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砕勇の勇者  作者: 光露
16/16

後始末

走り回った師がようやくコタツで一息つき、くつろぎ始めた頃に、モゾモゾとようやく這い出して参りましたどうも作者こうろです。


再び更新に長い期間を空けてしまったことをお詫び申し上げます。


次いで、あけましておめでとうございます。


今年こそ「なろう」を頑張…りたいと思いますので、よろしくお願いします。

街道沿いの木々はすっかり黄色や赤に彩られ、その色づきはまさに紅葉真っ盛りと言った具合だった。天は突き抜ける程に高く、東にから昇りつつある太陽が昨夜降った雨の滴を輝かせ、弱々しい日光は辺りを柔らかく照らしている。その光景は一枚の絵にでも残しておきたい程だ、…俺に絵の才能は全く無いが。


因みに、無用な知識ではあるのだろうけれど、紅葉というものは朝晩の寒暖の差が激しい程に綺麗に色づくらしい。つまり、何を言いたいのかと言うと、


「ふ……ふぇっきし!……あー寒」


秋、それも雨上がりの夜明けは体感的に相当寒い。血濡れになって着れなくなった上着は宿に放置してきたため、今は只の部屋着みたいな姿で、長袖ではあるものの温かくはない。こちらの世界に来てから埋め込まれた魔力という概念も、昨日の一件で流れが悪く、おかげで体の調子もそんなに良くない。日本にいた頃の軽くて温かかったジャンパーの類いがどれだけ優れものだったかが物理的に身にしみる。


「そもそもこっちの世界は寒過ぎるな」


『あれか、やっぱり地球温暖化か』などとやくたいも無いことを呟きながら、冷たい朝霧の中を手をポケットに突っ込んで、普段以上に人通りが多くなっている町の郊外への道を歩いていく。色彩豊かな景色を楽しみながらゆっくりと歩いていると、反対側からやってきた人たちから口々に声をかけられる。そのほとんどが「ありがとう」や「助かりました」などの感謝の言葉だ。ここで謙遜しても意味は無いので、俺はそれらに「力になれてよかったです」などと無難な返事を返していく。…一部の人たちは、血にまみれながらも鬼気とした姿で戦った俺を遠巻きに見ていたが、それもまぁ仕方ないことだと思う。それでも意外なことに、大半の子供たちにはあまり怖がられていない、キルク達が何か言ってくれているのかもしれないな。


「はぁ……、まぁ、良かったかな」


満足感をそのまま吐き出すと、目の前にぶわっと白い息が広がる。この世界に来てからと言うものの半ば義務的にやらされていた人助けだが、こうしてお礼を言われると、やはりやってよかったなと思える。見捨てるのとか、関係ないから放置っていうのはやっぱり性に合わない。力を持たされているならば尚更だ。…過信とか、何でもかんでもやるっていうのは問題だけどな。


そんなことを考えていると、不意に後ろから声が掛けられた。


「おはようございます、由人様」


「うん?ああ、エミナさんか。おはようございます」


突然かけられた声に振り替えれば、ふんわりと温かそうな服装の上に、ストールを羽織ったエミナが立っていた。


「この度は町を救っていただき、誠にありがとうございました」


そう言ってスカートを指先で摘まみ、優雅なお辞儀を見せるエミナに俺は少し戸惑う。しっかりした対応など一冒険者である俺にしていいものでは…ってもうばれてるからいいのか。でも、なんというか据わりが悪い。


「いや、そんなに畏まられても困るというか…。人目を集めるので出来れば止めてもらえないかな?」


「これは失礼しました。しかし、ここでは人の目もありますし、対外的にも英雄様として活躍して頂いたのですから……ね?」


なるほど、一応の国の英雄に対して町のまとめ役の娘が砕けた態度をとるのもなかなか無理がある話か。ただ、最後の辺りで完全に子供の様なキラキラとした笑顔を向けてきているのが何とも言えない。


「それもそうなんだろうけど…、ところで何でここへ?」


こちら側へ彼女が来るのは、もう少し後のことになるはずだと思うのだが。


「いえ、今回の報酬の品物が出来上がりましたので早急にそれをお届けしようと思いまして。ここへ来る前、先に宿屋の方へ伺ったのですが、すれ違ってしまったようでしたので。女将さんから宿屋から伺って、こちらの方に」


