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迷宮都市のアンティークショップ  作者: 大場鳩太郎
第二話 迷宮都市の祝祭
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刺繍の施された麻布(未鑑定)①

「やあ『古き良き魔術師(オールド)たちの時代グッド)』へようこそ。

もしダンジョンから持ち帰った未鑑定アイテムが御座いましたら是非、お立ち寄り下さい。

細剣、薬瓶、長盾、指輪、帽子、書物、革靴、御札、どんなモノでもすぐに鑑定いたします。

……おや。貴方の手にされているそのアイテムも付与道具かもしれませんよ?」

「ソアラちゃんソアラちゃん!」


 地下迷宮ダンジョン七階。通称『貸し倉庫(トランクルーム)』。

 ドアばかりが並ぶ回廊の奥から自分を呼ぶ声が聞こえた。

 突き当たりにある半壊したドアの向こうで相棒のリンネが蹲っている。床に落ちていた何かを拾っているようだ。


「ドロップアイテム発見したよ!」

「おっ貸して貸して」


 リンネから受け取り、古びた鞘を抜いてみる。

 抜き放った剣身は、微かな錆もなく、艶やかな光を放っている。剣の良し悪しなど覚えのないソアラでも、良いものだと判った。


「うーん業物っぽいかも」

「どうするどうする拾っちゃう?」


 ドロップアイテム――地下迷宮の至る場所に散らばっている小道具たち。

 靴やら防具やら薬やら用途不明な品々が無秩序に存在しており、なかには古き良き大昔に造られた希少な魔導具なども眠っていた。


 そしてソアラのような探索者にとって、それらを拾い集め、売りさばくことが生業だった。


「うーん、でもなあ」


 ソアラは足元の背嚢に目を落とした。

 だが既に様々な道具が詰め込まれ、ぱんぱんに膨れ上がっている。

 今回は予想外に収穫があり、相方の荷物も似たような状態だ。


「荷物、減らせないかな」

「ちょっと待ってて……えーと(ロープ照明ランタンは捨てれるでしょう」


 確かに後はもう地上に帰るだけだ。

 開拓済みの安全な経路を辿れば、それらは必要がないのかもしれない。


「携帯食料は今、全部食べちゃおう」


 確かここから地上まで最短経路でいけば、徒歩で丸一日。

 その間、ダイエットのつもりで我慢すれば何とかなるだろう。


「常備薬も、もう要らないかなー」


 躊躇なく言い切る相棒に、一抹の不安を覚える。

 だが入ってるのは『傷薬』と『毒消し』の魔法薬だけなのでなくても多分困らないかもしれない。

 罠にだけ注意すれば大丈夫なはず。


「それから、いざという時の為のあれやこれやも、どーん」


 荷物を容赦なく軽くしていくリンネ。

 その姿に、一抹の不安が湧いてくるのは気のせいだろうか。


「……えーと大丈夫?」

「平気平気。後は帰るだけだもん」

「そ、そう。じゃあ捨てようか」


 勢いに押されて、ついGOサインを出してしまった。


 だが気づいていない。

 誰しも部屋の片づけで不要物を捨て始めるとテンションが上がり、判断力を欠いたまま何でもかんでも捨てたくなってくる事がある。

 言うまでもなく、今のリンネそれだったのである。



「いやいや全然駄目だろう」


 あまりの無謀っぷりに、アネモネは呆れ返っていた。


 全身甲冑の彼女は今日も元気だ。

 フリルエプロンを纏い、給仕をこなしながら、後輩たちの土産話に耳を傾けている。

 無論、『古き良き魔術師たちの時代』は飲食店ではなく付与道具店であるのだが、本人がサービスの一環だと言うので仕方がない。


「死ぬかと思ったー。パンが美味しいよう」

「生きてて良かったよう。スープが美味しいよう」


 カウンターでは後輩たち――ソアラとリンネが泣きながらレーズンパンとポタージュスープを頬張っていた。

 元々、アネモネと自分の朝食になる予定のものだったが、数日間も飲まず食わずだった者たちを放って置くわけにもいくまい。


 彼女たちは『ドロップアイテム』惜しさに、探索で必要な道具や食料を捨てた挙句、何度も窮地に陥ったらしい。生還できただけでも奇蹟である。


「無茶無理無謀は禁物だとあれ程言ったじゃないか」


 アネモネがぷんすかと怒りながら、甲斐甲斐しく世話を焼いている。

 食後の飲み物はいつものカフェラテのようだ。

