いつか、星の海で
『あれとあれと、あの星をつなぐとさ、ほら、ちょっと竜の頭っぽく見えない?』
昔、旅先のロッジのバルコニーで。弟はまっ白な息を吐きながら天を指さして笑った。わたしはそれに肩をすくめて言い返した。
『君は今、オリオン座の三連星とおうし座のアルデバラン、それにエリダヌス座を“勝手に”つないで“勝手に”空想生物になぞらえたわけだね? ちなみにだけど「竜座」という星座は別途実在するからね』
『えー』
弟はぷっと頬をふくらませた。
あざとい。女としては残念なタイプのわたしより、その仕草はずっとかわいらしい。
『いいじゃん別に。星座だって、もともとはどっかの誰かが勝手につないで創ったんじゃん』
『それでも何千年と残り言い伝えられてきたのだから歴史の重みというものが』
『固っ! ねえちゃんてば頭固いよ! まだ若いのに!』
そんな風に方向性は正反対で、だけどわたしたち二人とも星空が好きだった。親があきれかえるくらい長いこと空を眺めていたこともしばしばだ。
いつか間近に星を見ることが二人の夢だった。できることなら、生を終えるその時も。
昨今では宇宙へ出るのも一般人に手が届かないほどのことではなく。だからきっと、いつかいっしょに行けるのだろうと信じていた。
ついこの間までは。
「いっしょにって、約束したのに。つれないなぁ君は」
流行になりかけていた“宇宙葬”を、政府が禁じたのは、少し前のことだった。理由は宇宙ゴミの増加を防ぐためだとか、ほかにもいくつか。ともかくそのせいで遠のいた。あの子の望みでわたしの望み。同じ願い。
『最期は星の海で永眠りたい』――
ただ、あの子の方がわたしよりずっと強い気持ちを持っていたのだろう。だから悲しくて、許せなかったのだろう。
だから……叶わなくなる前にと、逝ってしまったのだろう。
わたしはそんな風に考えることで自分を納得させようとした。小さな事故で、弟があっけなく帰らぬ人となってしまった、その事実を。
それにしてもずるいじゃないか。ひとりで夢を叶えるなんて。
ひとりで行ってしまうなんて。
わたしを残して。
明日、弟は星になる。
そしてわたしは。
わたしは――