「それはとても有難いけど、こんな朝早く来ることも無かっただろうに」


「でも、由人様は早急にこちらが必要でしたよね?」


イタズラっぽく微笑んでこちらを見るエミナは、その瞳を期待で輝かせて見上げてくる。が、気が利いているというか利きすぎているというか、判断に迷うくらいのエミナにこちらとしては苦笑いを返すしかない。


「こっちに戻ってきたときには、土産話の1つや2つくらいをしに来るよ…」


それを聞くとエミナは本当に嬉しそうに微笑み、うきうきしたようすで丁寧に布に包まれたそれを中から取りだす。『結構急いだんですよ?』といいながら彼女に取り出されたそれは、皮で作られた中くらいの上品な肩掛けバック。中央付近に複雑な模様があるのを除けば一見すると普通のバックだが、紛れもなくこれ一つが今回の報酬だ。


「ふーん、これが空間魔法が付加エンチャントされたバックねぇ、見た目はそんなに変わんないんだな」


「はい、魔法の付加自体は使用する皮や色付けの塗料を媒体にし、それを貴重な植物で編み上げた魔法陣で発動させているのでそこまで『らしい』物では無いですね」


そう、これが今回の報酬、魔鞄マジックバックだ。中入る容量は見た目に反してそれなりに大きいのだが、入れれば入れるほど持ち主から魔力を吸い取るという性質を持つ道具だ。その性質故、素人が持つと魔力の枯渇で大事に至る可能性があり、そもそも貴重な素材を使うので普通はめったに手に入れることのできない代物である。ちなみに、これらを使う商人たちは長距離を大量の荷物を入れて行動するため、普通の人より生命力から魔力生成へと多くの力を使う体質に変化していくため、戦士ほどでは無くとも体調を崩さぬよう体を鍛える人達が多いそうだ。これ、豆知な。


「う、なんだか小難しそうな気配がする…。そうか…そんなにやることが多いのか……ちょっと興味あったけど…やめようかな」


うへっと苦い顔をする俺に、エミナはクスッと浮かべた笑いを右手で隠し、続ける。


「これだけ条件を揃える必要があるのは、空間という高度な事象を扱うこのバックが特異なだけで、普通の道具は触媒に彫り込むだけで完成するのが多いのですよ?」


「ん?そうなのか?」


「ええ、例えばいつも使うようなもの、水道や魔石灯もそのような物の一つですね、ほとんどを魔法陣で処理してしまうので余り材料の事は考えなくていいのです。それこそ、最も単純な魔方陣ならばどんなものにでも書けるくらいなんですよ?反対に由人様のお持ちの剣、神華の剣は魔鞄と同じく触媒の組み合わせやその材質からきっちりと調整の必要な品物に当たります。極稀な例としては、うちで扱う商品の中に蔦を編みこんで魔法陣を形作り、それに文字を書き入れてアクセサリーとした珍しい物もありますが」


「ほおぉ…」


スラスラと淀みなく説明するエミナに、気付けば俺は真剣に聞き入っていた。しかし、ふと我に返り、自分だけが話し続けていたことに気付いたのか、エミナは急速に頬をかあぁっと赤く染め、肩を縮こまらせる。


「す、すみません。私だけ喋り続けてしまって」


「いやいや、いいよ。それに、結構面白かったし」


すっかり畏まってしまったエミナに素直な感想を返したのだが、「そ、それはよかったです」と言って彼女はますます縮こまってしまった。得意な分野で素を出してしまったのがそんなに恥ずかしかったのだろうか。