 その姿は先輩探索者というよりは母親のようでもある。


「良さそうなアイテムだったから、つい」

「もし付与道具だったらって思うと、つい」

「ガラクタの為に命を落とすかもしれないんだぞ。誘惑は断ち切れ。地下迷宮において水、食料、光源は、宝石よりも価値のあるものと知るべしだ」


 アネモネが厳めしく格言めいた事を口にする。


「でもまあアネモネさんの現役時代に比べたら、だいぶまとも」

「ギロ」

「ごほん。無謀な行動は控えた方が良いでしょう」


 兜の奥の鋭い眼光で睨まれたので、咳払いで誤魔化した。


「あっ店長さん?」

「いつの間にいたんですか?」


 ソアラとリンネがさらっと酷いことを言ってくる。

 彼女たちが持ち帰ってきたドロップアイテムを早々に鑑定し終えて、ずっとコーヒーを啜っていたのだが気付かれなかったようだ。


「店長は存在感が薄いからな」


 同居人ですら、この扱いなのはどうだろう。


「それで結果はどうだったんだ?」

「なかなかの収穫でしたね。二人ともそろそろ探索者が板についてきようです」

「「いえーい!!」」


 ハイタッチをしてはしゃぐ二人。


 結果とは、彼女たちが持ち込んだドロップアイテムの鑑定結果の事だ。

 地下迷宮で手に入れた道具は、何もしなければ用途不明のまま。とりわけ魔術由来の品に関しては、フジワラのような専門家の『鑑定』が必要となるだ。


「待て待て二人共、油断すると足元を掬われるぞ。店長もうかつに褒めたりしたらダメだ。それでなくても今回は危なかったんだからな」


 アネモネにそう言われ、ソアラとリンネはしゅんとなる。

「御免なさい」「気をつけます」と項垂れているし、今回の件で、身をもって反省しているだろう。


「だが確かに『アイテムの取捨選択』は、確かに探索者の命題でもある」

「その場で鑑定できるのが一番なんですが」

「ベテランであれば銘とか形状、材質なんかで『簡易鑑定』するそうだぞ」

「アネモネさんも『簡易鑑定』できるの?」

「食材の判別ならできるぞ」

「私も腐ってるやつは匂いですぐ分かるよ。だからお腹壊したことないよ」

「僕は腐ってても、よっぽどじゃなきゃ食べれる」

「偉いぞ。どちらも探索者として大事なスキルのひとつだ」


 いや果たして、それはスキルと言えるのだろうか。


「あーあ。もっと荷物が持てるようになりたいな」

「『魔法の鞄』が欲しい」


『魔法の鞄』とは付与道具のひとつだ。

 内部の空間が拡張されており、大量の荷物を持ち運びできる鞄である。

 その機能から、探索者垂涎の品なのは言うまでもないが、希少さと高額さからベテランでもなかなか手が届かない。

 二人にはまだまだ早いだろう。


「それなら『侏儒のハンカチーフ』がお勧めですね」


 フジワラは付与道具店の店主として、そう提案してみる。


「どんなアイテムですか?」

「可愛い名前だね」

「見た目は至って普通のハンカチです」


 フジワラはまずポケットからハンカチを取り出し、次に近くにあったバスケットから林檎を手にしてみせた。


「でもこれに魔力を込めると、あら不思議」


 ハンカチで包んだ林檎を、ぱっと消して見せる。


「触れたものが小さくなるのです。無論、魔法の鞄ほどの容量はありませんが、まだ入れ易い価格なので、初心者から中級者向きの品です」

「へえ」「それ良さそう」

「はて、うちの店にそんな品があったかな?」

「いえこれはただの手品。現在、在庫は品切れ中です」

「ないのかー」

「なんだー」

「がっかりだな」


 三人はがっくりと肩を落とした。

 期待させてしまい申し訳ない。


「でも後数日すれば露天商が増えるでしょうから、蚤の市広場辺りをうろつけば、きっと見つかるでしょう」

「そういえばもう、そんな時期だな」

「ふふふ、この時期は美味しい屋台も出回るんだよねえ」

「何かあるんですか?」


 ソアラが一人だけ首を傾げている。

 そういえば彼女は迷宮都市を訪れてまだ一年足らず。

 迷宮都市の五年に一度の祝祭について知らないのは無理もないことだ。


「「謝肉祭(カーニヴァル)だぞ!」だよ!」


 アネモネとリンネが嬉しそうにそう言った。


お久しぶりです。

尺は六話分。ちょい長めです。

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