異世界において、神に問う。
「ああ、君が転生者である、楓だね」
突如として背後から聞こえてきた見知らぬ声に、楓は驚きもせず振り返る。
そこに立っていたのは、どこか懐かしい雰囲気を身に纏った男性。
美しくも神々しさが見え隠れしている男性をしばらく眺め、楓はこうきりだした。
「・・・お前が、この世界において神と呼ばれる生命か」
その言葉に、男性は目を丸くした。
そして、何故か肩を震わせながら笑いだした。
「くっはははっ」
「・・・」
怒りもせずに突然笑いだした男性を、楓はジト目で見つめる。
思う存分笑った男性は、やっと笑うのをやめ、懐かしそうな表情で楓をみた。
相変わらずジト目を続けている楓に、男性は小さく呟く。
「懐かしいな。楓は、何処に住もうと楓ということか。。」
男性の言葉が聞こえたらしく、楓の眉が少し動いた。
「なに、その言い方。お前は、私を知っているとでも」
探るように問いかけてくる楓に対し、男性は優しく言い聞かせる。
「楓。君はまだ、知らなくて良い。悪いことは言わない、忘れなさい。その時が来れば、自ずとわかることなのだから」
男性はそう言い、楓の頭を慣れた手つきで撫でた。
ふふく不服そうな楓に、男性は話題を変えるかのようにこうきりだした。
「ところで楓。君は、何に転生したいんだ?君が望むものに転生させよう。人間、魔物、勇者、魔王、魔神、国王、王妃、姫、神。。なんでも、望むものに転生できるんだ、君は。何が良い?何として、生きていきたいんだ?」
「・・・チートと特別な存在ではないもの」
むすっとしながらそう言いきる楓に、男性は不思議そうな顔をする。
どうして、特別な存在になりたくないんだい?
彼の顔が、そう告げていた。
楓はため息をひとつつき、めんどくさそうに演説を始めた。
「この世に生きるものは一部を除いて、皆平等だ。死ねばその存在は抹消され、その者の記憶は欠片ほども残りはしない。それは人間の終わりであり、この世の理なのだ。私はそれに背き、無様な姿を晒し、生き恥を晒している者を幾度となく見てきた。そして、それらが失敗する様も。皆、この世の理に反した結果だ。私は、理に反したりはしない。これを受け入れ、それに恥じない生き方をする。それが一番美しい生き方ではないだろうか?だからこそ、私は」
初めはめんどくさそうに話していた楓であったが、話しているうちに熱が入ったのだろう、だんだん演説化してきている。
止まらなくなりそうな楓の口を手で押さえ、男性は楓の暴走をいち早く止める。
「分かったよ。なら、君の望んだ通りのものに、転生させるとしよう。さあ、そろそろ行きなさい。新たな世界で、今度こそ幸せになるんだ。・・・私は、いつでも君を見守っているよ。機会があれば、また逢おう。私の愛する者よ」
それだけを言い、男性は有無も言わせず楓を異世界へと送り込んだ。
楓を送り終えた男性は、ふうと長い溜め息をついた。
転生する前にみた楓の不安げな瞳が、脳裏をよぎる。
「・・・せめて、あの娘が望んでくれれば。。」
可愛い愛し子を想い、男性は辛そうに顔を歪める。
彼女が望んでさえくれれば、男性は楓を自分と同じ、神に転生させようと思っていた。
そうすれば、自分のそばにおいてやり、面倒を見ることが出来たのに。
しかし、結果として彼女が選んだのは、現世で抱え込んでしまった、歪んだ考え。
このまま放っておけば、あちら側の思う壺。
やはり、あのときなんとしてでも止めておけばよかったのだ。
そうすれば、こんな思いをせずにすんだのだから。
が、いくら後悔しても後の祭り。
この事実は、変わりようのないことなのだから。
それをわかっているからこそ、彼は祈りを捧げる。
「・・・私、イルスラータの名に置いて、あの愛し子を護りたまえや。あの娘に、我等十の守護神の加護を与えらんことを……」