ちなみに、さっきから話に出ている魔方陣などといういかにもな単語は、この世界での『付与魔法』という生き物が扱う魔法とはまた少し違った魔法の事である。生き物がそれぞれ己の体を大雑把な式として魔法を使っているとしたら、付与魔法はそれを外側に書き出す魔法の事である。これには方陣の書き方や、触媒と魔法の相性など色々な知識が必要になる。その代わりにまず使い手を選ばない、魔力消費が少ない、発現する事象が大きいなどの良いことが上げられる。ただしデリケートな物なので、実用的なレベルで描ける描き手がそもそも少なく、実戦で即興で描ける人なんて一握りだ。そんな人がいればそのチームの切り札になるだろう。まぁ、戦いで使えるレベルの道具は高いのでそうそう買えないし、描ける人もほとんどは工房に籠りきりだろうけどな。



閑話休題。




「そ、そう言えば由人様は何故こちらの方へいらっしゃったのですか?作業を手伝って頂けるのは助かりますが、昨夜は限界まで体を酷使されたようですしお休みになった方がよろしいのでは?」


会話の流れを断ち切るように少し勢い良くエミナはそう話すが、未だ赤い顔には純粋に心配そうな表情を浮かべていた。


「んー、何と言えば良いかなぁ…。まぁ強いて言えば、ケジメをつけにかな」


「え?」


「ハハハ、たぶん村の人も扱いに困ってるだろうしね。あ、出来ればバックをもう少しだけ持っていてもらえないかな?」


「もちろん良いですけれど…」


「ありがとね、それじゃあ行こうか」


何が何だか分からないと言った様子のエミナに笑いかけ、俺はあえて内容を伝えずに歩き出す。



教えない意味?特にないかな。





歩き出して幾ばくかすれば、村の郊外で人が集まり、せわしなく動いているのが見えてくる。しかしその中にはうずくまって全く動か無い人もあちこちに見られる。が、近くを動く人達はそれを全く咎めること無く、逆に悲しみや哀れみの視線を向けている。そこから少し離れた場所では更に多くの人が動き回り、数人ごとに行き来しては赤い山を更に高くしている。


片方は昨夜の戦闘で出た死者の遺体を運ぶ人たちとその遺族、もう片方はその原因であった魔物たちのなれの果てだ。



「…何人だっけ」


「二十三人だそうです…」


「そっか…」


凄惨な光景を前にして呟いた俺の言葉に、エミナは何をとは聞かず、察しのいい彼女は端的に数字だけを告げる。その際、気遣わしげな表情を浮かべたが俺は薄く笑って返す。


もう、こういうのは見慣れてしまった。今更揺れることは無いし、自分を責めるような愚かなことはしない。


出来ることはまだあったかもしれない、結果を見れば自分の出来たことを完璧にこなせなかったかもしれない。でも、それはかもしれないだ。万が一の可能性を掴めなかったことに反省や後悔もあるが、それでも結果を知らない自分はもう一度同じ道を歩くだろうと思うくらいには必死に押し通った道だ。だから、しない。何よりも万が一を掴めなかった彼らの全力を否定しないためにも。


…結局は自己満足の話だけどな。



咽び泣く声があちこちから聴こえる中、一同に集められた死者達の前に膝をつき、手を合わせてただ拝む。この世界の形式とは違うが、俺にとっての弔いの仕方はこれだ。少しばかり回りから奇異の目線を集めるが、それでも姿勢は崩さずに拝み続ける。この世界の神様とは違う道だけれど、もしこの人たちが道をそれたら役に立てれば良いなと思いながら。


「あ、あの…ユート、由人様ですか?」


目をつむって手を合わせ続ける俺の背後へ、不意に声がかけられた。


「そうですけど…何か?」


目を開け、立ち上がって振り替えれば後ろにいたのは見覚えのない人。


「あ、あれをどうすればいいのか教えてもらえますか?」


しかし、彼が後ろへ指差したものには酷く覚えがあるものだった。


「ああ、安心してください。僕はあれを片付けるために来ましたので。あと、大変ならば魔物の死骸を焼くのも手伝いますよ」


彼の後ろにあったのは昨日相対した敵、イーハの死体と、持ち主死してなお周りを侵食しようとする薄赤に染まった布に包まれた彼女のナイフだった。


笑いかけてそう告げる俺に、それを聞いた彼は深い安堵の息をつき、


「お、お願いします」


申し訳なさそうにそう言った。






右手に魔力を込め、燃え盛る炎をイメージしながらぶつけてやれば、それだけで空に立ち上るほどの火の手が上がり、辺りに油と肉の焼ける臭いがたちこめる。


それだけで周りの人たちから「おぉ…」というざわめきが生まれる。生き物を焼くというのは意外と大変な事だ。それは魔法が使えるこの世界でも変わらず、魔力効率の悪い創造魔法ではそれは顕著なことだ。実際に使っている魔法は違うのだが、それでもこうして一気に焼けるのはそれだけで凄い事なのだろう。


