになってんだよ?ブッサイクな顔がもっとブッサイクになんぞ?」

ブサイクブサイクと連呼しているが、頭を撫でているため仲が悪いわけではないようだ。

寧ろ、仲の良い方だろう。

よしよしと頭を撫でてやっていた翔琉と呼ばれた男性は、楓の存在に今しがた気づいたらしい。

「うわ!なんだこれ!?」

そう言いつつ、翔琉は楓の体をいとも簡単に抱き上げた。

「か、翔琉!?どんな魔物かも分からないのに、触ったらダメだって!!」

あわてふためく明日香とは裏腹に、翔琉は嬉しそうに楓の毛をもふもふし、その柔らかさを堪能している。

この状況に一番驚いたのは、何を隠そう楓自身である。

生まれてこのかた、男子に包容されたことなどなきに等しい。

強いていうならば、父親くらいだ。

なのに、今楓は見知らぬ男子に抱き締められているどころか、もふられているのだ。

パニックに陥らない方がおかしい。

とはいえ、やはり噛み付くのは遠慮したい。

そのため、楓は精一杯の力で翔琉の腕から脱出することにした。

その結果・・・

「なにこいつ、超可愛い!前足パタパタしてっし、尻尾巻き付けてきてるし!よーしよしよしよし。嬉しいんだな、もっとやってやるよ!」

楓の必死の抵抗は、逆に翔琉の行動に拍車をかける結果となった。

やがて、無駄だと判断した楓は、抵抗するのをやめた。

翔琉の好きなようにさせることにしたらしく、おとなしくその腕の中に収まる。

もともと、彼女は無駄なことはしない主義なのだ。


しばらく好き勝手にもふもふを堪能していた翔琉は、おろおろしている明日香に満面の笑みを浮かべながら話しかけた。

「明日香、こいつ学長のとこ連れてこうぜ!なんて魔物かわかるかもだろ?で、その後俺が飼う!」

「えええ!?や、やめたほうがいいって!学長に見せるのは賛成するけど、ペットにするのは絶対反対!大体、そのこメスだし、喋れるんだよ!?」

「は?喋れるわけねーじゃんwほら、こいつぐっすり寝てるし」

「ふぁ!?」

明日香が慌てて覗き込んでみると、確かに腕の中にいる魔物はぐっすり眠りこけていた。

くぷー くぷーという、愛らしい寝息が聞こえてくる。

明日香は頭にはてなマークを浮かべる。

(あれ?私、幻覚でも見てたのかな・・・)

考え込む明日香に、すでに学校に向けて歩き出していた翔琉が声をかける。

「おーい明日香~、放ってくぞ~」

「え、あ!ま、待ってよぉ~~!!」

明日香は考えを一時的に放棄し、慌てて翔琉の後を追いかけた・・・。


セントラーザ学園・学長室。

「セントラーザ学長、二学年・阿川翔琉あがわ かける)です。入ってよろしいでしょうか?」

「同じく、二学年・尾崎明日香おざき あすか)です」

「お入りなさい」

豪華な扉で閉ざされた部屋の中から、重々しい声が聞こえてくる。

翔琉がドアノブに手を掛け、扉を開ける。

中は扉同様豪華な作りになっており、珍しい異国の品々が所是ましと並んでいる。

その奥にある机に向かって座っているのは、この学園の建設者であるセントラーザ・アクシオ。

彼女は女性の身でありながら知力に長けており、知力と培った経験のみでここまでのしあがってきた強者だ。

且つ、彼女は元冒険者でもあり、様々な土地を旅して回ったと共に数えきれないほどの魔物を倒してきた実力者でもある。

少し初老に近づき、顔にはある程度シワが出てきているものの、彼女は美しい。

それもあって、彼女を慕う者や好意を寄せる者が数多く存在する。

のだが、そんな彼女にはひとつだけ、問題点がある。

それは・・・

「失礼します。あの、少しお話が……」

「なら、勝手に話なさい。見て分かるように、私は今、忙しいのです。手短に話なさい」

そう、彼女は性格が極めて悪いのであった。

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