壊した夢
あ、どうもお久しぶりです。
今回、サブタイに合わせるためかなり短いです。
あと、タイトルを変更いたしました。始める時にノリでつけてしまったヤツなので今になって急遽変更です。最悪またこれがしっくりこなかったら再び変更の可能性もあるのでご了承ください。
滅多に更新しないけれど、暇なら見てくれると嬉しいです。
激しい光で塗りつぶされた真っ白な光の中を当ても無くただ歩いて進んでいく。周りを手で探ろうにもそこには何もなく、意味も無いことは俺のどこかが知っている。
どれだけ歩いたのだろうか。時間の長短すら分からない。が、何の前触れも無く急激に視界が染められる。
遠くには高い城壁があり、周りにはレンガなどの石を基礎として建てられた立派な家々。その周りには住人であったであろう人々が逃げまどい、避難誘導や魔物と相対する兵士の怒号と住人たちの悲鳴がまじりあっている。
そして目の前にはボロボロに使い潰された巨大な斧を振り回す牛人が、逃げ遅れて一人うずくまる少年に目を留めた。表情を絶望に染め、ガチガチと歯を鳴らす少年。それをミンチにすべく走り出すミノタウロスを追い越すべく走り出す。
それに気付いた複数の兵士の足音を背後に聞きながら、今にも振り下ろされそうな凶刃から少年を救うべく足元の石畳を砕きながら全力で少年に飛びついた。
背後で石畳が砕かれる音が鳴り、続けて兵士たちの雄叫びが響く。ひとまずは救えたと安堵し、きつく抱きしめていた少年を離す。その顔は何が何だか分からない。という顔で固まっていて、安心させようと呼びかけてみるが、反応が無い。
何かがおかしいと思った。
だから、心臓の音を確かめてみた。
そこに望んだ音は…
無かった
あぁ……ああ…………。
再び白く塗られる視界、それは先ほどより短い時間で戻ってきた。
空一面を埋め尽くしている雲からは朝からシトシトと雨が降り続け、只でさえ寒い外気とともに体温を急激に持っていき、剣を構える手の感覚を遠ざける。しかし寒さに震えそうになる体は、体にのしかかる重圧で動くことは無い。
目の前には十人ほどが並べられ、この寒空の上半身は何も着ず、下半身にはボロボロのズボンを着せられるのみ。その上、手首には魔石を使用した特別な手錠をはめられ、後ろに組まれている。彼ら皆、体のどこかには複雑な輝きを放つ結晶があり、その大きさはまちまちである。それが示すことはただ1つ、彼らが皆魔族であるということだ。共に壇上の上であり、彼らは皆一様にうつむき、その後ろでいつもとは違う黒い鋼の剣を構える。
仲の良い近衛騎士団長に視線を送るが、彼は悔しそうな顔で首を振り、見知った顔の警備兵たちからも悔しそうな表情でこちらを見ている。
壇上の前、市民たちの中でもそんな視線、訝しげな視線もいくつか見受けられるが、それらは少数派で、大半は期待に満ちた目でこちらを見ている。
こんな状況になってしまった事を、口を小さく動かし、目の前のリーダー格の男と少しだけやり取りをする。そして、彼の最期の言葉を聞き、剣を高らかに掲げる。
王が、ニタリと口元をゆがめる中。
その首を…
刎ねた。
ああぁぁ………あああぁ……。
そこで再び視界が白で塗り飛ばされる。が、今度はフラッシュのようにすぐに色が戻ってきた。
暗い村の中、血で赤く染まる裾を振り乱しながら舞う女性と剣を交え、互いに傷を重ねていく。そしてその最後には…。
彼女の得物で
彼女の首を刎ねた
なのにその表情は安らかで、何か言われた気がして。その言葉が信じられなくて。
「ああああああぁぁ……ぁぁぁああああ‼」
一定を超えた感情の高ぶりで、俺は夢の中から這い出すように跳び起きる。息は若干荒く乱れ額には粘つくような冷たい汗、体も同様の汗でじっとりと濡れている。そこでようやく先程の声が自分のものだったことを理解する。霞む視界をはっきりさせようと伸ばした指に雫が触れ、首元を触れば汗とは違う何かが数滴落ちた跡があった。
「悪役倒して泣くヒーローだなんてかっこ悪ぃや」
そう呟いても、目尻からとめどなく流れる涙は勢いを止める気配は無い。何度こすってもまたすぐに視界を埋めてしまう。
人を殺した
夢で見たあの時も、夜はこうして泣いていた。理由なんてとても一言では言えないし、拙い俺の言葉で表しきれもしないと思う。
しかし今回は今までとは状況が違う。彼女は明確に敵で、こちらも町の人は幾人か死んでいる。間違いなくこちらに非は無く、向こうが悪だといってもいいほどだったと思う。それこそおとぎ話の勇者達のように明確な正義だったはずだ。それでもこうして泣くのは何故だ。何かを守ることでここでの居場所を見出していた故になのか、単純に人の死が見たくないだけなのか。今まで城の兵士たちが死んで泣いたこともあったけれど、それとはまた何か違う気も…。
何かに気付いている気はすするけれど、分からない。ならば、今は理屈は置いておき、自分の感覚を信じてただ死を悼もうと思う。
きっと今のこれはどこか間違えているし、正しくは無いけど、正しい答えは後で見つければいいんだと自分を納得させる。
すると、思いの外感情はスルッと収まり、涙も乾いていく。暗がりだけを見据えていた視界も、部屋に差し込む薄明かりに気が付く位には。窓の外はだんだんと月明かりから日の光へ変わりつつ、空は薄く赤焼けている。薄明かりに照らされ出した町並みには、無理に早起きをしたのであろう、目元に隈を作ってあくびをしながら今から復旧作業に向かうような人達が方々へ歩いていく。動き出した町から目を離し、俺も動き出すためにベッドから起き出す。町の人を手伝う訳ではなく、いち早くここから出るために。
ベッドから降りようとすると不意に服に引っ掛かりを覚えた。視線を下ろせばそこにあったのは白く滑らかな指、更に視線で辿ってゆけば、無防備に寝顔をさらして眠るフリアがいた。
「そう言えば昨日寝落ちたんだっけな」
正確に言えば寝落とされたというべきか、あの至極暴力的な治療でそのまま意識を飛ばされたのだから。その後、一晩一緒に寝ていた事に何か思わないでもないけれど、ここまであどけない寝顔を見てしまえば何でもない。
「ま、疲れたんだろうなぁ」
こぼれる苦笑はそのままに、つまむように掴んでいた指をフリアを起こさないように優しく外して、そっと腕をベッドの上に下ろす。
「まぁ、これからはもう少し楽しくやっていける…いや、やっていこう」
そう1人呟いて静かにドアから出ていく。
幸いにも空は高く、青い。