徐々に安定した強さへと収まっていく炎により、血みどろの色から焼け焦げて黒くなっていく死骸たちを横目に見ながら俺はその場を離れる。火付けさえ終われば後は問題ないだろう。


一仕事終え、一息つく村人達の間をすり抜け、村の人達のお墓があるよりも更にその向こう、外壁近くの木陰の下に作られた墓の近くに腰を下ろす。


「殺し合った相手の墓を作るっていうのはどっちの世界でも普通では無いんだろうけどな」


近くの土に一粒の種を植え付け、魔力を流し込んでやればそれだけで種は立派な植物へと成長し、薄紫の厳かな花を咲かせる。


「なんか…な、本気で殺しに来たとは思えないんだよなぁ」


一手一手は確実に殺意を感じるものだったが、そのまわりくどい様子はどこか引っ掛かりを覚えるものだった。だからなんだと言われれば俺は返す言葉は無いのだが。


ただなんとなく、一人の人間として埋めてやろうと思っただけだ。今までの人達と同じように。村の人たちに反対されればそれもしていなかったが、幸い皆少しだけ渋い顔をするだけだった。


手を合わせることはしない。その代わりに少しだけ、じっと木で作った簡素な墓をただ眺める。ヒョウッと吹いた秋風が木の葉と花を揺らし、色々と動いたことで温まっていた体の熱を少し持っていく。ブルッと身震いをし、立ち上がれば登り始めた太陽の光が僅かながらに体を温めてくれる。


「もう、およろしいのですか?」


「ん、これでいい」


後ろからかけられたエミナの声に返し、振り返ってみれば彼女は不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。


「やっぱり変かな?」


「いえ、処刑されるような犯罪者も最後はきちんと埋葬されるそうですし、決して変なことでは無いかと」


「そうか…、それもそうだよな」



ならば前と変わらないか。



「さて、帰ろうか。っと忘れてた」


少しだけ晴れた気分で、さぁ帰ろうと思ったところで一つ忘れ物を思い出した。それは墓の前に刺されていて、巻き付く蔦で少しボロく見えるナイフ。イーハの遺品のナイフだ。


「それはどうするのですか?」


プチプチと侵食で薄く色づいた巻き付く蔦を引きちぎり地面から引き抜いたナイフを、予備の鞘に入れてベルトにくくりつけたのを不安そうに見ていたエミナに何でも無いと笑って返す。


「出来るならマジックイータで抑えておけばいいと思ってたんだけどねぇ、どうにも無理そうだから俺が持ってくことにするよ。今なら自分の力で押さえ付けるくらいならできるからさ」


何の害もないとばかりに取り出したナイフをしっかりと握って軽くふるって見せる。少しだけ妙な圧力があることを除けば大したことはない。無論切られたときに感じたような何かに侵入されている感覚もない。


「ほらほら、早く帰ろうぜ」


寒そうな素振りをみせ、早くと帰るのを促せば、本当に何もないことを感じてくれたらしい。顔を明るくしたエミナを連れて家までの道を歩き出す。



「……じゃあな」



最後に少しだけ振り返って墓へ一言告げる。



木陰に隠れ、誰にも弔われないであろう墓は、ただ静かにそこに建っていた。







…その後宿屋へ帰った俺と、家に戻ったエミナが鞄のことで「あ…」と間の抜けた声を上げたのは、ほぼ同時刻のことであった。

何を思ったかこんなものも書き始めています。が、小説は趣味であるゆえにこちらも超不定期です。『それでもいいや、暇だし』というかたはこちらもどうぞ。


RPG・ロールプレイ


http://ncode.syosetu.com/n2029do/

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