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迷宮都市のアンティークショップ  作者: 大場鳩太郎
断章
60/74

いぶし銀の腕輪(未鑑定)①

「やあ『古き良き魔術師(オールド)たちの時代グッド)』へようこそ。

もしダンジョンから持ち帰った未鑑定アイテムが御座いましたら是非、お立ち寄り下さい。

細剣、薬瓶、長盾、指輪、帽子、書物、革靴、御札、どんなモノでもすぐに鑑定いたします。

……おや。貴方の手にされているそのアイテムも付与道具かもしれませんよ?」

 やあどうもそこの人。


 どうやら道に迷っちまったみたいなんだ。

 行き先はこっちでいいのかな?

 おう、案内してくれるのか。すまないね。


 ……うん? 

 あんたとはどこかで会った気がするな。

 そうか。昔の知り合いのあいつに似ているのか。


 あいつってのはマーヴェルって、おれの友人だ。 

 どんな奴か興味がある?

 じゃあ歩きながらそいつの昔話でもしようか。


 マーヴェルとは幼なじみだった。

 生まれも育ちも同じ村で、もうひとりアナってのと三人で、いつも遊んでた。

 村の子供が少ないせいもあったけどさ、自然と馬があって何するんでもつるんでたよ。


 だから迷宮都市で探索者やるって言った時も当然のようについていった。

 まさかアナまでついて来るなんて思わなかったけどな。

 だがマーヴェルに言わせれば『二人がついて来るなんて思わなかった』って事らしい。

 とにかくそれくらい仲がよかったんだ。


 探索は結構順調だったよ。

 ダンジョンでは潜る度に、それまで見たことも、聞いたこともないような体験をして楽しかった。

 そりゃあ危険なこともたくさんあったけど、でも結果的にはうまくいってたし、手にした収穫は満足のいくものだった。

 おまけに地上に戻ったら戻ったで酒場でお祭り騒ぎ。

 期待の駆け出しルーキーなんて言われててさ。

 毎日が輝いてたよ。


 でもある日、突然日そうじゃなくなった。

 この商売じゃよくある話だけど、死人が出たのさ。


 わりと有名な話だけれど、ダンジョンの地下十二階の下りの階段をいくと、ダンジョンは地獄に変わる。

 途端に難易度が上がって、化け物みたいなモンスターや、あっさり死んじまうような罠があちこちに出てくるんだ。

 熟練ベテランだって後込みするような危険地帯で、本来駆け出しなんかが探索に行くような場所じゃないんだ。


 でも俺たちはちょっと調子に乗っていた。

 だからちょっとそこまで覗きに行ってみようって話になった。

 言い出したのは主導者リーダーのマーヴェルで、アナはまだ早いんじゃないかって乗り気じゃなかった。

 成り行き、決断はおれに委ねられた。


 本心はアナに賛成だった。

 まだ早過ぎるだろと思ってた。

 装備やアイテムの準備が足りなかったし、潜るならもっと情報を集めておくべきだったし、僧侶くらいは連れて行きたいと思ってた。


 でも『覗きに行くくらいならまあいいじゃん』て言っちまった。


 ……何でかって?

 多分、見栄だろうな。

 マーヴェルに臆病者って思われたくなかった。

 やつには引け目があったんだ。


 あいつは本当に凄い奴だった。

 ルーズなところが玉にきずだけど、腕っ節も強い。

 頭も働く。ここぞって時の決断力もある。人付き合いもよくて、気難しい先輩探索者ともすぐに打ち解ける。

 そして誰より勇敢だった。

 どんな難題にも果敢に向かっていく。

 見上げるほど大きくて、凶暴を絵に書いたようなモンスターに躊躇なく斬り込んで倒しちまう。


 おれはやつに憧れてた。

 同い年の一緒に育ったのに頭一つ抜けた勇ましいマーヴェル。

 おれの自慢の友だち。

 周囲からも一目置かれている特別な存在。


 でもだからこそ嫉妬していた。

 心のなかでは、あいつには負けたくない。

 あいつみたいに活躍したい。

 いつかマーヴェルを越えるまではいかなくとも、堂々と肩を並べて共に戦えるくらい、勇敢で強い戦士になるんだ。

 そう思ってた。

 あの時まで。


 ちょっと覗くだけだったはずの地下十三階で迷子になった。

 敵が出てこないからって、マッピングもろくにせずうろうろと歩きわるだなんて、今思えば正気の沙汰じゃない。

 本当にどうかしてたんだと思う。

 

