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迷宮都市のアンティークショップ  作者: 大場鳩太郎
第二話 迷宮都市の祝祭
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刺繍の施された麻布(未鑑定)③


『侏儒のハンカチーフ』の支払いを済ませ、蚤市を離れ、人の少ない通りに移動してからも、問答は解決しなかった。

 リンネと、背の低い子は未だ睨み合いを続けている。


「さっさとその品を渡して下さい!」

「はあ? 意味わかんないんだけど!」

「扱える者がいない以上、権利はこちらにあるはずです!」

「お金が足りなかった人が偉そうに言う権利なんてないと思うけど?」


 というように喧々諤々と言い争っている次第だ。

 お互い一歩も譲ろうとする様子がない。


「……う~ん」


 ソアラは手のなかのハンカチにしてはやや大きい麻布を持て余しながら考える。


 地下迷宮以外の場所では余程のことがない限り、物事は平和的に解決したい。

 故に事の成り行きを見守っているしかないだろう。


「……えっと、何かごめん」

「……こっちこそ、すいません」


 フードの子が苦笑しながら、そう返してくれる。

 見た目に怖そうな印象のあった彼女だったが、性格は温厚なようだ。


「普段、リンネはああじゃないんだけど」

「ホオズキはいつもああ。本当は悪い子じゃないんだけど」


 此方の子とはまともな話ができそうだ。

 何と無く共通点も多い気がして、親近感も沸いてきた。


「僕はソアラ」

「私、ベアトリス」


 別に確信があったわけではない。

 ただ何と無くそんな気がして、尋ねずにはいられなかった。


「そっちも探索者……だよね?」

「うん、私は盗賊。あっちは修道女だよ」

「僕は剣士で、彼女は魔術師なんだ」

「同い年くらいの女の子の探索者なんてあんまりいないよね?」

「わかる。えっと……ベアトリスさん他に仲間は?」

「ベアトリスでいいよ。探し途中。でもなかなか見つからなくて」

「……」


 何たる僥倖だ。

 この出会いに比べたら、言い争いの種になっている付与道具など取るに足らない。

 いやその問題すら、一瞬で解決できてしまえる。


「ねえ……その例えばなんだけど」

「多分、同じことを考えてる」


 ソアラとベアトリスはお互いに頷き合った。


「不足分は調達するつもりでした! それを貴女が強引に手に入れたんじゃないですか! 使えないものを買うなんて嫌がらせです!」

「人聞き悪すぎ! こっちだって使える人を後から見つけるつもりだったもん!」


 それから未だ口論を続けている二人に恐る恐る声をかける。


「……あの二人共?」

「その、解決策を考えたんだけどさ」

「何よ」何ですっ?」

「僕らが仲間になっちゃうのはどうかな?」


 その言葉で、二人はキョトンとした顔になった。



「……反対です」


 そう言ったのはホオズキただ一人だった。

 彼女は何が気に食わないのか腕組みをしてそっぽを向いている。


「何でさ?」


 ベアトリスは問うた。

 もしかしてソアラたちと仲間になることが、どういう事なのか理解できていないのだろうか。

 

「仲間になれば『侏儒のハンカチーフ』の費用も――」

「折半で済むでしょうね」


 彼女もそれは分かっているようだ。


「何より職業もばらばらだから―――」

「役割分担ができるバランスのいいパーティになるでしょう」

「これ以上の案はないと思うけど……」

「確かに悪くない考えです。でも却下です」


 ホオズキは冷ややかな口調でそう断言した。


 一体何が不満なのだろう。

 もしかして先程までの言い争いを根に持っているのだろうか、とベアトリスは思った。

 だが――。


「百歩譲ってこっちの口うるさい魔術師の子は構わないです。でもこちらの剣士さんとは仲間になれません」


 ホオズキが指差したのは、意外にもソアラの方だった。


「え……僕?」

「申し訳ありませんが貴方です」


 理由が分からず困惑しているのはベアトリスだけではない。


「ソアラちゃんのどこが悪いわけ?」

「そうだよ全然分からないよ」

「剣士だからです」


 ホオズキはそう言った。


「剣士は前衛職。前面で、仲間を守る壁になる役目。それがこんな小娘さんでは話になりません」


 そして彼女はこれ以上、議論の余地はないとばかりに、再びそっぽを向いてしまう。


「……」


 これに対してソアラは何も言い返しはしなかった。

 代わりに爆発したのは眼鏡の魔術師の子だ。


「っっっっっっ完全に頭にきた。自分だって小娘の癖に。もういい。私、こんな嫌な子と組みたくない。行こうソアラちゃん」

「ちょっとリンネ」

「待って下さい」


 その場を立ち去ろうとした二人を引き止めたのはホオズキだった。

 眼鏡の子が振り返り、物凄い目つきで睨んでくる。


「何よ。まだいちゃもんつけたいわけ?」

「『侏儒のハンカチーフ』を置いていって下さい」

「は? お金がない癖に何を――」


 ホオズキは両手を突きだした。

 その手には彼女の財布と、見覚えのあるものが握られている。

 古ぼけた燭台だ。


「所持金の二万ゲルンとこれを差し上げます。この付与道具を売れば一万二千になるでしょう」

「……」

「これで文句ないですね?」


 ホオズキは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、そう言った。



次回更新は17日(土)の予定です。

清書の後、残り三話を土日にアップしようかと思います。

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