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迷宮都市のアンティークショップ  作者: 大場鳩太郎
第一話 遠征事件
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水晶の小瓶(未鑑定)

「やあ『古き良き魔術師(オールド)たちの時代グッド)』へようこそ。

もしダンジョンから持ち帰った未鑑定アイテムが御座いましたら是非、お立ち寄り下さい。

細剣、薬瓶、長盾、指輪、帽子、書物、革靴、御札、どんなモノでもすぐに鑑定いたします。

……おや。貴方の手にされているそのアイテムも付与道具かもしれませんよ?」

 その日も探索を終えたアネモネは、付与道具専門店アンティークショップの『古き良き魔術師(オールド)たちの時代グッド)』を訪れていた。


 寄る辺のない彼女にとって、ここだけが安心して寛げる場所だったからだ。


「いい品を手に入れましたね」

 全身甲冑を脱ぎ捨て、店のソファを陣取りビスケットを頬張っていると、フジワラが声をかけてくる。


 どうやら鑑定が終了したらしい。

 彼は卓に水晶製の小瓶を置いた。

 それはアネモネがダンジョンで拾ってきたアイテムのひとつだ。ちょっとした魔法薬だろうとしか思っていなかったので、意外に思った。

 果たして、どんなアイテムだったのだろうか。


「さて、ここで問題です。これは一体何でしょう?」

「……何だそれは?」

「クイズです。もし正解すれば、この商品の鑑定料はただで構いませんよ?」

 フジワラが茶目っ気たっぷりにそう告げてくる。


 アネモネはなかなか面白そうな話だと思い、受けて立つことにした。


「ではヒントを三つ差し上げます」

 そう言ってフジワラは指を三本立てると、順に折っていく。

「その一に、とても高価な品です。その二に、ベテランの探索者勢なら一パーティーにつき一本は常備しています。その三に、勿体無くて、大抵、使いそびれます。以上です」


 アネモネは腕組みをして考えてみる。

 そもそも自分にはアイテムについての知識がない。

 魔法薬で知っているものは、治癒薬と解毒薬のような普段使うような身近なものか、有名なものがせいぜいだ。

 なので、そのなかで最も高価なものの名前を口にすることにした。


「答えは『霊薬エリクサー』だ」

「はい正解」


 フジワラは、にっこりと笑顔を浮かべて頷いた。


「ふん……くだらない問題だ」

 アネモネはわざとつまらなそうな顔をしてみせたが、内心では嬉しくてたまらなかった。


「霊薬は、深刻な外傷、状態異常を治癒し、疲弊した魔力と体力をたちどころに回復させる所謂、万能薬で有名ですね。それにとても希少で高価です」

「売ると幾らになる?」

「この品質だと……これくらいですね」


 フジワラが算盤を弾いて、教えてくれる。

 その金額は想像よりも少なかったが、決して端金ではなかった。

 ちょっとしたお宝といったところだろう。


「さてここで更に問題です。貴女はこの厄介な道具をどうしますか?」

「……どういう意味だ?」


 更なる質問にアネモネは首を傾げる。


「どうするかとは、このまま『所持品』にするか『売るか』という意味です」

「『厄介』の意味が分からない。毒が入っているわけでもないだろう」

「探索者たちの間に、霊薬にまつわる有名なことわざがあるのを御存知ですか?」


 アネモネは素直に首を横に振った。

 ある理由から、彼らの溜まり場である酒場には行くことがなかったので、彼らの文化には疎かった。


「それは『霊薬の持ち腐れ』と『屍鬼グールに霊薬』です」

「どういう意味だ?」

「前者は『霊薬』がとても便利な反面、希少で高価な為、勿体ながって使えないままでいる者を揶揄した言葉。そして後者は、結局使いどころを見極められずに死んでしまった者を揶揄した言葉です」


 その説明で、アネモネは霊薬の『厄介さ』を理解した。

 確かにこれはちょっとした難問だ。


『霊薬』は保険のようなものかもしれない。

 いざという時――怪我や毒などで死にかけるような危険な場面において、きっと役に立ってくれるだろうと思うと、持っているだけで心強い。


 反面、『勿体ない』という恐ろしい毒を持っているのだ。

 そのせいで使い所を決められないまま持ち腐れてしまえば、役に立たないのと同じだ。

 怪我をしてもまだ大丈夫と粘った挙句、判断を誤り死んでしまっては意味が無い。


 アネモネは暫くの間、この魔法薬をどう扱うべきか頭を悩ませた。


「……今回は売ろう」


 考えた結果、今自分にとって何よりも必要なのはお金だった。

 手持ちに余裕がなかったのだ。

 フジワラへの借金も返さなくてはいけないし、損傷の激しい全身甲冑を新調したいとも思っている。

 ならばそれが自分にとっては最善の手だったのだ。


「後悔しませんか?」

「ああ。代わりに治癒系の魔法薬をいくつか売って欲しい」

「成る程。それが貴女の『解答』ですね」


 フジワラはにっこり微笑むだけで、正否は告げてこない。

 そして霊薬を回収してカウンターへ戻っていった。


 使うか使わないか分からない、そして一度使えばなくなる最強の回復アイテムより、幾つもストックのあるそこそこの回復アイテムの方が使い勝手はいいはずだ。

 フジワラのことだから、きっと質のいい魔法薬を揃えてくれることだろう。


「……なあ?」

「何でしょう?」

「何故、君は道具だけではなく、探索者の薀蓄についても詳しいんだ?」


 フジワラは付与道具屋だ。

 だが彼はアイテムだけではなく、ベテランの探索者並みにダンジョンに精通している。

 経験に基づいた実用性の高い知識を持っているのだ。


 彼が色々と情報を授けてくれるおかげで、何度も命を助けられていたし、効率よくダンジョンを進めることができていた。

 アネモネは他人になど興味がなかったが、この不思議な青年の事だけは気になっていた。


「ではそれを次のクイズにしましょう」

 その返事に、アネモネはやれやれと肩を竦めてみせる。


 その殆どの時間を、過酷なダンジョンで孤独に過ごすアネモネにとって、フジワラとのお喋りは束の間の心休まる時間だった。



 鑑別証『霊薬(粗悪品)』

 所謂、最強の回復アイテムです。

『古き良き魔術師たちの時代』より遥か昔から、古今東西の魔術師たちが競うように品質を高めあってきた魔法薬です。

 その製造方法レシピは門外不出。

 一滴の雫を造る為に、希少な素材、莫大な時間と費用が必要になると言われております。


 現品は品質的にはあまり良くありませんが、侮る事なかれ、それでもその効果は、複数の良質な治癒系魔法薬を掛け合わせたものに匹敵するでしょう。

以上が、アネモネが初めて霊薬を手に入れた時の物語である。

彼女が、フジワラから霊薬を貰う事になる経緯についてはすでに語られている。



どもお久しぶりです。大場です。

暫く、連続投稿致します。


まだ第二部というよりはSS的な扱いですが、

いつもみたいな感じで気軽に読んで頂ければ宜しいかと。

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