 突然、襲ってきたのは黒妖犬の集団だ。

 二、三十匹はいた。

 気づいたときには暗がりのあちこちからギラギラした目がこちらを見ていて、取り囲まれていた。

 勿論、その時のおれたちにどうにかできる相手じゃなかった。


 最初に動いたのはやっぱりマーヴェルだった。

 剣を抜いて駆け出しながら『逃げるぞ』って叫んだ。

 おれとアナは慌てて、その後に続いた。


 死に物狂いで突破口を開くと、走った。

 走って走ってひたすら走った。

 カンテラの明かりだけを頼りに、暗がりのなかを駆ける。

 途中、転びそうになったり、石壁に身体をぶつけたりもしたけれど、背中の方で荒い獣の吐息が聞こえてくると必死で速度を上げた。

 足を緩めるような真似をしたら一巻の終わりだと思ったんだ。

 

 ようやく上りの階段を見つけて、おれは安堵した。

 ここまでくれば助かるぞと思った。

 でもふと気づくと足音が一つ減っているんだ。

 アナの手はおれが引いていた。

 消えていたのは先頭を走っていたはずのマーヴェルだった。


 立ち止まり、振り返る。

 かなり後ろの方で誰かが戦っている物音が響いていた。

『逃げろ』ってマーヴェルの声が聞こえてきた。

『おれは大丈夫だ。すぐ合流するから、さっさと逃げろ』って。

 あいつは独りで敵を食い止めていたんだ。


 おれは迷った結果、言う通りにした。

 泣きながら助けに戻ろうとしたアナを、無理やり抱きかかえるとまた走り出した。

 おれたちがこのまま戻っても勝ち目はない。

 大丈夫。あいつなら、きっとうまくやる。そう彼女に言い聞かせながら、同時に自分を納得させていた。


 ……うん。言い訳はしない。

 おれはあいつを見捨てたんだ。


 それから何とか二人で地上に戻ると、マーヴェルの帰りを待った。

 何となく待っていれば戻ってくるような気がしてたけど、勿論、戻ってくるはずはなかった。


 百日が過ぎてマーヴェルが『未帰還者』扱いになって、数年経ってようやく諦めがついた頃、アナとの間に子供ができた。

 彼女との生活は幸せだった。

 でもすぐに別れることになったけどね。

 理由?

 アナに探索者なんか危険な仕事はもう止めてくれって何度もお願いされたんだよ。でもどうしてかそれに従うことができなかった。

 それだけだよ。


 ……それからどうなったか?


 それから色々あって、でもおれは探索者を続けて、今じゃパーティーの主導者だよ。

 なるつもりはなかったけど成り行きでね。

 でもその時に思ったんだ。

 マーヴェルみたいに強くないし、勇敢でもないけど、いざって時はあいつみたいに仲間を守れるようになろう、ってね。


 だからこの腕輪を買ってみた。

 ほら見てくれよ。

 いぶし銀のいい腕輪だろ。闇市ブラックマーケットで手に入れたんだ。

 こいつは『狂戦士ベルセルクの腕輪』っていってさ、理性や恐怖の感情と引換に、とんでもない力が手に入る付与道具なんだ。


 ついさっき仲間たちが全滅しそうだったからどんなものか試しに使ってみた。

 お陰で大鬼を独りで三体も仕留められたよ。

 まあ道具を使ったからズルかもしれないけどさ、仲間をちゃんを守る事ができたのは、おれにとっては快挙だ。

 例え死んじまったとしても満足してるんだ。


 だから、なあそんな悲しそうな顔すんなよマーヴェル?

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