第八話〔そんなお前だからいいんだ〕
Dear迅
突然いなくなってごめんなさい。でも、私の役目はここまでなの。
たった2日の関わりだったけれど、とても楽しかったわ。
あなたはもう一人でも戦っていける。
戦っていれば、戦友なんかもできるだろうし、時には辛いことも待っているかもしれない。
でもあなたには、それを乗り越える力があると私は思っているわ。
あまり長くなっても、読むの疲れるだろうし、ここらへんで終わります。
さようなら、迅。また会えたらいいね。
From美那
僕はクレイモヤの代金を払ってくれた女の人と、酒場のようなところに来ていた。
金融町にも、こんなところがあるなんて知らなかった。
なんせ、ここに来てから闘技場にしか訪れたことがないのだ。
女の人は酒を飲んでいる。僕はその隣で美那からの手紙を読んだ。
なんだよ、こんな。
あんまりじゃないか。
僕は胸にできたこのモヤモヤが何かわからなかった。
美那と知り合ってまだ2日だったのに、とても長く過ごした気がして、とても寂しくなった。
そういえば、美那の騎士力を聞くのを忘れた。
言技のことも知っていたし、僕をこの金融町へ導いた張本人だ。少なくとも、僕よりは上だろう。
「自己紹介が遅れたね。私は朝比奈玲音ってゆーんだ。よろしくな、迅君」
玲音さんは僕に握手を求めてきた。
僕は持っていた手紙をポケットに突っ込んで、その握手に応じる。
「僕は神埼迅です。玲音さん、何で僕のためにあんな大金を支払ってくれたんですか?」
僕が試合で折ってしまったあのクレイモヤ。
それを弁償してくれたのは、紛れもなくこの玲音さん。
初対面の僕にそんなことをするなんて、助けてもらっておいて悪いが、お人好しにもほどがあると思う。
「だからゆったやん。私はお前を気に入ったんやって」
アハハと笑いながら、酒を喉に流し込む。
そこらへんの男にも負けぬ、素晴らしい飲みっぷりだ。
玲音さんは大阪と名古屋のちょうど真ん中らへんの地域に生まれたらしい。
関西弁と名古屋弁が混ざってしまったり、その生まれた土地の方言も混ざったりで、玲音さん自身、これを何弁と呼んでいいのかわからないらしい。
歳は26歳で、身長は175センチ。モデルをやっているとか。
どおりでスタイルが良いわけだ。
「玲音さんの騎士力はいくつなんですか?」
「その玲音さんってのやめてくれへん?堅っ苦しいの嫌やからさ(笑)レオでいいよ、レオで」
「じゃあ...レオ」
僕にはお兄ちゃんもお姉ちゃんもいない。
だからこんな人がお姉ちゃんだったら、頼れるんだろうなと僕は思った。
「私は迅って呼ばせてもらうよ。それと、私の騎士力は11だ」
騎士力11。上から3番目の位。
レオは正真正銘の実力者だった。
美那に聞いたことだが、騎士力は大きく3つに分類されるらしい。
1から5までの無能力者。6から9までの言技使い。そして10から13の上級言技使い。
それほどの人だったらもしかしたら美那のことを知っているかもしれないと思い、僕はレオに聞いてみた。
「枢木美那?知らないなぁ...そんな名字滅多にいないし、見たことあったら覚えているはずだけど。力になれなくてごめんな」
「いえ、いいんです。僕が強くなれば、いつか会えるかもしれないんで。僕ががんばればいいんです」
レオはそんな僕を見て、フフっと笑った。
そして、お酒を一杯飲み、
「なぁ、迅。私と一緒に来ないか?」
と言った。
「どういうことですか?」
「私ならお前を強くすることができる。私はこう、なんて言っていいかわからないけど、お前に運命を感じた。といってもあれだぞ?赤い糸とかの運命じゃないぞ?純粋にお前の可能性を引き出したくなったんだ」
僕はとても照れた。こんなことを言われるのは生まれて初めてだ。
照れていたけれど、すごく嬉しかった。
こんな僕にも、ここまで言ってくれる人がいる。
こんな僕でも、やれることはまだたくさんある。
「僕で、いいんですか?」
「そんなお前だからいいんだ」
レオと僕は酒の勘定(もちろん僕はお酒を飲めないので水だ)を済まし、二人揃って酒場を出た。